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建設業許可判例全文2−一般建設業許可申請書類の押印不備(神戸地裁平成6年11月30日)

(最高裁判所 裁判例情報より)

事件番号:平成4(行ウ)19
事件名:不作為の違法確認請求,損害賠償請求事件
裁判年月日:平成6年11月30日
裁判所名:神戸地方裁判所

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第一 請求
一 原告三興資材株式会社が平成二年八月三日付けで被告建設大臣に対してした建設業許可申請について、同被告が平成四年五月一日付けで右申請を許可しないとした処分を取り消す。
二 被告国は、原告ら各自に対し、金一〇〇万円を支払え。

第二 事案の概要
一 本件は、原告三興資材株式会社(以下「原告会社」という。)が行った建設業許可申請を被告建設大臣(以下「被告大臣」という。)が添付書類に不備があることを理由として不許可としたことについて、原告会社が、被告大臣に対して、当該書類に不備はなかったから右不許可処分は違法であるとして不許可処分の取消しを求めるとともに、原告会社及び右申請行為を代行した行政書士が、被告国に対して、損害賠償を求めた事案である。
二 前提となる事実
1 原告会社は、防水工事及び塗装工事を業とする株式会社である。(争いがない。)
2 原告会社は、建設業の許可に関して、昭和四一年五月一八日兵庫県知事登録(る)第二九八〇号を受けて、それ以降更新を続けていたが、昭和五〇年九月八日建設大臣許可般五〇第六四八九号を受け、それ以降は建設大臣許可を更新して、昭和六二年九月八日建設大臣許可般六二第六四八九号を得ていた。(争いがない。)
3 原告会社は、平成二年八月三日、建設大臣宛の建設業許可申請書及び添付書類を兵庫県土木部総務課建設振興室に提出した(以下「本件申請」という。)。(争いがない。)
4 右許可申請書には、原告会社が建設業法(以下「法」という。)に定める手続行為一切を行政書士である原告Aに委任する旨の委任状が添付されていたほか、申請書の申請者欄には、「三興資材株式会社代表取締役B」との申請者の記名はあるものの押印がなく、申請者の記名の直下に、「同上申請代理人 行政書士 A」との記名及び「A」と刻した印の印影が押捺されていた。(甲第七号証)
5 添付書類のうち、誓約書、経営業務の管理責任者証明書、専任技術者証明書、許可申請者の略歴書及び使用人の略歴書(以下「本件添付書類」という。)についても、同様に、誓約者欄及び証明者欄には、いずれも法により当該誓約又は証明を要求されている者の記名は存するもののその押印がなく、かつ、誓約者欄、証明者欄の欄外で当該記名の直下に、「同上申請代理人 行政書士 A」との記名及び「A」と刻した印章の印影が押捺されていた(以下「本件作成形式」という。)。(甲第七号証、乙第一号証)
6 兵庫県土木部総務課建設振興室は、平成二年九月一〇日付けで右書類を建設大臣宛てに進達した。(甲第三五号証の一)
7 被告大臣は、原告会社に対し、平成四年五月一日付けで、原告会社の本件申請については許可できない旨の処分をした(以下「本件処分」という。)。(争いがない。)
三 原告の主張
1 本件処分の違法性(不許可事由不存在)
(一) 本件添付書類の名義人
本件添付書類には、証明者ないし誓約者本人の記名が存しており、一般に、文書上に記名があれば、当然その者が客観的な思想の主体とされる。
本件添付書類の本人の記名の下には、「同上申請代理人 行政書士」との肩書で原告Aの記名押印が存するが、これは、行政書士法施行規則九条四項の規定と同趣旨である副署ないし連署であり、本人名義の文書であることを妨げるものではない。
そもそも、行政書士が職務として本件のような事実証明文書を作成する場合、行政書士は、証明者ないし誓約者本人からその認識している事実を聴取、確認してこれを書面化するのであるから、これらについて証明ないし誓約をするのでないことは合理的に考えれば明白である。すなわち、文書上に表現されているのは、まさしく本人の思想であり、行政書士は作成代行者にすぎないのである。
したがって、本件添付書類上に表現された思想の主体は証明者ないし誓約者本人であることは客観的に明らかであり、その名義人は本人であると解すべきである。
人に限定していないこと、原告Aは、行政書士として本人から誓約ないし証明の対象となる事実を聴取、確認の上、右書面を作成したのであって、その文書内容は十分信頼に足るものであることからすれば、本件添付書類には、重要な事実の記載の欠如はないといえる。
(4) したがって、本件申請は、法八条本文の不許可事由には該当しないのであるから、右不許可事由に該当することを理由とする本件処分は違法である。
2 本件処分の違法性(手続的違法)
(一) 実務的取扱いの遡及的変更の可否
(1) 兵庫県においては、昭和五三年以来、本人の押印を欠く添付書類であっても、本人記名の下に申請代理人である行政書士の記名押印が存すれば、適正な文書として、兵庫県知事の許可審査事務に支障なく供されてきた。
兵庫県は、本来建設大臣が行うべき行政事務を国の機関委任事務として行う立場にあり、本件作成形式を適法と認めたのが兵庫県であれ被告大臣であれ、法的・社会的に観察すれば、兵庫県の取扱いはすなわち建設大臣の取扱いであるといえるから、被告大臣は、自ら本件作成形式による添付書類を適正な文書として許容してきたものである。
このように長年にわたり、実務において本件作成形式を適法とする取扱例が蓄積し、かつ、行政庁により右のような法令解釈が開示されてきたことにより、国民の間には、本件作成形式の適法性に対する信頼が形成されていたのであり、原告らは、右信頼に基づいて本件申請に及んだのである。
(2) 本件申請の進達後、建設省内において本件作成形式の適法性に疑義を呈する意見が出されたため、建設省と兵庫県との間で度々協議が行われ、被告大臣としては、今後代理申請自体は認めるが添付書類について本件作成形式によることは認めないという見解に至ったものの、兵庫県においては、被告大臣の右見解が文書で明らかにされるまでは、従前通りの取扱いを継続することとし、被告大臣もこれを了承していた。
その後、建設省の右見解を示す公文書が平成四年五月六日に兵庫県に到達し、同県では、それ以降、右見解に従う形で実務の取扱いが変更された。
(3) 行政庁が従前の実務取扱いを否定する方向で変更する場合には、国民の間に混乱が生じないように、国民に不測の損害をもたらさないように、取扱いを変更する旨を文書で明確に表示した上、周知期間を置くなどの手続的配慮をするのが通例である。しかしながら、本件申請に関しては、そのような手続的配慮は一切なく、取扱いの変更が遡及的に行われた。
従前の取扱いを是認したのでは法の趣旨が全うされない具体的事情があるなど、従前の実務慣行とそれに対する国民の信頼を犠牲にしてまで保護すべき公益的要請があるのであれば、実務取扱いの遡及的変更もやむを得ないといえるが、そうでない限り、自ら信頼形成に寄与した行政庁が従前の取扱いを遡及的に変更することは信義則上許されないというべきである。
そして、本件において、本件作成形式による添付書類を作成、提出したとしても、許可審査上及び公衆の閲覧上別段支障はないから、従前の実務慣行とそれに対する国民の信頼を犠牲にしてまで保護すべき公益的要請があるとは到底いえない。
(4) したがって、被告大臣としては、本件申請について、従前の実務慣行とそれに対する国民の信頼を尊重し、速やかに許可処分をすべきであったのであり、これに反して行われた本件不許可処分は、信義則上違法というべきである。
(二) 被告大臣の手続的対応
(1) 本件申請をきつかけとして建設省内で本件形式の適法性に対する疑義が呈されたが、経由庁である兵庫県は、一貫して本件作成形式を適法とする立場をとり、被告大臣に対して早期の許可処分を再三要請していた。
被告大臣が平成四年一月以降に原告らに対して直接本人の印鑑が必要であるという見解を伝えてきた後も、兵庫県は、原告らに対し本件作成形式が適法であるとの立場を表明し続けてきた。
本件申請に関し、兵庫県は、第三者ではなく、経由庁として許可事務の一部を担当する国の機関である。したがって、兵庫県と被告大臣との見解に相違があったということは、国の機関内部に見解の対立があったということである。
このように、行政庁内部で見解の対立が存在し、原告らとしてはいずれに従うべきか判断がつかない事態に直面したが、原告らは、正式な通達があるまでは兵庫県としては従前通り本件作成形式を適法と認める旨を兵庫県から伝えられていた。
被告大臣は、原告らに対し、同年四月二日到着の文書によって補正を指示してきたが、右文書には補正を要する理由も補正しない場合の不許可事由も記載されていなかった。
そこで、原告Aが理由の開示を求めたところ、被告大臣は、同年四月二二日付け文書において初めて不許可事由を明らかにするとともに、回答期限を同月二八日と指定した。原告Aは、右文書を同月二三日に受領したので、土日祝日を除けば期限までわずか二日しか余裕がないため、期限を連休明けの五月六日まで猶予することを要請したが、右要請を無視する形で、本件処分が行われた。
なお、行政庁内部の見解の対立が解消され、実務取扱いが変更されたのは平成四年五月六日以降である。
このように、行政庁内部の見解の対立を解決しないまま一方の見解を押しつける形で原告らに補正を迫ること自体が甚だ混乱を極める行為である上、被告大臣は、原告らに対して補正すべき理由の開示も十分にせず、かつ、補正に応じるべきかの検討期間もほとんど与えなかったのであり、このような強権的処分は違法である。
(2) 被告大臣と兵庫県との間では、本件作成形式についての取扱いを変更するに当たって、兵庫県からの照会に対する回答文書という形で被告大臣の見解を示すことになったが、右見解が示されるまでは兵庫県において従前どおり本件作成形式を適法なものとして取り扱うことを両者で合意した。
右合意に従い、平成四年三月三〇日、兵庫県は、本件作成形式による別件の建設業許可申請につき許可の処分をした。
このように、建設業法という同一の法令の解釈に当たって、一方では被告大臣の了承のもとで許可し、一方では不許可にするというのは、甚だ不平等かつ恣意的な取扱いであり、違法というべきである。
3 本件処分遅延の違法性
(一) 本件申請は、平成二年八月に行われたものであるが、これは従前の許可を更新するもので新規の許可申請ではない。従前の許可申請は、三回とも原告会社代表者がしていたが、八月の申請で同じ年の一二月か翌年の一月には許可されており、四か月程度で許可処分が繰り返されていた。
事務の輻輳、人手不足という行政庁の主観的事情を考慮したとしても、従来から四か月程度で許可が繰り返されていた事実や、本件のような更新許可申請の場合には新規の調査や他省庁との協議は必要としないこと、平成二年度に限って申請件数が激増した事実もないことから、従来の処分までの期間をことさら延長すべき理由は見出せない。
実際、本件申請においては、法七条に列挙する基準を満たしており、実体的な許可要件について疑義が生じるような事実は全く認められないのである。
被告大臣が問題視したのは、許可申請の添付書類中の代表者等の押印の欠落という書類の形式のみであるが、こうした外形的形式的事項は、元来進達庁である県知事の段階で容易に指摘できる事項であって、現に兵庫県は、本件申請を適法なものとして進達している。
また、本件方式は、昭和五三、五四年ころに被告大臣の了解指導に基づいて、適法な申請として既に認知されているから、その審査に時間がかかることもないはずである。
(二) しかるに、被告大臣は、本件申請後、兵庫県職員から同県においては昭和五三年頃から建設省との協議を経て本件作成形式を適法なものと認めてきた事実を了知した平成三年二月に至るまで、本件作成形式の適否について全く検討を怠っていた。
更に、建設省は、右事実を了知してからも、その当否について全く調査検討をしていない。
余りにも処分が遅いことに疑問を持った原告Aは、平成三年八月に上京して担当官と面談し、本件申請が保留扱いとして放置されていた事実を知り、抗議して早急な処分方を要請した。
その後も被告大臣の審査検討は遅々として進まないために、経由庁である兵庫県の担当職員は、処分を促進させる目的から、建設省へ申し入れや折衝に赴いている。
被告大臣は、兵庫県側の姿勢が一貫して本件作成形式を適法としており、機関委任事務として建設省との協議を経た根拠事実も摘示しているにもかかわらず、本件申請についての処分を保留したまま更に月日を経過させたのである。
被告大臣による処分が平成四年五月一日付けで行われたのは、原告会社及び原告Aが本件訴訟を提起したために急遽された結果である。
(三) 本件処分は原告会社の申請を許可しないという内容であったから、事後的回顧的に考える限り、仮に早期に同処分がされていたとしても原告らには許可による利益を受ける地位にはなかったから、処分の遅延があっても違法とは評価できないとの反論もあり得るが、仮に許可が得られない場合でも、申請による許否未定の地位そのものが原告らにとって不利益であり、こうした不安定状態から早期に解放されるべき法的利益がある。本件において、もし早期に不許可処分がされていたのであれば、許可の実体的要件に不足はなかったから、県知事の許可に切り替えて新たに許可業者として営業を続けることが可能であったし、あるいは、形式的不備を補正した後に、再び被告大臣の許可を得る途も選択し得たのであるから、処分遅延による損害は現実に存在しているといえる。
4 損害
(一) 建設業関係法令によれば、建設業の許可を受けることなく建設業を営むことは可能であるが、官公庁からの発注工事を受注するため若しくは三〇〇万円以上の請負工事を受注するには、建設業の許可が必要である。
原告会社は、その施工工事のうち官公庁からの受注工事及び三〇〇万円以上の請負工事が総工事金額の八割を占めており、処分遅延によってこれら契約締結に際して格別の事情説明を要求されるなど有形無形の損害を被ったが、その損害は、少なくとも一〇〇万円を下らない。
(二) 原告Aは、行政書士であり、原告会社の申請代理人として一件書類の作成及び関連手続の委任を受けていたが、被告大臣による違法な許可遅延によって行政書士としての職業的信用を失墜させられ、その損害は、少なくとも一〇〇万円を下らない。
四 被告の主張
1 本件作成形式の違法性
(一) 本件添付書類は、本人の記名の直下に原告Aの記名押印があり、代理人という用語が用いられていること、本人の記名しかないのに原告Aは押印もしていることなどを総合して考えれば、本件申請の書類審査上、本件添付書類の名義人は、原告Aであるというべきであり、証明者ないし誓約者本人が名義人であると考えることはできない。
(二) 押印義務についても、一般に、押印は、書類等の作成についてそれが作成者自らの意思によることを証するため又は作成者の責任を明らかにするための行為であり、行政法規においては、官公庁に提出すべき書類について押印することがむしろ通例とされているところである。
また、法は、許可審査の対象となる申請書及びその添付書類の適正かつ的確な提出を確保し、同法の定める要件を充たさない者に建設業の許可を行わないようにする必要性から、右書類の様式を定めこれを画一化するとともに、許可基準に適合し、かつ、欠格要件に該当しないことを誓約又は証明できる地位にある者から同人の押印した誓約又は証明する書面を提出させてこの真実性を担保し、右書類に虚偽の記載をしてこれを提出した者に対する罰則を定め、建設業の許可に係る書類審査の適正な運営に支障を来すことのないようにしているのであるから、本件添付書類にとって、押印は、誓約書又は証明書について名義人の意思に基づいて作成されたことを書面上明らかにするために必要なものであり、本件申請の書類審査上必須のものである。
(三) しかるに、本件添付書類には、事柄の性質上誓約又は証明を要求された一定の者しかできない誓約又は証明について、その者の押印がないから、様式に欠けるばかりか、法八条本文の「重要な事実の記載が欠けているとき」に該当するというべきである。
2 本件処分の手続的適法性
原告らは、兵庫県が昭和五〇年代から被告大臣との協議・指導を経て、兵庫県知事の行う建設業許可に係る申請行為及び誓約・証明行為について代理申請を認めてきた旨主張するが、被告大臣が兵庫県等に対してそのような指導を行ったことはない。被告大臣の行う建設業許可については、従来から許可申請の代理又は誓約・証明行為の代理を認めたことはなく、兵庫県以外の都道府県知事の行う建設業許可においても認められたことはない。
したがって、被告大臣が、実務取扱いを遡及的に変更したり、不平等かつ恣意的な取扱いをしたことはなく、本件処分は手続的にも適法である。
3 本件処分時期の違法性の欠如
(一) 本件申請は、代理申請であったこと、本件添付書類に本人又は一定の証明可能な地位にある者の押印が欠けていたことから、その適法性に疑義があり、被告大臣の判断が全国的な建設業の許可事務に対して大きな影響を与えることに鑑み、慎重な検討が必要であったため、被告大臣は、従来の運用を調査する一方で、内閣法制局にも相談しつつ、部内で慎重に法律上、運用上の検討を重ね、申請者の便宜や不便さも考慮した上、最終的には、申請行為の代理は認められるが、本件添付書類について、その誓約・証明は代理になじまないものであり、そのため押印の欄には本人又は一定の証明可能な地位にある者の記名押印が必要であるとの結論に達したのであるが、右検討には相当の期間を要した。
(二) 原告会社は、本件申請以前の建設業の許可申請においては、本人申請により、許可申請書及び添付書類のいずれも必要な箇所に本人の記名押印をし、円滑に手続を進めてきたものである。
しかるに、本件申請においては、前記のとおりの経緯をたどり、被告大臣は、原告Aに対し、本件不許可処分の相当以前から、本件申請はその適法性に疑義があるので、本件添付書類に適正な押印を行うよう指導していたものであって、原告らはその指導に従って適正な押印を行えば直ちに許可が得られたものであり、このことに格別の支障はなかった。
原告らは、被告大臣が本件申請の適法性を検討するについて相当の期間を要することを知った上、独自の見解に固執して右指導に応じなかったばかりか、最終的に、右検討結果の補正指示に従うか否かの回答を明らかにしないまま、いたずらに回答期限の猶予を求める一方、本件訴訟の準備を進め、被告大臣の再三にわたる補正指示を拒み続けたものである。このような事実の経緯に照らせば、本件申請の処理に相当の期間を要したとしても、これを違法とすることは到底できない。
4 原告らの損害
本件申請に係る処分に時間を要したことから、原告会社の営業が困難になるものでもない。
例えば公共工事の入札に参加するときに必要な経営事項審査(法二七条の二三)の申請については、従前付与された建設業許可の有効期間を超えていても、許可の更新申請がされていれば実務の運用上、右経営事項審査の申請も受理・審査しており、この点からも原告会社に事実上損害が生じるとは考えられない。
五 争点
1 本件添付書類の作成形式が適法か。
2 本件処分が従前の実務的取扱いを変更するものであるか。
3 本件処分が被告大臣の強権的・不平等かつ恣意的な取扱いによるものといえるか。
4 本件処分が時期的に違法か。
5 原告の損害

第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 一般建設業の許可申請手続の概要
建設業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に営業所を設けて営業をしようとする場合には建設大臣の、一の都道府県の区域内に営業所を設けて営業をしようとする場合には当該営業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならず(法三条)、一般建設業の許可申請は、許可を受けようとする者が、それぞれの許可行政庁に、許可申請書及び添付書類を提出することによって行われる(法五条、六条)。
建設大臣に対する許可申請書及び添付書類の提出は、申請者の主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事を経由して行われ(規則六条)、建設大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が提出した書類を審査し、当該許可を受けようとする者が許可基準(法七条一号ないし四号)に適合し、かつ、欠格要件(法八条一号ないし八号)に該当しないと認めるときに許可をすることになるが、許可申請書又は添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、又は重要な事実の記載が欠けているときは、許可をすることができない(法八条本文)。
なお、建設大臣又は都道府県知事には、政令の定めるところにより、前記の添付書類又はこれらの写しを公衆の閲覧に供するための閲覧所の設置が義務づけられている(法一三条)。
2 ところで、本件処分が行われたのは、被告大臣が、本件添付書類による許可申請は法八条本文の「重要な事実の記載が欠けているとき」に該当すると判断したためであることについては、当事者間に争いがない。
そこで、本件添付書類による申請が法八条本文の「重要な事実の記載が欠けているとき」に該当するか否かについて検討する。
法六条が、建設業の許可申請に当たり添付書類の提出を義務づけたのは、許可行政庁が許可申請の審査をするに当たって、申請者が法七条に規定する許可の基準に適合し、かつ、法八条に規定する欠格要件に該当しないことを確認するための書類が必要であること、許可後も許可行政庁として許可に係る建設業者の建設工事の施工に関する能力、経営状態、経営規模、過去の経歴その他の事項について、必要な範囲内のものを把握していることが監督行政上要請されるがそのための資料が必要であること、更に、建設工事の発注者その他の一般国民が、許可を受けた建設業者の事業内容、経営の実態等について参考として把握するための最小限度の範囲内の資料が必要であることに基づくものである。
そして、右のような目的で提出が義務づけられている添付書類中の重要な事項について、虚偽の記載があり、又は重要な事実の記載が欠けている場合には、許可行政庁の審査を不可能とし、又は審査に当たってその判断を誤らせることとなるのみならず、許可後の建設業者に対する監督に支障をきたしたり、閲覧を行う者の建設業者に対する認識を誤らせることとなるから、法八条本文は、添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、又は重要な事実の記載が欠けている場合には、行為の故意過失を問わず、許可の拒否事由とすることとしたのである。
したがって、法八条本文にいう「重要な事実の記載が欠けているとき」に該当するか否かは、許可行政庁が許可の審査及び許可後の行政監督上必要とする事項並びに一般国民が建設業者の事業内容、経営実態等を把握するために必要な事項についての記載が欠けているか否かによって決すべきである。
3 そこで、本件添付書類の性質について検討するに、乙第一号証、第四号証の二、第五号証、第六号証の三ないし九によれば、次の事実が認められる。
(一) 誓約書(法六条四号、規則二条六号・別記様式六号)は、申請者、申請者の役員、令三条に規定する使用人及び法定代理人が法八条各号に規定する欠格要件に該当しないことを申請者が誓約する書類である。
(二) 経営業務の管理責任者証明書(法六条五号、規則三条一項・別記様式七号)は、経営業務の管理責任者として申請された者が経営業務の管理責任者としての経験を有することを当該者の役職名等、経験年数、証明者と被証明者との関係等を記載することにより証明し、また、当該者が許可申請者の常勤役員等であることを許可申請者が証明する書類であり、経験を有することの証明は、別記様式七号裏面の記載要領により、被証明者の使用者、使用者がいない場合には被証明者と同等以上の役職にあった者又はある者がすることとし、これらの証明を得ることができない正当な理由がある場合には、備考欄にその理由を記載して、当該事実を証し得る他の者を証明者とすることとされている。
(三) 専任技術者証明書(法六条五号、規則三条二項・別記様式八号(3))は、営業所に法七条二号又は一五条二号に規定する専任の技術者を置いていることを当該営業所の名称、技術者の氏名、生年月日を記載して申請者が証明する書類である。
(四) 許可申請者の略歴書(法六条六号、規則四条一項三号・別記様式一二号)は、許可申請者が、自己の現住所、氏名、生年月日、職名のほか、略歴(職歴、賞罰)を記載して、その記載に相違がないことを誓約する書類である。
(五) 令三条に規定する使用人の略歴書(法六条六号、規則四条一項四号・別記様式一三号)は、令三条に規定する使用人として申請された者が自己の現住所、氏名、生年月日、営業所名、職名のほか、略歴(職歴、賞罰)を記載して、その記載に相違がないことを誓約する書類である。
4 これらの事実からすれば、本件添付書類において、誓約又は証明の対象とされている事項は、いずれも、法の定める許可基準又は欠格要件の内容となっているものであり、建設業の許可・不許可の決定に直接関係する事項であるということができる。
したがって、右事項についての誓約又は証明があることは、許可行政庁が許可の審査に当たって、許可基準適合性又は欠格要件不該当性を判断するのに不可欠であるといえるから、これらの事項についての誓約又は証明を欠くときは、法八条本文にいう「添付書類中に・・・重要な事実の記載が欠けているとき」に該当すると解するのが相当である。
5 そこで、誓約者又は証明者自身の押印がなく、単に申請代理人である原告Aの記名、押印があるにすぎない本件添付書類は、誓約又は証明を欠くことになるのか否かについて検討する。
(一) 本件添付書類の名義人は誰か。
原告らは、本件添付書類中の原告Aの記名押印は、行政書士法施行規則九条四項と同趣旨に出た副署ないし連署であって、本件添付書類の名義人は、証明者ないし誓約者本人であると主張する。
しかし、行政書士法施行規則九条四項は、「行政書士は、作成した書類の末尾又は欄外に作成の年月日を附記し、記名して職印を押さなければならない。」と規定するが、甲第七号証によれば、原告Aの記名押印には、作成年月日の附記はなく、押印されている印影も「A」と刻した楕円形の印であって、同施行規則一一条一項が「行政書士が、職務上使用する職印は、別記様式第三に準じて調製しなければならない。」と規定し、別記様式第三が「行政書士(氏名)之の印」という印影の角印を規定していることからすると、原告Aの職印とは認められない。
したがって、本件添付書類中の原告Aの記名押印が行政書士法施行規則九条四項と同趣旨の副署ないし連署であると認めることはできず、それに加えて、甲第七号証によれば、本件添付書類の誓約者欄及び証明者欄には、法により誓約又は証明を要求されている者の記名はあるが押印がなく、かつ、欄外ではあるが、当該記名の直下に「同上申請代理人 行政書士 A」との記載及び「A」と刻した私印の印影が存することからすれば、本件添付書類は、原告Aが本来誓約又は証明を行うべき者を代理して作成したものとみるのが相当であり、名義人は、原告Aであると解すべきである。よって、本件添付書類の名義人は、証明者ないし誓約者本人であるとする原告らの主張は採用することができない。
(二) 証明者ないし誓約者本人の押印の必要性
規則の別記様式によれば、本件添付書類には、いずれも、誓約又は証明をする者の押印が必要とされている。
建設業がかっての登録制から許可制になったのは、建設業者としての適格性については実質審査が必要であると考えられたためであるが、許可事務が全国的、大量的、回帰的に行われるため、審査は書類審査によらざるを得ず、審査に当たっては添付書類の記載内容の真正が極めて重要な機能を営むこととなった。そのため、規則では、誓約又は証明をする者の押印を要求して、当該書面が作成者の意思に基づいて作成されたことを証するとともに、これにより文書の作成者を明らかにして責任の所在を明確にすることとしたのである。したがって、当該文書が代理に親しむ事項を内容とするものである場合には、本人の押印がなくとも、代理権を有する真正な代理人の記名押印があれば、当該書面が本人の意思に基づいて作成されたことを証することができるのであるが、前述のとおり、本件添付書類は、記載事項を誓約又は証明することを内容とし、誓約又は証明はその性質上誓約又は証明を要求さ れた本人のみしかすることができず、代理に親しまない事項といえるから、本人自身の押印がない限り、文書の真正を証することはできないというべきである。そうすると、本件添付書類は、法の要求する誓約又は証明を欠いていることになり、法八条本文に規定する「その添付書類中に・・・重要な事実の記載が欠けているとき」に該当するものである。
(三) 原告らは、本件添付書類が証明者ないし誓約者本人の押印を欠いても、文書の真正に疑念を抱かせる事情はなく、許可の審査上及び閲覧上何ら支障はないこと、押印は法八条本文に規定するものではないこと、規則の別記様式は押印に関してはひな型の意味を有するにすぎず、規則が押印義務を課しているとはいえないことを理由に、法八条本文に規定する「その添付書類中・・・重要な事実の記載が欠けているとき」に該当しないと主張する。
しかし、わが国において、押印は、一般に、書類等を作成した場合において、作成者自らの意思によるものであることを証するため又は作成者の責任を明らかにするために行われるものであり、行政法規においては、官庁に提出すべき書類については押印をすることがむしろ通例とされていることからすれば、規則の別記様式がひな型にすぎないと解することは困難であるし、前述のように、本件添付書類は、その性質上、本人自身の押印がない限り、文書の真正を証することができないというべきであるから、誓約者又は証明者の押印を欠くことが法八条本文に規定する「その添付書類中に・・・重要な事実の記載が欠けているとき」に該当しないとする原告らの主張は採用することができない。
二 争点2について
1 原告らは、被告大臣が建設省の見解が公文書で明らかにされた平成四年五月六日までは代理形式による申請を適法とする兵庫県の取扱いを認めていたのであり、従前の取扱いの変更を本件申請に遡及させた本件処分は、信義則上違法であると主張する。
そこで、この点について検討するに、甲第二、第三号証の各一、二、第九号証、第一二号証ないし第一五号証、第一六号証の一、第一七号証、第二八号証、第三三号証、第三六号証、第三七号証の二、三、乙第二号証並びに証人C及び同Dの各証言によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件申請に対する建設省と原告Aの交渉
(1) 建設省建設経済局建設業課においては、本件申請を審査するに当たり、原告会社が提出した本件作成形式による建設業許可申請書及び添付書類を検討した結果、当該申請行為並びに誓約及び証明行為は原告会社の代理人である原告Aが行っていると判断した。
そして、従来、建設省においては、代理形式による申請、誓約若しくは証明を受理あるいは認めた例がなかったこと、建設業課で出される判断は全国の今後の許可審査に重要な影響を与えることから、代理形式による申請又は誓約若しくは証明が規則の別記様式に適うものか否か慎重に検討することとした。
原告Aが平成三年八月一四日に建設省に来庁した際、建設業課建設業第二係長C(以下「C係長」という。)は、原告Aに対し、許可申請書及び本件添付書類に本人の押印をするように指示をしたところ、原告Aは、代理形式による申請は、兵庫県では一〇年も以前から認められていると主張し、代理申請の適法性について書かれた本を紹介するとともに、建設省にも書類がいろいろ残っているはずである等と述べたので、C係長は、原告Aに、今後十分に検討すると返答した。
C係長は、その後同月二〇日ころ、原告Aに電話をして、代理申請の適法性について書かれた本の名前を確認するとともに、建設省には代理申請に関するメモや検討結果は残っていない旨を伝えた。
(2) 建設省においては、本件申請の取扱いについて検討を重ねた結果、平成三年一二月末に、申請行為の代理は認められるが、誓約行為及び証明行為の代理は認められないとの結論(以下「建設省見解」という。)に達したので、C係長は、平成四年一月六日に原告Aに対して電話でその旨を伝えるとともに、本件添付書類について本人の押印が必要だから補正するよう指示をした。しかし、原告Aは、建設業法が改正されて代表取締役だけが誓約すればよいことになったのは、代理行為を認めたのと同じではないかと反論するとともに、申請行為の代理を認めながら、誓約、証明行為の代理を認めないのは納得できないと言明したので、C係長は、今回の建設省の決定は最終決定で検討の余地はない旨を伝え、法の改正の点については検討すると答えた。
C係長は、同月一六日、再度原告Aに電話をして、建設省の補正指示に従うように勧めるとともに、同人が主張していた改正の事実もないと伝えたが、同人は、根拠を示せ、補正の指示に従うつもりはない、
原告会社には絶対に連絡するな等と述べた。
C係長は、同年二月一二日、原告Aに対し電話をして、建設省の考えは変わらないのであるから、本件添付書類の補正に応じなければ本件申請を却下せざるを得ない旨を伝えたところ、同人は、資格審査の受付時期なので時間がないから少し時間を欲しい、時間があれば過去の業務日誌等を調べて資料を提供する等と述べた。そこで、C係長は、建設省の考え方は変わらないことを伝えた上で猶予することとし、原告Aの対応を待っていたところ、同年三月二五日付けで同人から許可通知書の交付等を求める申入書が送付されてきた。
C係長は、平成四年三月三一日付けの建設庁建設経済局建設業課建設業第二係長名で、原告ら宛てに、本件添付書類について本人又は一定の証明可能な地位にある者が押印して補正すること、平成四年四月七日を期限として右補正に応じるか否かの回答を連絡すること、連絡のない場合は補正に応じられないものとして本件申請を却下する旨を記載した文書を送付したところ、原告Aから同月四日付けで右回答期限を同月一七日まで猶予して欲しい旨の文書が送付されてきた。
(3) 原告会社は、平成四年三月二六日付けで、本件平成四年(行ウ)第一九号事件訴訟を提起し、同年四月六日に被告大臣に対し右訴状が送達された。建設省建設経済局建設業課課長補佐は、同月七日に原告会社代表取締役Bに対し補正に応じるかどうかの確認の電話をしたところ、同人から補正の指示については聞いていないとの言明があったので、同月一〇日に再びBに対し電話をしたが、同人から補正はしない旨の返答を受けた。
そこで、C係長は、同月一六日、右Bに電話をして、補正に応じなければ本件申請は却下になるが、本件申請が却下になると、三〇〇万円以上の工事はできなくなるし、公共工事にも参入できなくなる旨の確認をしたが、Bは、弁護士に任せてあるので、補正はしないと返答した。
C係長が原告Aからの回答猶予依頼期限である同月一七日に原告Aに対し電話で確認したところ、同原告は、更に同月二〇日までの回答の猶予を求めてきた。しかし、同月二〇日までに同原告からの回答はなく、同原告からは同月一七日付けで補正を要すべき理由を公文書で示すことなどを求める文書が同月二〇日に送付された。
建設業課では、原告Aに対し、建設省建設経済局建設業課長名で、補正が必要である理由を示すとともに、平成四年四月二八日までに右補正をすることを求める同月二二日付けの文書を送付したところ、同月二八日に、原告Aから回答期限を同年五月八日まで猶予して欲しいことなどを内容とする同年四月二六日付けの申入書が送付されてきた。
C係長は、同年四月二八日に原告Aに対し電話をして、補正に応じるか否かの回答を求めたが、原告Aからゴールデンウィーク明けまで待ってほしいと依頼されたので、同月三〇日の午前中まで回答を待つ旨を伝えた。
(4) 平成四年四月三〇日までに原告Aから何らの回答もなかったので、被告大臣は、原告Aには本件添付書類の補正に応じる意思がないものと判断し、原告会社に対し、同年五月一日付けで、本件添付書類について本人又は一定の証明可能な地位にある者が押印していないことにより、法八条本文に基づき、本件申請を許可することができない旨を通知した。
(二) 本件申請に関する建設省と兵庫県の協議
(1) 兵庫県土木部総務課建設振興室(以下「建設振興室」という。)は、昭和五三年三月一四日、数年来の懸案であった代理形式による許可申請が認められるか否かについて、建設省に電話で問い合わせたところ、建設省E法規係長から、現時点で、代理申請について通達が出されていないので、代理人による申請があれば受理せざるを得ないと思われるが、全国各府県、建設省内部でも見解が統一されていない点もあって、現在討議中であるとの回答を得た。
更に、建設振興室では、昭和五三年一〇月一一日に建設省に電話で問い合わせたところ、建設省F法規係長から前任者と打合せの上回答したいとの返答を受け、その後、昭和五四年八月二〇日に、再度、問い合わせをしたところ、F法規係長から本省不動産業課と協議が必要なために再検討中であると回答されたが、以後はこの点について建設省から回答を得ることはできなかった。
そこで、兵庫県では、昭和五三年以降、代理形式による許可申請を適正な申請として受理し、許可処分を行うこととし、本件申請に至るまで右扱いが定着していた。
(2) 本件申請が行われた後、兵庫県の担当者は、平成三年二月七日に建設省に赴き、兵庫県においては、昭和五三年ころから、申請行為、誓約行為、証明行為のいずれも代理を認めるようになったと説明して、処理の促進を要請したところ、C係長から、建設省においては従前より代理による申請行為、誓約行為、証明行為を認めた例はないので、兵庫県で認めているのであれば、今後、建設省においても、慎重に検討することが必要であると考えているとの返答があった。
(3) その後も、兵庫県の担当者は、直接あるいは電話で、再三、建設省に対し、本件申請についての処理状況を尋ねるとともに処理促進を要請したが、建設省は、内部の意見が十分固まっていないのでもう少し待ってほしい、内閣法制局と協議をしている、代理申請について今回は明確な判断をするつもりである等と答えるのみであった。
このような状況の下で、原告Aから建設振興室に本件申請に対する許可の促進を文書で建設省に依頼してほしい旨の要望があったので、建設振興室は、協議の結果、平成三年一二月三日、処理の促進を求める文書を建設省建設経済局建設業課長宛てに提出した。
これに対し、C係長は、兵庫県に対し、平成三年一二月末、電話で建設省見解を伝えたが、兵庫県は、平成四年三月三〇日付けで、本件申請と同様の形式による申請について許可をした。
(4) それを知った建設省は、本件申請の形式が違法であると兵庫県に再度伝えたが、兵庫県は、今までの考え方を改めるには、建設省に文書の形式で示してほしい、そうすればそれ以降は建設省の指示に従うと返答したので、建設省は、協議の結果、照会文書に対する回答という形式で建設省の見解を示すこととした。
そして、まず、兵庫県から照会文書の原案が建設省にファックスで送付され、建設省は、それを検討、訂正した上、兵庫県に平成四年四月一八日に送り返した。
兵庫県は、同月二三日、建設省に正式な照会文書を送付し、建設省は、同月二八日付け文書で右照会に対する建設省の回答を明らかにし、当該文書は、同年五月六日、兵庫県に到達した。
2 以上の事実からすれば、建設省が代理形式による申請について明確に結論を出したのは、平成三年一二月末の時点であると認められるから、兵庫県がそれまで本件作成形式による添付書類を適正な文書として許容する取扱いをしてきたのは、兵庫県の独自の判断によるものであったと解することができるし、建設業の許可業務は被告大臣からの機関委任事務であるから、兵庫県としては、建設省の指示に従うべき義務があるのに、建設省見解が伝えられた平成三年一二月末以降も、建設省見解に反して従来の取扱いを続けていたということができる。
この点、原告らは、甲第四号証の二、第九号証、第二八号証及び証人Dの証言を根拠として、被告大臣は、建設省見解が公文書で明らかにされた平成四年五月六日まで兵庫県の従来の取扱いを認めていたと主張する。
確かに、甲第二八号証は、兵庫県建設業係の担当者が建設省の法規係長へ送付した書面で、代理申請が認められるかという質問が記載されており、別添の表には、兵庫県の担当者と建設省の法規係長との電話でのやり取りが記載されているが、こには、昭和五三年三月一四日、同年一〇月一一日、昭和五四年八月二〇日に行われた通信の内容が客観的事実として具体的に記載されており、信用性が高いといえる。
しかし、右表には、昭和五三年三月一四日の通信の内容として、建設省のE法規係長は、兵庫県の質問に対し、代理申請の可否について、「通達が出されていないので、代理人による申請があれば受理せざるを得ないと思われるが、全国各府県、建設省内部でも見解が統一されていない点もあり、現在討議中」と答えた旨の記載があり、同年一〇月一一日、昭和五四年八月二〇日も、それぞれ、建設省のF係長が「前任者とよく打合せのうえ回答したい。」「本省不動産業課と協議が必要なため再検討中である。」と答えた旨の記載があることからすれば、この書面を根拠に、昭和五三年当時から建設省が代理形式による申請を認めていたと認定することは困難である。
更に、甲第四号証の二には、兵庫県が建設省の指導により代理申請を受理している旨が記載されているが、この書面は、昭和六三年九月に原告Aの質問に対して兵庫県が回答したものにすぎず、これを根拠にして、当時建設省が代理申請を適法なものとして許可することを認めていたと解することはできない。
また、甲第九号証にしても、右書面には、建設省の指導を受けながら代理人による許可申請を適正な申請行為として受理して許可処分を行う取扱いが定着している旨の記載があるが、このような記載をした根拠は、証人Dの証言によれば、昭和五三年に兵庫県の建設振興室が代理申請の可否について電話で照会したところ、建設省から特段の定めがないので、代理申請もやむを得ないとの回答を受けたためであることが認められる。そして、この電話照会は、前記の甲第二八号証に記載されている昭和五三年三月一四日の電話でのやり取りを指していると考えられるところ、建設省の右回答は、建設省が、代理申請の適法性についての結論を留保したものであって、代理申請を許可することを認めたものとは解することができないこと、当該書面は、兵庫県が建設省に対して本件申請後の平底三年一二月三日に本件申請を許可するよう要請した際に、県の主張として書かれたものであるにすぎないことからすれば、甲第九号証を理由に、建設省が右取扱いを許容していたと認定することはできないというべきである。
したがって、建設省見解が公文書で明らかにされた平成四年五月六日まで被告大臣が兵庫県の取扱いを認めていたという事実は認められないから、被告大臣が従前の取扱いの変更を本件申請に遡及させた本件処分は、信義則上違法であるとする原告らの主張は採用することができない。
三 争点3について
1 原告らは、被告大臣が、原告らに対して補正すべき理由の開示も十分にせず、かつ、補正に応じるべきか否かの検討期間もほとんど与えずに強権的に本件処分をしたものであること、被告大臣が、平成四年五月に回答文書の形で建設省見解を示すまでの間、一方では兵庫県が代理申請を認めることを了承し、他方では本件申請を不許可にするという不平等かつ恣意的な処分をしたことを理由に、本件処分は違法であると主張する。
2 しかし、前記二1で認定した事実によれば、建設省は、原告Aに対し、平成四年一月六日に、建設省見解を明確に伝えるとともに本件添付書類の補正を指示し、その後も、平成四年四月二八日まで、原告らに対し、電話あるいは文書で、補正の指示を再三行ったにもかかわらず、原告らが指示に従わなかったため、本件処分を行うこととなったのであるから、本件処分が補正に応じるべきか否かの検討期間をほとんど与えずに行われたということはできない。
また、補正を要する理由についても、建設省では、原告Aから平成四年四月二〇日付けで補正を要すべき理由を文書で明らかにしてほしい旨の申し入れがあったため、同月二二日付けで補正を要する理由について回答しており、被告大臣が原告らに対して補正すべき理由の開示を十分していないということもできない。
したがって、被告大臣は原告らに対して補正すべき理由の開示も十分にせず、かつ補正に応じるべきか否かの検討期間もほとんど与えずに強権的に本件処分をしたという原告らの主張は採用することができない。
3 更に、前記二2のとおり、建設省は、平成三年一二月末に本件申請について建設省が結論を出すまでの間、兵庫県に対して検討中であるとの返答をしていただけであり、兵庫県が代理形式による申請を認めていたのは、兵庫県の独自の考えによるものであるし、同年一二月末以降は、建設省が兵庫県に対して代理申請は違法である旨を伝えていたのであり、平成四年三月三〇日に兵庫県が本件申請と同じ形式の申請を許可したのは建設省の指示に反して行ったものであることからすれば、建設省が、平成四年五月まで、兵庫県が代理申請を認めることを了承していたということはできない。
したがって、被告大臣が、平成四年五月に回答文書の形で建設省の見解を示すまでの間、一方では兵庫県が代理申請を認めることを了承し、他方では本件申請を不許可にするという不平等かつ恣意的な処分をしたという原告らの主張は採用することができない。
四 争点4について
1 原告らは、被告大臣が本件作成形式の適法性に対する検討を長期間怠った結果、本件申請から本件処分に至るまで一年半以上もかかったのであるから本件処分は違法であると主張する。
2 そこで、本件申請後の建設省の本件申請への対応の経過について検討するに、建設業の許可申請が全国的規模で大量に行われ、その許可事務の取扱い方法の決定が広汎な影響を及ぼすことから、前記二1(二)で認定したとおり、本件申請が行われてから、建設業課においては、代理形式による申請の適法性について慎重に検討を重ね、平成三年二月七日に来庁した兵庫県の担当者から兵庫県の取扱い状況を聴取していたのであるが、証人Cの証言によれば、C係長は、その後、平成三年一二月末までの間に、法規係に本件申請の形式が許可された事例が過去にあるかどうか等を含めて代理申請の可否について検討を依頼したほか、このことにつき、同僚や前任者等に尋ねたり、内閣法制局等に三回ほど問い合わせをし、平成四年三月二六日に本件訴訟が提起された後、本件処分までの間に各県の担当者に電話で代理申請についての取扱いについて尋ねた事実が認められる。
そして、これらの事実に加えて、前記二1(一)で認定したとおり、建設省は、平成三年一二月末以降は、原告らに対し、再三、本件添付書類の補正を促していたにもかかわらず、原告らは、独自の見解に固執して右指導に応じなかったばかりか、最終的に、右検討結果の補正指示に従うか否かの回答を明らかにしないまま、いたずらに回答期限の猶予を求める一方、被告大臣の再三にわたる補正指示を拒み続け、本件処分に至ったものである。
このような経緯に照らせば、本件申請から本件処分に至るまで一年九か月余り経過したとしても、これを違法ということはできない。
したがって、被告大臣が本件作成形式の適法性に対する検討を長期間怠ったために本件処分が遅延したとする原告らの主張は採用することができない。
五 結論
よって、その他の争点について判断するまでもなく、原告らの本件各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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