第2日:シュバルツバルトの誘惑  2004年8月29日(日)
〜カールスルーエ南郊〜

  カールスルーエ市(Karlsruhe)について

  <所属州>バーデン=ヴェルテンベルグ州
  <人口> 28万人
  <面積> 177平方キロ

州都シュツットガルトが商工人の町なのに対し、こちらは城下町としての歴史を有する南ドイツの都市。
現在は最高裁判所が置かれ法曹の都、また工科大学を有する学園都市として知られる。

周辺にラシュタット、エトリンゲン、バーデンバーデンといった小都市があり、都市圏人口は約60万人。
富山・高岡(32万人/209平方キロ、62万人)などに近く、日本の県庁所在地クラスの大きさといえる。

交通網の視点では、カールスルーエ交通事業(VBK:Verkehrsbetriebe Karlsruhe)の路面電車に、
南郊へ伸びるアルブタール鉄道(AVG:Albtal-Verkehrs-Gesellschaft=アルブタール交通が運営)が乗り入れ、
このほかに双方の運営するバスと、ドイツ国鉄のローカル列車があった。
が、1992年に専用車で国鉄列車と路面電車の直通を開始。
これが旅客の急増につながり、運輸連合の結成、乗り入れの拡充が続けられている。

なお、他の街ではSバーン(S**系統)といえばドイツ鉄道(DB)による通勤電車のことを指すが、
カールスルーエでは郊外電車またはDBと直通するトラム系統に振られているので注意。

カールスルーエの地図
カールスルーエの路線図(カールスルーエ運輸連合の公式サイトより・PDF)
DB直通系統の路線図
※いずれも、新線開通や直通区間の延長などで、旅行当時のものと異なっています。

◆静かな朝
ぐーてんもるげん。

窓の外の街並みは、昨夜の喧騒がうそのように静まり返る。
僅かに遠い車の音が聞こえてくる。

早速、食堂でハムとパンとコーンフレイクで朝食をとる。
オカミさんが、コーヒーを注いでくれた。
家庭的な雰囲気で居心地がいい。

高級なホテルには憧れないが、こんなホテルはなかなかお目にかかれない
フロントに昨夜のお姉ちゃんはいないけど、いいホテルでした。
あうふ、びーだーぜうえん・・・・。

ホテル前

路面電車で中央駅に行く。そして、本日合流予定のH2氏を探す。
初日のフランクフルトの悪夢が頭をよぎったが、ちゃんと駅の中央通路に彼は立っていた。
とりあえず、今日の第一関門はクリア。めでたしめでたし。


それでは路面電車に乗って・・・と行きたいが、まあ鉄ちゃん3人寄れば中央駅の構内を見ない訳にはいかない。
中央通路の入口には、国際空港並みの大きさで「ザ・ベストテン」方式の列車出発案内が並んでいる。

30万都市とはいえ、駅の構内には約10番線まで存在し、
ローカル列車、ICE、急行、近郊電車にディーゼルカー、果てはカールスルーエ名物のトラム型車両までなんでもやってくる。
キリがないので、適当に切り上げて本題へ・・・・・。
DB201 地下駅
●旧塗装で残っているDB181形201-5号機(左)  中央駅にもやってくるトラム用車両とIC用ペンテルツーグ

◆森へ行きましょう
駅前にガラス張りの近代的なカールスルーエ運輸連合(KVV)の案内所がある。
ドイツ人は、こういう「ガラスの城」のような建築物が大好きなようだ。あちこちで見かける。
中には系統毎の細かい時刻表が置かれ、必要なインフォメーションはここで聞くことができる。

さて昨日のフランクフルトに続き、1.5ユーロ(207円)で路線図を買った。
これが大きな地図に書かれた立派なもの(新聞2面分程度)で、電車・バスの系統・停留所名は、KVVの範囲なら全て載っている。
主要な町は、詳細図がある。

中央駅 路面電車ターミナル
今日の行動は全く決めていない。が、もともと日本でも叡電や長電など山行きの地方私鉄が好きな私である。
そこで、南の山手へ伸びる郊外電車の、アルブタール鉄道(Albtal-Bahn ※)に乗ることにした。
この路線は途中で二手に分かれるが、終点から先の行程を考え、
S1系統の終点・バートヘレンアルプ(Bad-herrenalb)へ向かう。
バートとは湯治場のことだから、さしずめ「 ヘレンアルプ湯町」行きの郊外電車といったところか。

アルプタール鉄道は、中央駅の西側にあるアルプタール駅が本来の起点だが、
市内線の路面電車と直通し一体の路線網を形成している。
その点だけではカールスルーエの己斐と広島電鉄宮島線である。

ということで、中央駅前に丁度やってきた電車に乗り込む。
ほんの僅か市内線を走ると、左折して3面4線のアルプタール駅(Albtal-bahnhof)に入る。
現在はアルプタール線の起点のみならず、DBとの連絡線も設けられジャンクションを形成している。
さらに留置線があり、駅全体にドーム型天井の上屋がかかるなど、ターミナルの趣がある。
アルブタール駅
●市内線側から見たアルブタール駅。左2線がアルブタール線。右2線がDB連絡線。

DB旅客線をアンダーパスすると、貨物駅そしてアウトバーンを乗り越え、これから向かう山並みが目に入る。
その先は幹線道路と平走し、緑多き住宅地を走っていった。
住宅地といっても日本のそれのようなごみごみとしたイメージはなく、敷地の広い家が整然と並んでいる。
やがて再び市街地の様相を見せると、車庫があり広い駅構内を持つエトリンゲン市駅(Ettlingen stadt)に着く。
その雰囲気のよさに思わず途中下車した。
エトリンゲン市駅 エトリンゲン市駅

三角形の屋根に覆われた駅構内と芝生の上の留置線、駅前は庭園のように整備されている。
また、人口4万人足らずの街ながら、駅周辺にはきちんと人通りがあり、
日本の地方都市のように車しかこないゴーストタウンにはなっていない。

エトリンゲンを過ぎると山が迫ってくる。電車の間隔も10分ごとから20分ごとになり、路線はこれまでに増して急勾配になる。
しかし、この電車。すこぶる性能が良い。
40〜50‰の勾配をもろともせず登る。それどころか平行する幹線道路のクルマを追い抜いてさえいる。
乗り心地も快適である。
一度、京阪京津線の800形と競争させてみたい。

ブーセンバッハ(Busenbach)駅で路線は二手に分かれ単線になる。
もうひとつの終点である、イタルスバッハ(Itters-bach)へ行く路線は、道路を横断し、急勾配で木立の中へ消えていった。
そのたたずまいは、とても気になった。
ブーセンバッハ駅
●左がイタルスバッハへ行く路線、右がバートヘレンアルプへ行く路線

一方、こちらは渓谷沿いになお、進んでゆく。
このあたりは、所謂シュバルツバルトの北側にあたるが、その緑色は日本に近い感じで、親近感がある。
車内は座席が埋まる程度に乗客がいるが、やはり温泉地ゆきということもあり、年の召した方が多い。

渓もいよいよ深くなり、そろそろ行き止まりか・・と思ったとき、列車はループ線に入り、バードヘレンアルプ駅に到着した。
バートヘレンアルプ駅 ●ループ線を回り、バートヘレンアルプ駅に入線する電車。

◆美しきローカル電鉄
山と川に挟まれた小さなスペース。
その中に、三角形の屋根で覆われた3線の乗降場と、
ループ線の中央にある旧くとも、きちんと整備された駅舎。
そして小さな車庫。
これらをバランスよく配置した駅構内は、それだけでも魅力的であった。
なにより電車で到着した人たちで構内が大変賑やかなのが印象に残る。

やがてループの内側の道に数台のバスが到着し、ホームに横付けし、乗換え客を載せて行った。
この駅の美しさは、機能美でもあることを認識した。

バートヘレンアルプ駅 バートヘレンアルプ駅

駅の裏手に登る。
ほどよい大きさの駅の後ろには、シュバルツバルト中に旧家が見え隠れしている。
それは、模型鉄道の作者が夢見る終点の景色そのものであるる。
いや、この路線自体、地方私鉄ファンが求める理想的な姿の一つであろう。

  市街地を併用軌道で抜け→国鉄駅と少し離れたターミナルから専用軌道に入り→
  これから向かう山を望みながら郊外の住宅地を抜けると→やがて車庫のある小さな街の中心へ→
  そして路線は二手にわかれ→急勾配で渓谷をのぼり→やがて温泉街の終点へ・・・。

それがとても美しい形でまとまっている。
思わず3人でため息をついた。

それと同時に、永平寺、谷汲、秋保、花巻・・・・といった永劫の彼方へ消えていった、日本の田舎電車の名前を数えていた。
私が諦めていた地方私鉄の生き生きとした姿を、漸くドイツの地で見ることができた・・・という思いと、
一方で、似たような沿線を持ちながら、多くの路線が消えて行く日本の現実は、余りに乖離しすぎていて
なおのこと、淋しい思いを抱くのである。
バートヘレンアルプ駅

実際、日車標準型あるいは京阪80、はたまた上田の丸窓といった電車が走っても
似合いそうな景色である。
だが、これをそのまま日本を舞台にした架空の鉄道に置き換えても綺麗過ぎて、白けてしまう気はする。

さて、駅のホームの近くに留置線があるのだが、ここはレンガタイルが敷き詰められ、普段は広場として使われているようである。
そこに、蒸気機関車用の給水スポートがある。最初は非電化時代の遺産を使った飾りモノだと思っていた。
しかし、駅の近くにあるポスターを見てびっくり。
イベント時には、この急勾配の路線を、貨物用の本線ロコが登ってくるらしい。
(参考ページ)http://www.rail-and-relax.de/7101/ (独文)

また、駅のはずれからは、小さなケーブルカーが出ている。 路線図に載っているので立派なものを期待したが、
温泉旅館にある程度の小さなものである。
ケーブルカー

◆バスとトラムでシュバルツバルトへ
結局、ここで1時間を過ごした私達は、244系統のバーデンバーデン行きバスで山を越える。
暫らく走ると、バードヘレンアルプの中心地で、ホテルが立ち並んでいた。
アルプタール鉄道と相俟って、カールスルーエの伊香保といったところか。

森の中の坂道を快調に走るが、いつのまにか天候は悪化し、土砂降りの雨である。
すると、車内まで土砂降りである。ベンチレータから雨漏りしていた。

小さな集落を石畳の道で抜けて行く。こういう鉄道のない街に降りてフラフラするのもよそ良さそうだなあ・・と思っていた。
このバス路線、1時間ヘッドで走っており、ここまでの沿線に特に大きな集落はない。
しかし空気輸送ということはなく、常に十数人の客が乗っていた。

ゲルンスバッハ中駅(Gernsbach-mitt)でバスを降りた。
ここで乗り換えるムルクタール線は単線の電化路線で、DBからアルブタール交通に営業権を移管された路線である。日本でいう第2種鉄道と第3種鉄道のようなものだ。
この駅は新設されて間もないと思われる片面ホームの駅だが、乗客のための広い駐車場がある。
いわゆるパークアンドライド用だが、今日は休日ということもあるのかガラーンとしている。
ここから、カールスルーエ方向に戻ってもいいが、折角なんだから山のほうへ行ってみたい。
ゲルンスバッハ・ミッテ駅
●ゲルンスバッハ・ミッテ駅 線路を挟んで反対側に広がるのがパーク&ライド用駐車場

やってきたのはS41系統。これこそ、かの有名な路面電車−普通鉄道直通車(ツヴァイシステム)である。
通常、「DB直通トラム」と書かれるので、市内線が主体でそんなに長くない距離だけ鉄道線に乗り入れるようなイメージを持つ。
しかし現実は、市内線になるのはカールスルーエとハイルブロン、ヴェルトの中心地だけで、大部分はDBの鉄道線である。
しかも、このS41系統は、ハイルブロンハーモニー〜フロイデンシュタットの150Km近い距離を走りぬける。
うち、路面を走るのは10Kmにも満たないだろう。

3連接車体の電車に乗り込む。けれども、路面電車という雰囲気は全くない。
それもそのはず。編成長36.5m(重連時72m)、車体幅2650mmで、車輪の直径も大きい。
写真だけ見ていると、スマートな路面電車くらいにしか思わないが、それは誤解だった。
日本の電車で最も近い印象を持ったのは、西鉄大牟田線の特急電車である。

従って都電の7000、あるいはグリーンムーバなどの路面電車が、JR幹線を走る景色を想像するのは間違いである。
むしろ、実態は逆で、JRの701系や125系、815系といった幹線用の普通電車が、
市街地で僅かな距離、路面電車に乗り入れているようなものである。

さて、この電車も山間を進んでいくが、谷間が広い上に
もともと普通鉄道(ヘビーレール)ということもあるのか勾配も緩く、雰囲気はアルプタールと全く異なっている。
あちらに似合うのが日車標準型だとすれば、こちらには115系かキハ40が走ってきそうである。
無論、車窓に映る景色はドイツの美しい森。
日本なら、そこに「J○SCO××店 駐車場500台」やら「○○の隠れ湯 あと×km」などデッカい看板が
立ち並んで台無しになること請け合いである(まあ、それが日本らしいんでしょうけど)。

やがて、この列車の終点であるフォルバッハ(Forbach)についた。
駅名票を見ると(schwarzwald)とある。そう、こここそ正にシュバルツバルトなのである。
フォルバッハ駅 フォルバッハ駅
川沿いの駅から見上げると、緑の中に赤茶色の屋根が並んでいた。
その中心には教会の塔がつき出ている。キブリのキットそのものだと、不純なことを思いつつも
こんな環境が、街の中心からそう遠くないところにあるカールスーエ都市圏が羨ましい。

バス停には老人が日向ぼっこ、駅前には自転車に乗った若者がたむろしている。
時間が、とてもゆっくりと、流れている気がした。

フォルバッハ

なお、S41系統の終点フロイデンシュタットは、さらにここから山を分け入って南下したところにある。
2駅先からはKVVの範囲を出る。

◆華やかすぎるのは拒絶反応・・
降り返しの電車でカールスルーエ方面へ戻る。真新しい駅も多いが、
それらは恐らく路面電車直通車の運行開始にあわせて作ったものだろう。
この部分だけとれば、実は日本の地方都市でも行われている列車増発や駅の増設と
そんなに変わらないように思う。違うのは車両の市内線直通と、運賃が共通制度なことくらいか。

山を降りると、工業地帯が続き貨物線があちこちから合流する。
間もなくフライブルグ方面への本線と合流するラシュタット(Rastatt)である。
古いドイツの路面電車ファンなら、車両メーカーが存在したことを思い出されるだろう。
しかし、駅そのものは小汚らしい感じで、駅前にも活気はない。

電車を下りると、横をICEが抜いていった。方や300Km/hで高速新線を飛ばし(在来線でも200Km/hは出す)、
片や市内のトランジットモールを走りぬける。そんな両極な電車が、同じ線路の上を走っている、
カールスルーエの発想の自由さに脱帽である。

さて、私達は、ここまで昼飯を取っていなかった。洒落た店に入ろうにも店がないのである。
従って、この駅構内にあったファーストフード店のようなところで、テイクアウトのものを買った。
値段は日本のそれと対して変わらないが、パンがデカイ。それにしても、またしてもパンとハムである・・。
食べ始めると問題が・・・。何故かブヨが沢山飛んでいるのである。
追っ払って追っ払っても、しつこくアタックしてくる。「nicht!」と言ったって虫相手に通じるわけがない。
そのうち、紙コップの中を見ると、ジュースの中に溺れたブヨが・・・。万事休す。

一駅南(といっても8Km近い)のバーデンバーデンへ向かう。
今度は普通の機関車牽引のローカル列車であった。でも、乗り方は、市内電車やバスと何ら変わりがない信用乗車方式である。
直通トラムの成功は、こんなところにも理由があると感じた。

バーデンバーデン(Baden-Baden)は、その名からわかる様に温泉(とカジノ)を中心とした観光都市である。
従って駅もラシュタットと打って変わって小奇麗な感じだ。
しかし、ここは街外れ、市街中心へはバスに揺られていかねばならない。
そこで、駅前に停まっていた連節バスに飛び乗った。
しかし、人口5万人だというのに、バスは頻繁に走っている。
連節バス 連節部分

バスは緑の並木道を進んで行く。
連接バスは、欧州では極ありふれた乗り物である。
日本でも幕張で乗ることができるが、この車両との違いはエンジンの位置にある。
すなわち、幕張のタイプは前の車両が後ろの車両を引っ張って走るのに対し、 こちらは、後の車両が押して走る。
そのためか、前の車両との関節の部分でつんのめる感じで、乗り心地はギクシャクとして、あまりよくなかった。
最も幕張のタイプは、後に乗ると前の車両に振りまわされている感じがするのだが。
この国のことだから、そのうちここに路面電車を敷いて、ツヴァイシステム車を乗りいれさせるんじゃないか?
と思ってしまった。

15分ほどで街の中心である。
たしかに賑わっている。が、いかにも観光地観光地したギラギラ感が溢れていて、どことなく居心地が悪い。
バーデン・バーデン
たとえば、建物にしてもある特定のものだけが美しく、なにか全体が浮いているような感じなのである。
ぐるっと一回りしてみたものの、一向に興味が沸かない。
温泉に入って見るか!と思ったものの、大○戸温泉物語並みの料金。だいたいこっちの温泉は
水着着用じゃないか・・・。半ばうんざりして、バーデンバーデンの駅に戻った。
バーデン・バーデン
●バーデンバーデンの教会。八角と四角が組み合わさった形状にH2氏は「安土城」みたい・・と呟いた。

◆停電はしません
バーデンバーデンから、一気にカールスルーエまで戻る。
今度は、ツヴァイシステム車の重連(S4系統)である。この片方が、レギオビストロ・・・つまり喫茶店つきの車両だった。
中間車体の片隅にちょっとしたコーヒースペースがある。しかし、残念なことに現在は営業していない。
今は、むしろ便所つきであることが重宝されているようだ。
近年の増備車は、ビストロなしでも便所が取り付けられている。
まあ、これだけ長距離運転になれば、流石に問題が出て来るのだろう。
ビストロカー

カースルーエまでの車窓は、駅を出ると小さな市街地はスグに終わって、見渡す限りの大農産地帯が広がる。
これの繰り返しである。
北海道、とりわけ空知平野に似た感じだが、それよりも激しいメリハリがある。
市内の密度は極端に高く、郊外の密度は極端に低い。

何本ものIC・ICEとすれ違う。
この電車も、加速が良いが、それが高速域に入っても衰えないのは流石である。
車窓 ICE

やがて機関庫が見えてきた。もうカールスルーエの駅構内である。
突然ポイントを渡ると、それが市内線との連絡線で、アルプタール駅へと滑り込んだ。
ここに交直流のデッドセクション(DB: AC15000V 16・2/3Hz 路面電車:DC750V)があるのだが、常磐線のような停電はなく、
どこにあるのかさえ全く解らなかった。
あとは、市内の併用軌道を走って行く。勿論、キビキビとした走りだが、本線上をびゅんびゅん走るのとは 一味も二味も違う。
携帯●車内の注意書き。携帯がウルサイのは日本と同じらしい

◆街を歩く楽しさ
中心地のマルクト広場(Markt Platz: Marktは市場の意味)で降りた。
中央駅から1.2Kmほど離れたここを、東西に走るカイザー通り(KaiserStr.)がカールスルーエの銀座通りである。
道幅が狭い商業地の真中を電車が走っているが、
並行する幹線道路が整備されたことも手伝い、マルクト広場を挟んだクローペン広場(KropenPlatz)〜オイロパ広場(EuropaPlatz)が
トランジットモール(公共交通だけが乗り入れ可能な歩行者天国)になっている。

ドイツは休日法により商店の営業時間が決められていた関係で、日曜日に開いている店が少ない。
それでも、街は人であふれている。正直、人口28万人の都市とは思えないボリュームである。
老人から若い夫婦まで、客層も偏りがない感じである。
トランジットモール

その理由は、「街そのものが魅力的」ということに尽きると思う。
閉店している店でもシャッターはなく、ショーウィンドウが美しく飾られ、石畳と並木の並ぶ道と一体化していて美しい。
また、衣類関係の店が多く、こういった展示方法に向いている。
だから、歩いていても楽しい。
要するに、日本の百貨店内のアパレル店が、道沿いに展開しているようなものである。
量販戦略に頼らない店が多いということは、街の人も何が都心の商店街にあればよいか、わかっているのだろう。
トランジットモール

その中を路面電車が、静かに走りぬけて行く風景をずっと見ていた。
韓国の明洞や新村で感じた、若さのカタマリのようなギンギンの明るさとは違う、もっと成熟した、穏やかな明るさが街にあふれていた。

「美しく老いる」と言ってしまえば元も子もない。
だが、日本の地方都市には、今やどちらの明るさもない。
県庁所在地レベルの街でさえ空洞化は進み、百貨店の経営不振や破産を耳にすることが多い。
最も、極端な寒暖差に風水害と災害がフルコースの日本では、シャッターなしなど問題外だし、
そもそも店と道(ショッピングセンターなら通路)が一体化して商品が溢れることが繁栄と見られる日本では、賑わいのカラクリそのものが違う。
だから、比較をしたところで空しくなるだけなのだが、
もともと都会育ちの私にとっては、ショッピングセンターに頼るだけの街は、寂しいのは確かだ。

トランジットモール トランジットモール
なにより、みんなが来たいと思う街が、中心にあることが羨ましい。
もともと路面電車がなくとも魅力的な街があり、その経営戦略として電車を有効活用してそれが相乗効果になっている・・・と、私は思えた。
日本での論議は、ハードウェア指向が強く、何かをつくるだけで街の魅力全てを引き出せる。。という他力本願な展開になることが多いのは残念である。

ちょっと説教じみててしまった。

ところで、トランジットモールだからといって、軌道敷内を歩行者がのべつまくなし歩いているわけではない。
必要な時以外は、あまり渡らないようである。

思わずソフトクリームを買って食べる。同行の二人があきれて見ている。
言っておきますが、私は甘党です・・・。

◆森を抜けたら
さて、H2氏の長旅の疲れも考えて、昨日と同じホテルに厄介になることにした。
階段を上がると、昨日の夜、笑顔で私達を迎えてくれた娘さんが、今度は爆笑で迎えてくれた。

「とぅでい いず すりーぱーそん」
再び怪しい英語で通じたが、エキストラベットを用意するのに時間がかかると言う。
その間、荷物を置いて、再び街に出た。

で、どこへ行くか・・・ということになるが、今朝ブーゼンバッハで見たイテルスバッハへ行く路線が、 どうしても気になっていた。
そこで、イタルスバッハへ行くことにする。

朝に乗ったのと同じ路線をひた走り、ブーゼンバッハへ。ここからが、S11系統単独区間である。
ブーゼンバッハ駅
●ブーゼンバッハ駅に入線するS11系統

森を抜けると、もっと凄い山岳区間が・・・と期待していたが、さにあらず、高原のような野原と森であった。
なにか小海線の野辺山附近を乗っているような気がする。
列車の前方を見ていたが、やがて遮光幕が降りてしまった。
まあ、遮光幕云々で騒いでいるのは、日本の鉄ッちゃんくらいだと思うが・・・。
高原の車窓

やがて、終点のイタルスバッハ役場前(Ittersbach Rathaus)へ。
新興住宅地の空き地にループ線を無理矢理敷いたような、あっけない終点だった。
それまでの景色とのギャップが面白い。

さーて、写真を撮って引き返すか。。と、列車から降りてカメラを構えていると、
石炭袋を複数抱えた爺さんが何やらわめきたてている。そして追いかけてくるではないか!
身の危険を感じた我々は、急遽車内へ逃げ込んだ・・・。
その爺さんは、運転士氏と話して収まった様だが、やれやれ、やはり外国では緊張感を解いてはいけない。
役場前●おかげでこんな写真しか撮影できませんでした。

◆野菜を摂るにはファーストフード
カールスルーエ中央駅に戻ってくると、もうとっぷりと暮れていた。
夕食をとらねばならない・・・、すると、丁度目の前に飛び込んできたのがドネルケパブである。
日本でも渋谷や秋葉原で、クルマの後で売っている、アレである。
これは、西ドイツが大量に受け入れたトルコ系移民が開設したもの。
今やドイツ国内に1万店はあると言われ、ファーストフードになっている。

焼いたパン生地で肉と野菜を巻いたものだが、この2日間、ロクに口にしてない野菜があるのが嬉しい。
辛さはちょっとキツイが、塩気など味付けは、日本人うけすると思う。
だから、日本でもクルマのスタンドではなく、2坪でも店があればいいのに・・と思う。
ちなみに、ここでミネラルウォータを買ったのだが、これまた炭酸入り・・・。
夜の中央駅舎

構内にあったメルクリンの鉄道模型のレイアウトを、H1氏がコインを入れて動かしてみた。
ドイツの主要駅には、必ず存在する。こうして子供を鉄道マニアへと洗脳しているのである(笑)。

さて、折角ドイツに来たんだからビールくらい飲まなきゃ・・・・。
欧州広場へ路面電車で戻ってきた私達は、広場のテラスでビールを、飲むことに・・・。

つまみがないのが残念だが、若干濃い目の味が美味しい。
しかし、もともとアルコールに強くない上に、ケパブだけでは酔いが回るのは早くなると言うもの。
金太の大冒険を歌っても誰にも通じない!なんて最高なんだ。
何言っているかわからなくなってきた。

バカすぎてごめんなさい


※)アルブタール鉄道という名称は開業時のもので、数度の事業者変遷の後、1957年以降はカールスルーエ市が
 出資したアルブタール交通(AVG)が経営している。
 しかし、AVGは現在、カールスルーエ周辺の他の郊外線や、DB直通トラムの運行にもかかわり
 その内容が大きく変化しているので、ここではあえて「アルブタール鉄道」の名を用いた。

◆カールスルーエの電車

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