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◆第29章 胎児認知◆

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。今回は、胎児認知についてお話します。

胎児認知についてお話しする前に、まずその前提として認知のお話をします。

当たり前の話ですが、生まれてきた子供には両親が存在します。両親が結婚していればもちろんのこと、両親が結婚していなくても、両親が存在することは疑いの余地がありません。しかし、生物学的に両親が存在するということと、実際に誰々が両親であるということとは、また別の話です。子供は母親から生まれてきますので、両親が結婚していない場合でも、子供と母親との親子関係は確実です。しかし、父親との親子関係はと言えば、少し事情は異なります。

両親が共に日本人として考えますが、両親が結婚している場合、子供は父母の子として戸籍に記載されます。これは、民法第七七二条に「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」となっているからで、現実にはたとえば妻が浮気していて子供の父親が夫ではない場合などもあり得ますが、実際はどうであれ法律上父母の子供として父母の戸籍に入ることになっています。これは、DNA鑑定などがなかった時代からの規定で、結婚している家庭に生まれた子供はふつうは夫のことであると推定しておけばいいという考え方です。ちなみに「推定」というのは、反証可能ということで、夫は自分の子供ではないと思えば否認することができます。しかし、夫からの否認がない限りは、法律上夫を子供の父親とすることに決められているのです。

次に、両親が結婚していない場合ですが、この場合は子供は母親の戸籍に入ります。それでは父親はどうなるのかと言えば、戸籍には記載されず、父の欄は空欄になり、法律上の父は存在しないことになります。このような場合に、認知ということが浮かび上がってきます。民法第七七九条に「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる」とあります。法文では父または母となっていますが、最高裁の判例により母親との親子関係は産んだという事実によって当然に発生するとされているので、認知は父親だけの問題です(最近は技術が進歩し代理母の問題も出てきていますが、ここでは考えないことにします)。つまり、結婚していない場合に、子供の生物学上の父親が法律上の父親として認められるための手続きが認知です。

ただし、結婚していないからと言って、必ずしも認知できるとは限りません。母が独身であれば子供の父が別の女性と結婚していても認知できるのですが、母が結婚している場合、実際の父は別にいても、夫以外の男性が認知することはできないことになっています。これは夫の浮気が許されていて、妻の浮気が許されていないということではありません。上述したように、民法第七七九条で、母が結婚していればその夫の子供と推定すると決められているからです。

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さて、胎児認知ですが、子供が産まれる前、母親のお腹の中にいる間(胎児のうち)に認知することです。父が胎児認知するためには、母の承諾が必要です。生まれてしまえば父は母の承諾がなくても認知できるのですが、胎児認知に限り、母の承諾がなければできません。しかし、生まれてしまえば当然ながら胎児ではなくなるので、胎児認知することはできなくなります。誕生後は、ふつうの認知になります。

胎児認知がどのような場合に行われるかですが、日本人のカップルの場合であれば、子供が生まれてくるまでの間に父親が死んでしまう可能性がある場合に、父の子供としての権利を確保しておくために行なわれます(胎児認知はもともと戦争で出征する場合に設けられた制度だそうです)。その他のケースとしては、今なら認知して貰えるが、将来はどうなるかはわからず、トラブルになることも予想されるといった場合が考えられます。妊娠中に離婚した場合、あるいは離婚後に妊娠が分かった場合は、胎児認知することも可能ですが、離婚後300日以内生まれた子は法律上離婚した元の夫との間に生まれた嫡出子であると推定され、離婚した元の夫の戸籍に入ることとされているので、胎児認知は必要ありません。

胎児認知は、最近では日本人のカップルでない場合、つまり国際カップルの場合によく利用されるようになっています。通常、法律的に結婚していない日本人男性と外国人女性との間にできた子供に日本国籍を与えるために行なわれます(父が外国人、母が日本人の場合にも行なわれることがあります)。日本人同士の場合なら胎児認知でもふつうの認知でもどちらを選んでもあまり変わりはありませんが、日本人男性と外国人女性の子供の場合は非常に不都合な事態が生じます。と言うのは、結婚していない場合、生まれてきた子供は父の戸籍には入りませんので(母は外国人なので戸籍がないため母の戸籍にも入りません)、生まれてきてから認知したとしても、生まれた時点では法律上日本人の子供という扱いにはならず、外国人として処理されるからです。そうなれば、通常は母親と同じ国籍になりますので、子供にも本国への出生届やパスポートの取得、日本での外国人登録や在留資格の取得という外国人としての諸手続きが必要になります。これに対して、胎児認知しておけば法律上生まれた時点で日本人の子供という扱いになり、日本国籍を取得することができます。この問題に関しては裁判にもなっていますので、詳しくはメルマガ第12章をご覧下さい。

胎児認知をするためには、通常の認知と同じく役所に認知届を提出します。認知届のその他の欄の「胎児を認知する」というところをチェックし、通常はそこに母親の承諾を付記します。届出先は、ふつうの認知の場合は、父または子の本籍地か父の住所地の市区町村役場に届け出ることとなっていますが、胎児認知の場合は母の本籍地になっています。ただし、国際カップルの場合はここでつまずくことになります。母が外国人の場合は、戸籍がないので当然本籍というものはなく、どこに届出を出していいか分かりません。届出できない間に子供が生まれてしまえば、当然胎児認知はできなくなり、上述のような困った事態になります。結論を言えば、この場合は母親の住所地(外国人登録しているところ)の市町村役場に届出ることができます。外国にいる場合は、在外公館でも受け付けています(父親の本籍地の市町村役場でも受け付けてもらえる場合がありますので、役所に相談してみて下さい)。

胎児認知の必要書類は、認知届書以外に、本籍地以外の役所に出す場合は、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)です。母親の承諾書は別に添付してもいいですが、上述したように認知届のその他欄に付記しておけば必要ありません。日本人なら以上の書類で済みますが、母が外国人の場合は、国籍証明書が必須となっています。上述したように、母が結婚している場合には夫以外の男性が認知することはできないので、そのことの証明のために独身証明書かそれに変わる本人の申述書が要求されることも多いです。それ以外に、出生証明書や子の保護要件を満たしていることの証明書の提出を求められることもあります。これらは認知届を提出する役所で確認して下さい。

平成18(2006)年12月15日

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