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◆第28章 イスラム教の離婚◆

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。前回までイスラム教の結婚についてお話してきましたが、今回は、イスラム教の離婚についてお話します。

一口に離婚と言っても、離婚の方法や手続きにはいくつかの種類があります。たとえば、日本では協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚と4種類の方法があり、結婚を解消するという目的は同じですが、それぞれ手続きは異なっています。また、離婚の方法は国によっても異なっていますし、中には離婚したくても法的に離婚を認めていない国もあります(ただし、そういった国では離婚に変わる制度が設けられています)。

イスラム教では、離婚は認められています。イスラム教徒が離婚する場合にも、いくつかの方法があります。以下にイスラム教の離婚の基本的な部分を概説しますが、ただし、シャリーア(イスラム法)は共通ですが、イスラム教の国でも各国にはそれぞれの法があり、それらによって離婚の方法にも多少の違いがありますので、以下はあくまでイスラム教の離婚についてのおおまかな話であることをお断りしておきます。

▼タラーク(talaq)

イスラム教の離婚で一番有名なのがタラークという方法です。タラークは直訳すれば離婚です。タラークの方法は夫が妻にタラークと宣言するだけです。夫が妻に「タラーク(離婚する)」と言えば、それだけで離婚が成立します。離婚の方法としてのタラークは、通常の離婚とは区別するために、離婚宣言と訳されることもあります。

このタラークは面白いシステムになっていて、1回タラークと宣言するだけでは完全には離婚は成立しないとされています。というのは、この方法での離婚は簡単すぎて、夫婦喧嘩などすればつい口走ってしまうこともあり、これだけで離婚を認めてしまうのは問題があるからです。そういうわけで、タラークは3回宣言して初めて正式な離婚となります。2回目までのタラークは撤回でき、その間は冷却期間(イッダ)とされています。もし直ちに離婚したい場合は、「タラーク、タラーク、タラーク」と3回続けて宣言すれば、冷却期間を経ることなく完全に離婚することができるという規定もあります。

タラークはイスラム教の離婚方法では一番多く、離婚の7〜8割がタラークであるという調査もあります(ちなみに日本の場合は9割が協議離婚です)。タラークは夫から一方的に離婚する方法なので、イスラムの女性蔑視という批判をする際の根拠の一つになっています。しかし、一方的に離婚できると言っても、結婚時のアクド・ニカー(婚姻契約)で決めておいた約束は守らなければならず、離婚の際には契約に従ってマフル(婚資)の残りを慰謝料や財産分与として支払わなければなりません。

▼フルウ(khulu')

タラークは夫からの離婚ですが、妻からも離婚することは可能で、フルウ(あるいはクル)と言います。この場合は、すでに妻側が夫側から貰っているマフル(婚資)相当額を返還する必要があります。

▼タリーク(ta'lik, taklik)

タリークも妻からの離婚です。夫がアクド・ニカー(婚姻契約)で定めた条件(生活費やその他)に違反した場合に離婚を申し出ることができます。

▼ファスフ(fasakh)

夫が失踪(悪意の遺棄)したり、扶養義務を怠ったり、DV、精神疾患などで結婚を続けられなかったりする場合に、シャリアコート(イスラム法裁判所)に訴えて、離婚することができます。

▼リアーン(li'an)

妻が浮気した場合の離婚方法です。妻が浮気した場合に、夫がシャリアコート(イスラム法裁判所)に訴えて、浮気が証明されれば離婚が成立します。浮気した妻を頭だけ出して地中に埋め、死ぬまで石を投げる刑罰が以前は行なわれていたそうです(現在行なわれている地域があるかどうかはわかりません)。

▼ズィハール(zihal)

シャリーア(イスラム法)では禁止されていますが、イスラム教以前はズィハールという離婚方法があったそうです。これは「お前の背中は、私の母の背中だ」と宣言する方法で、意味はよく分からないのですが、夫がこのように宣言すると、妻は妻としての権利は失って、しかも夫のもとから去ることもできなかったそうです。イスラム教になってからもズィハールを行なう者もいたそうですが、禁止を破ってズィハールを宣言してしまった場合、2ヶ月間斎戒(断食など)したり、貧者に食事を施したりしなければならなかったそうです。

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以上、イスラム教の離婚の方法を見てきましたが、冒頭で述べたように、イスラム教の国でも各国にはそれぞれの法があり、離婚の方法も違いがあります。実際に離婚する場合は、それぞれの国の法律に当たって下さい。

イスラム教徒との離婚に際して重要なポイントとして考えておかなければならないのは、シャリーア(イスラム法)では離婚した場合の子供の親権は基本的に父親にあるとされていることです。夫がイスラム教徒であれば、妻がどの国の人間であれ、どんな宗教を信じているのであれ、子供はイスラム教徒であり、国籍は父親と同じ国になります。離婚して自分の国に帰国しようとする際に、子供と一緒に帰国しようとしても、父親の許可がなければ子供は出国できない可能性がありますので、注意して下さい。

平成18(2006)年12月1日

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