事務所代表 高橋博
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相続判例全文7-不在者財産管理人の行為(名古屋高裁平成26年9月18日)

判例
(最高裁判所 裁判例情報より)

事件番号:平成26(ネ)148
事件名:貸金請求控訴事件
裁判年月日:平成26年9月18日
裁判所名・部:名古屋高等裁判所 民事第3部
結果:棄却

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人Aの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人A
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨

第2 事案の概要
1 本件は,(1) 被控訴人の父である亡Cが亡Bに金員を貸し付け,その弁済期が到来した後,亡Bが死亡し,亡Bの相続人である控訴人Aが相続を放棄したが,控訴人Aの相続放棄は無効であるとして,亡Cを相続した被控訴人が,控訴人Aに対し,金銭消費貸借契約に基づき貸金400万円の返還と,弁済期の後である平成14年10月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)上記相続放棄が有効であった場合に,亡Bの相続財産(以下「本件相続財産」という。)に対して,金銭消費貸借契約に基づき貸金400万円の返還と,弁済期の後である平成25年8月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,上記(1),(2) の各請求の同時審判を申し出た事案である。
原審が,被控訴人の控訴人Aに対する請求を認容し,本件相続財産に対する請求を棄却したため,控訴人Aが控訴した。
以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。なお,「被告A」は「控訴人A」と,「被告相続財産」は「本件相続財産」とそれぞれ読み替える。
2 前提事実
次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「1 前提事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決2頁18行目(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(1)イ)の「亡E」を「亡E+」に改める。
(2) 原判決2頁19行目(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(1)イ)の「配偶者であり」の次に「,N」を加える。
(3) 原判決2頁24行目から25行目にかけて(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(2))の「a市を離れた」を「a市を離れ,」に改める。
(4) 原判決3頁4行目(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(4)ア)の「亡E」を「亡E+」に改める。
(5) 原判決3頁7行目(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(5)ア)の「亡Bの」の次に「子であるNは,平成10年7月6日a家庭裁判所に相続放棄をする旨届け出て受理され,亡Bの」を加える。
(6) 原判決3頁17行目から19行目まで(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(7)本文全部)を,次のとおり改める。
「本件不在者財産管理人は,平成13年3月27日,特約事項として,売主の立場に立つ本件不在者財産管理人がa家庭裁判所より所有権移転の許可を得られた場合にこの売買契約は有効であり,万一許可が得られない場合は白紙解約とする旨を定めた上,Oとの間で,原判決別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を2200万円で売却する旨の売買契約を締結し,同年5月17日,亡Bの死亡による相続を原因とする控訴人Aに対する所有権移転登記手続を経て,同年6月5日,Oに売却した(以下「本件売却処分」という。)。
本件不在者財産管理人は,上記売買代金2200万円をもって,被相続人のP信用金庫に対する債務を弁済した。(以上,甲3,乙4の6の1及び2,弁論の全趣旨)」 (7) 原判決3頁21行目から24行目まで(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(8) 本文全部)を,次のとおり改める。
「亡Cは,平成14年10月頃,本件貸金400万円の返還と,訴状送達の日の翌日(平成14年10月20日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,控訴人A(法定代理人は本件不在者財産管理人)を被告として,a地方裁判所に提訴した。a地方裁判所は,平成15年3月28日,亡Cの請求を全て認容する判決をし,同判決は,同月29日,本件不在者財産管理人に送達され,確定した(以下,この判決を「前訴判決」という。甲1,乙イ4の2)。」
(8) 原判決4頁8行目(原判決「事実及び理由」欄の第2の1(12))の「亡Bの相続債権者」を「本件不在者財産管理人」に改める。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
次のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 争点」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,本件相続財産の主張部分は除く。)。
(1) 当審における控訴人Aの主張
ア 本件不在者財産管理人に単純承認を行う権限がなく,したがって本件売却処分の効力が控訴人Aに帰属しないこと
不在者財産管理人の権限は,民法103条所定の権限のみであり,その範囲を超える行為については家庭裁判所の許可が必要である(民法28条前段)。そして,不在者財産管理人制度は,不在者の利益擁護のための制度であることから,成年後見人のように包括的な権利を有さず,財産管理権があるにすぎないから,不在者財産管理人は,行使上の一身専属的で代理になじまない権利に関しては権限を有しない。
相続人の意思によって一応生じた相続の効果を否定する相続放棄は,行使上の一身専属的な権利であるため,不在者財産管理人は家庭裁判所の許可なくこれを行うことができないと解される。
同様に,相続人の意思によって一応生じた相続の効果の全部又は一部を確定させる相続承認もまた,行使上の一身専属的権利である点で相続放棄と異ならないのであるから,不在者財産管理人は家庭裁判所の許可なくして相続承認を行うことはできない。
そのため,不在者財産管理人が不在者のために相続承認を行う場合には,財産行為について家庭裁判所の権限外行為許可を受けていたとしても,これとは別に身分行為としての相続承認について家庭裁判所の権限外行為許可を得る必要がある。
本件売却処分は,亡Bの相続財産の一部の「処分」(民法921条1号)に当たるところ,本件不在者財産管理人は,本件売却処分という財産行為自体についてはa家庭裁判所の権限外行為許可を得たものの,身分行為としての相続承認について家庭裁判所の許可を得ていない。
したがって,本件不在者財産管理人の行った本件売却処分によっても控訴人Aに法定単純承認の効力は生じない。
なお,不在者財産管理人が不在者の相続の承認を行うには家庭裁判所の許可を不要とする見解はあるが,これは,相続の承認が通常価値増加的なものであることを理由とするものであり,本件売却処分が単純承認の効力を生じることによって亡Bの債務超過の状態を控訴人Aに引き継がせるという価値減少的な行為であることからすれば,本件売却処分は家庭裁判所の許可を要すると解するべきである。
イ 錯誤無効
仮に,不在者財産管理人が家庭裁判所の許可なくして相続承認ができるとしても,本件不在者財産管理人は,本件売却処分を行った平成13年5月当時,被控訴人の亡Bに対する本件貸金の存在を認識しておらず,亡Bの消極財産は,P信用金庫に対する債務のみであったと信じて本件売却処分を行ったものであり,亡Bの遺産の構成について錯誤に陥っていたといえる。そして,その錯誤は遺産内容の重要な部分に関するものであるといえ,法定単純承認の効力を伴う本件売却処分は錯誤により無効であるというべきである。
ウ  以上のとおり,本件売却処分の効力は控訴人Aに帰属せず,その結果,控訴人Aに法定単純承認の効果は生じない。そして,控訴人Aは,平成18年4月22日に本件貸金の存在を認識し,同年7月5日に本件相続放棄を行っているのであるから,本件相続放棄は有効である。
(2) 当審における被控訴人の主張
ア  民法921条1号の法定単純承認の効果は法律の規定によって生じるものであり,相続人の意思表示の効果によって生じるものではない。したがって,本件不在者財産管理人の単純承認があったことを前提として,その意思表示に家庭裁判所の許可がないとか,錯誤があるといった主張は議論の前提を欠いている。
イ  本件売却処分が錯誤により無効になれば,法定単純承認も無効となると考えられるが,控訴人Aの主張においては,単純承認の錯誤の要件が検討されているにすぎず,本件売却処分が錯誤により無効になるかは検討されていない。
仮に,本件不在者財産管理人に亡Bの債務が本件不動産の根抵当権者であるP信用金庫以外には存在しないと認識した点に錯誤があったとしても,それは,本件売却処分の動機の錯誤にすぎず,本件売却処分は無効にならない。したがって,本件売却処分による単純承認の効果は,上記錯誤によって影響を受けない。

第3  当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件不在者財産管理人の本件売却処分により,控訴人Aについて,単純承認の効力が生じており,控訴人Aが行った本件相続放棄は無効であるから,控訴人Aは,亡Bの相続人として,本件貸金債務及びこれに対する遅延損害金の支払債務につき支払義務を負うものと判断する。その理由は,次のとおり,当審における控訴人Aの主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断等」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人Aの主張に対する判断
(1) 控訴人Aは,相続放棄は,行使上の一身専属的行為で代理になじまない行為であるため,不在者財産管理人は権限を有さず,家庭裁判所の許可を得る必要があり,相続承認についても同様に,家庭裁判所の許可が必要である旨主張する。
前提事実のとおり,平成13年3月27日に控訴人Aの法定代理人である本件不在者財産管理人が,Oとの間で,a家庭裁判所の許可が得られた場合に有効であるとの特約事項を付した上で売買契約を締結し,その後,本件不動産につき亡Bから控訴人Aに相続を原因とする所有権移転登記が経由され,Oに対する所有権移転登記が経由されたことからすれば,本件不在者財産管 理人は,本件不動産を売却するにつき,a家庭裁判所の許可を得たと認めるのが相当である。
民法921条1号本文が相続財産の処分行為があった事実をもって当然に相続の単純承認があったものとみなしている主たる理由は,本来,かかる行為は相続人が単純承認しない限りしてはならないところであるから,これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず,第三者からみても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められることにある(最高裁 判所昭和40年(オ)第1348号,同42年4月27日第1小法廷判決・民集21巻3号741頁)。
認定事実によれば,本件売却処分は,亡B名義となっていた本件不動産について,控訴人Aに所有権移転登記を経由した上で,Oに対して売却するというものであるところ,不在者の法定代理人である本件不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得た上に行った相続財産の処分行為となる本件売却処分について,民法921条1号本文の趣旨を上記と別に解することはできない。
また,民法921条1号本文が相続財産の処分行為があった事実をもって当然に相続の単純承認があったものとみなしている主たる理由が上記のようなものであることに加え,本件売却処分が亡B名義の本件不動産の売却に係るものであったことに鑑みれば,本件売却処分によって,控訴人Aに同号本文による単純承認の効果が生じることは明らかであり,そのような本件売却処分について,財産上の許可とは別に,単純承認のための家庭裁判所の許可が必要であるとの控訴人Aの主張を採用することはできない。
(2) 控訴人Aは,本件不在者財産管理人は,亡Bが本件貸金債務を負っていることを知らず,亡Bの債務がP信用金庫の債務のみであると認識して本件売却処分を行ったことから,遺産の構成について錯誤があった旨主張する。
しかしながら,民法921条1号本文は,上記(1) のような理由で相続財産の処分行為をもって単純承認があったものとみなすとするものであるから,当該相続財産の処分行為についての錯誤とは別に,単純承認の錯誤を認めるのは相当でない。そして,控訴人Aが主張する錯誤は,本件不在者財産管理人の亡Bの遺産の構成についての錯誤であり,仮にそのような錯誤が認められるとしても,それは,本件売却処分についての錯誤の主張ではないから,本件売却処分について錯誤は認められず(仮に,本件売却処分についての錯誤の主張をするものであるとしても,動機の錯誤にすぎず,錯誤無効にはならない。),本件売却処分が有効である以上,単純承認の効果が生じると解するのが相当である。控訴人Aの主張は採用できない。

第4  結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

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