遊 旅人の 旅日記
長浜から彦根へ |
AM6:00出発。R8を<彦根>に向かって歩く。 曾良は<長浜>から<彦根>へは琵琶湖の船便を使っている。 一時間半ほ程歩くと左、<関が原>方面からR21が合流してくる。合流してくるR21は、大型のトラックで渋滞している。ものすごい排気ガスだ。排気ガスの充満している道を暫く歩くと<米原駅>の前に出る。 空を覆っていた雲も晴れ素晴らしく良い天気になった。ベンチにリュックを下ろし休憩。 米原の駅は広大な駅である。東海道新幹線、東海道線、北陸線が停まる駅である。また近江鉄道の始発駅でもある。 一方、駅舎はと言うと、主要な鉄道が止まる駅にしては、こじんまりとしている。 JRの駅舎の向かい側、少し離れたところに、遊園地の電車の駅のような近江鉄道の建物がある。 ほのぼのとした雰囲気を感じさせる駅だ。 ちょうど通勤時間帯である。ずーと見渡せるプラットホームには、上下双方から次々と列車が入ってきては出てゆく。 直ぐ近くにある、工場(研究所)に出勤してくる人が、降りてきては、ぞろぞろと工場に向かって歩いて行く。 通勤者に混じって旅行姿の、若いOLか大学生と思われる女の子が二人改札口から出てくる。 荷物をベンチに置いて、さんさんと降り注ぐ夏の朝の光の中で、駅舎をバックに写真を撮り始める。暫くすると私に<写真を撮ってください>と言ってくる。快く数枚の写真を撮ってあげる。 米原駅を後にしてR8に戻り、彦根に向かう。 彦根市に入ってまもなく、左側に<摺針峠>の大きな看板が立っている。曾良が<彦根>から<大垣>に向かうとき越えた峠である。私も明日はこの峠を越えて大垣方面に向かうのだ。 少し行くと近江鉄道の<鳥居本駅>がある。今の若い女性が見ると<かわいい>と言いそうな駅である。小休止。 駅を出て先ほど歩いてきたR8を横切り、旧道、中仙道の六十三番目、<鳥居本の宿>の町並みを歩く。昔の俤を残した建物が散見される。曾良はここで宿をとっている。 再びR8に戻り坂道を登ってゆくとトンネルがある。佐和山トンネルである。<佐和山>といえば<石田三成>の居城が有ったところである。 トンネルを出ると右側に公園(休憩所)があり佐和山の説明がある。公園から階段を下り、市街地に入る。 線路をくぐり、左に行くと彦根の駅前に出る。今宵のホテルも駅のそばにある。 ホテルに荷物を預け、まず駅にある観光案内所に行く。芭蕉の足跡を訪ねて歩いていると言うと、俳句に詳しい人がいると言うが、今は席をはずしていていない。<俳遊館>に芭蕉に詳しい人がいるからと電話をして聞いてくれる。 句碑のある<明照寺>、芭蕉の泊ったと言う<小林家>、曾良が参拝をした<多賀大社>を教えてくれる。 「歩いて行く」と言うとやはりびっくりしている。特に多賀大社は歩いてはとても無理だ、大社行きの電車があるからそれに乗って行ったらよい、と薦められる。お礼を言って観光案内所を出る。皆親切だ。 商店街を歩いて明照寺に向かう。新しい商店街から急に昔ながらの商店街になる。さらに歩いてゆくと郊外型の平らな町並みになる。 小さなタクシー会社で明照寺を尋ねると、すぐに教えてくれる。 明照寺に着くと、立派な山門が出迎えてくれる。山門前、右手 植え込みの中に<芭蕉翁笠塚>の碑と、この寺に滞在したときに詠ったという「百歳の 景色を庭の 落葉かな」の句碑がある。 芭蕉に形見としてもらった渋笠が埋められている笠塚が境内にあると説明されている。 芭蕉が参詣し、滞在した、このお寺、また<百歳の・・・>の句も「奥の細道」を歩いた時に泊った場所、また詠んだ句ではない。深く追求しないで明照寺を後にする。 南彦根駅を目指し歩く。次に高宮駅を目指し歩く。 彦根市内の道路標識は解りやすく、また字も大きい。 高宮駅の手前の古い商店街を右に曲がる。少し行くと大きな鳥居が道端に立っている。鳥居を過ぎ少し行くと、右側に古い格式のありそうな<小林家>がある。芭蕉がこの小林家に泊ったのは貞享元年(1684)というから「奥の細道」を歩く五年前である。家の前には<紙子塚>の碑がある。 小林家では芭蕉に新しい紙子を送り、置いていったふるい紙子を庭に埋め<紙子塚>と名付けたと説明されている。また、その時詠んだ句が「たのむぞよ 寝酒なき夜の 古紙子」と説明されている。 明照寺に訪れた時期は、<形見にもらった渋笠>の説明から推測すると、晩年に訪れたのではないかと思われる。 生まれ故郷の伊賀上野をはじめ、近畿・関西地方にはしばしば訪れていたのに違いない。 鳥居まで戻る。多賀大社鳥居(一の鳥居)と説明されている。 多賀大社まで3kmとある。案内所では遠いと言われたが、そんなに遠くはない。多賀大社に向かう。 鳥居をくぐり川沿いに歩く。最初は参道らしい雰囲気だったが次第に普通の田圃、畑の中の道になる。 小一時間ほど歩くと門前町の雰囲気が出てくる。左手に大きな森があり神社の前に出る。 曾良が<多賀へ参拝>と書いている<多賀大社>である。 太鼓橋を渡り山門を入ると落ち着いた渋い色の、端正な佇まいの社殿がある。参拝をした後、暫く境内で落ち着いた雰囲気を味わう。心身ともに洗われる。 帰路に着く。彦根市街まで真直ぐの一本道を歩く。 市内に入り、駅の観光案内所に行き、お礼と報告をする。多賀大社にも行ってきたと話すと、びっくりしている。 ホテルに戻りチェックインをする。フロントの若い女性が宿泊カードを見て「お誕生日、おめでとうございます」と言う。「えっ!」と思ったが、今日は自分の誕生日だ!60才になったのである。60才を「奥の細道一人旅」の彦根で迎えたのである。 なぜか私よりもフロントの女性の方が感激している。暫く話をした後、お礼を言い部屋に向かう。 女性の一言が心に沁みる。 明日は一気に最終地、大垣までと思ったが少し距離がある。<関が原>までとする。 |
曾良日記 |
便船シテ、彦根ニ至ル。城下ヲ過テ平田ニ行。禅桃留主故、鳥本ニ趣テ宿ス。宿カシカネシ。夜ニ入、雨降。 一 十三日 雨降ル。多賀ニ参詣。鳥本ヨリ弐里戻ル。 |
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