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◆◆◆メールマガジン国際結婚◆◆◆

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◆第12章 国籍確認訴訟について◆

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。前回まで3回にわたって入国とその後の手続き(ビザ、在留資格、外国人登録)についてお話しました。今回は、最近判決が出て大きな話題になった国籍確認訴訟についてお話します。

平成18年3月29日に判決が下されたこの裁判は、通称「国籍確認訴訟」と呼ばれています。日本人男性とフィリピン人女性との間に生まれ、出生当時父母が結婚しておらず胎児認知もされていなかったため日本国籍が取得できなかった9人の日比ハーフの子供たちが、出生後に父から認知を受け国籍取得届を提出したところ、国籍法3条1項の準正要件を備えていないという理由で、日本国籍の取得が認められませんでした。そこで、両親が結婚していないからと言って日本国籍を認めないのは憲法14条の法の下の平等に反するなどとして、昨年4月12日に東京地裁に訴えていたものです。そして3月29日の判決では、原告の子供たちが勝訴し、子供たちの日本国籍が認められました。

判決によると、準正による嫡出子や、同じ非嫡出子でも母親が日本人である子供や日本人の父親から胎児認知された子供には国籍取得を認め、父親が日本人であるが、準正されていない非嫡出子(生後認知された子供)には国籍取得を認めていない国籍法3条1項には合理性は認められず、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反している。従って、国籍法3条1項の準正要件を定める部分は違憲無効であり、原告の子供たちは有効な届け出を行なったものと言えるから、原告の子供たちには日本国籍があることを確認する、となっています。

この裁判の意味を理解するには、関連法規や日本人と外国人との間に生まれた子供が増えている社会的背景を知る必要があります。

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国籍確認訴訟で最も問題となる法律は国籍法です。「日本国民たる要件」、つまり誰が日本人であるかということは、国籍法によって定められています。国籍法はわずか19条しかない法律で、帰化や国籍の取得、喪失などについて規定しており、普通の日本人は気にする必要がないものですが、国際結婚の当事者にとっては大変重要な法律です。

この国籍法2条1項で、子供は生まれた時に父親か母親のどちらかが日本人ならば日本国籍を取得することと定められています(昭和59年に改正されるまでは、父親が日本人の場合でなければ日本国籍を取得できませんでした)。つまり日本人と外国人との国際結婚の場合、父親が日本人の場合でも母親が日本人の場合でも、その子供は日本国籍を取得するということです(結婚相手の国の法律で子供はその国籍を取得するとされている場合は、子供は日本国籍を取得するだけではなく二重国籍になります)。

しかし、日本人の子として生まれれば日本国籍を取得するというこの国籍法の規定にも関わらず、父親が日本人で母親が外国人で正式に結婚していないケースのカップルは、子供が日本国籍を取得できない場合があります。と言うのは、両親が結婚していない場合、戸籍(法律)の上では父親がいないものとして扱われるので(出生届の父親欄は空欄のままにしておかなければ受理して貰えません)、子供は生まれた時点では日本国籍を取得できません。たとえ事実上の父親が日本人だったとしても、戸籍上は父親がいないことになっているために、子供が生まれた時の父親は日本人ではないと法律的に処理されるのです。この場合、子供は母親の国籍だけを取得するか、母親の国が父系主義(子供は父親の国籍を取得する法律)をとっている場合は、母親の国籍も取得できずに無国籍になってしまいます(ちなみに日本で生まれた無国籍の子供は、国籍法2条3項により人道的見地から日本国籍を取得することになっていますので、皮肉なことに、上述のような経緯によって無国籍になった子供にもそのような手続きによって日本国籍を取得するという道があります)。

このように両親が結婚していないために生まれてきた子供が日本国籍を取得できないという事態を避けるには、母親の妊娠中に日本人の父親が認知しておくことが必要です。これを胎児認知と言います。胎児認知しておけば、結婚していなくても子供が生まれた時に父親が日本人であると認められますので、国籍法の規定に従って子供は出生と同時に日本国籍を取得することができます。しかし、胎児認知という方法が知られていないためか、現在、結婚していない日本人と外国人のカップルの子供の相当数が胎児認知をしなかったために日本国籍を取得できないという状態になっているという現実があります。

日本国籍を取得できなかった子供は、外国人として扱われることになります。それに伴って日本の役所への出生届、本国への出生届とパスポートの取得、外国人登録、在留資格の取得という外国人としての手続きが必要になります。しかし、母親がオーバーステイの場合は入管に行けないためにどうしても子供の手続きも行われないことになりますし、オーバーステイでないとしても手続きを忘れていたり何らかの事情でしなかったりした場合は子供はオーバーステイになってしまいます。

それでは、日本国籍を取得できなかった子供はもう日本国籍を取得できないのかというと、そうではなく、日本国籍を取得する方法はあります。

日本国籍取得の方法は二つあります。その一つは帰化です。一般の外国人が帰化するためには幾つかの条件をクリアーして、法務大臣の許可を得る必要がありますが、このケースのように、日本人の子であったり、日本で生まれた場合は条件が緩和されており、簡易帰化と言われる手続きで比較的簡単に帰化することができます。

もう一つは、国籍法3条1項で規定されている「準正による国籍取得」です。父母の結婚と認知によって嫡出子の身分を取得した子(準正嫡出子)は、二十歳になるまでに法務大臣に届ければ、届け出のみで日本国籍が取得できます。嫡出子とは結婚している夫婦から生まれた子供のことで、結婚していないカップルから生まれた子供は非嫡出子(嫡出でない子)と言います。非嫡出子でも、出生後に父母が婚姻し、認知されれば嫡出子の身分を取得することができ、これを「準正」と言います(民法789条)。婚姻と認知はどちらが先でもよく、子の認知後に父母が婚姻した場合は婚姻の時から嫡出子の身分を取得し、父母が婚姻してから子を認知した場合は、法文上は認知の時からとなっていますが、運用上婚姻の時に遡って嫡出子の身分を取得することになっています。帰化の場合は法務大臣の許可を得なければなりませんが、準正嫡出子になれば届け出るだけで必ず日本国籍を取得できますので、準正による国籍取得の方が身分が保証されています。

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国籍確認訴訟では、この準正による国籍取得が争点となっています。原告側の主張を簡単に言うと、父母が結婚せずに準正嫡出子にならなかったとしても、認知があればそれだけで日本人の子なのだから、日本人の子として日本国籍が認められるべきだ、認められないのは法の下の平等に反するというものです。これに対して、被告の国側の主張は、出生後に認知されたとしてもそれだけで日本国籍を取得できるという法律の規定はないので、国籍取得届けを出したとしても日本国籍は認められない、というものです。たしかに、法文にないものを裁量によって認めていくことは問題があるとする国の主張は理解できますので、認知のみでも日本人の子として日本国籍を認めるとすれば、法改正が必要になるでしょう。

この裁判に関連して、同じようなケースで日本国籍が取得できなかったフィリピン国籍で日比ハーフの子供が日本国籍の確認を求めていた裁判が、現在並行して行われています。こちらの裁判では、平成17年4月13日に東京地裁で原告勝訴の判決があり、その後国が控訴していましたが、平成18年2月28日に東京高裁で原告の日本国籍を認めないという逆転敗訴の判決が下り、現在、原告が上告しています。平成17年4月の地裁判決はこういったケースで初めて日本国籍を認めるべきとし、国籍法3条1項は憲法違反であると判断した画期的なものですが、この問題については遡ること平成14年11月22日に上級審の最高裁で憲法違反ではないという判決が下りていますので、東京高裁で原告が逆転敗訴したのはこの最高裁の判例に従ったものです。

最高裁の国籍法合憲判決を踏襲した平成18年2月の高裁判断のひと月後に、冒頭に述べたように、これとは別の裁判で東京地裁が今回再び原告勝訴、国籍法違憲の判断を下しましたが、これは父親に認知されているにも関わらず日本国籍を取得できない子供が増えている現状を踏まえ、準正による嫡出子や同じ非嫡出子でも母親が日本人である子供や日本人の父親から胎児認知された子供には国籍取得を認め、父親が日本人である非嫡出子には国籍取得を認めないのはたしかに不公平だと考えたものであり、地裁の判断は実情に沿った対応を求めているものと言えます。付け加えれば、平成17年4月の判決では結婚していなくても内縁関係で事実上の婚姻関係にあるカップルの子供の場合に日本国籍を認めたものでしたが、今回の判決は家族の態様(あり方)を問わず日本人の子であるということのみにより日本国籍を認めるという、より踏み込んだ判決になっています。

これからの展開としては、国側は控訴するものと思われます。通常は至近に最高裁の判例になったものが覆ることはあまりありませんが、果たしてどのような結論が出されるでしょうか。国際カップルの当事者や行政書士も含めた関係者は、出される判決(判例)によって現実的に対処していくことになりますので、今後の経緯が注目されます。

平成18(2006)年4月1日

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