遊 旅人の 旅日記

2003年7月21日(月)曇り時々雨

遊佐町吹浦から象潟へ
今日は、象潟を訪れる。
芭蕉にとって、この象潟を訪れる事は、歌枕を求め「奥の細道」を歩き始めた一つの目的であった。

「江ー山水ー陸の風光 数を尽くして 今 象潟に 方寸責」
と、「今まで、数限りなく美しい風景を見てきたが、この象潟の素晴らしい景色も、しっかりと心に刻んでおこう」と言っている。
一方で、象潟から受ける印象を松島と比較して
「俤 松島にかよひて 又 異なり 松しまは わらふかことく 象潟は うらむかことし さひしさに かなしひを くはへて 地勢 魂を なやますに似たり」と言い、景色は、似ているが、松島が<陽>の印象なのに対して象潟からは<陰>の印象を受ける、と言っている。。
奥の細道を解説をしている簑笠庵利一は、
「菅菰抄」の中で「象潟は、羽州由利郡に在。日本十景のうちにして、当国第一の名所、佳景の地。八十八潟、九十九森ありと云ふ。江のかたち、きさに似たり。・・・きさとは象の和名なり。」と、当時の象潟の景勝を表している。
1804年(文化元年)6月4日夜10時頃<象潟大地震>が発生、土地が2m程隆起し潟はなくなってしまった。
日本全国を測量して日本地図を作成した、伊能忠敬が象潟を測量した二年後のことである。
1809年から潟の開田が始まり、現在は田園となっている。


リュックを宿に預け、一日分の着替えと、パソコンを持って、AM7:30出発。
昨日の真夏の天気と うって変わって、低く垂れ込めた雲から今にも雨が落ちてきそうな天気である。

海岸沿いの道を象潟に向かい北上。30分程歩くと、
<湯の田温泉>が道路の左下、海岸寄りにある。旅館が二軒並んでいる。一軒の旅館の玄関先まで下りてゆく。
朝まだ忙しい時間のため申し訳ないと思ったが、芭蕉のことを尋ねる。忙しい時間にもかかわらず、対応してくれる。「吹浦に泊まって
<夕すゝみ>と詠んでいるから、どこかに泊まったことは間違いないが、何処に止まったのかは判らない」と言う。
突然、芭蕉のことを聞かれ、句が即座に出てくるのもすごいなと思う。お礼を言って旅館を後にする。


<女鹿>でR7に合流。
AM9:00、曾良日記に
「是ヨリ難所。馬足通不。・・大師崎共、三崎共云。」とある<三崎>に到着。
<うやむやの関跡>の案内も有る。痕跡は何も無い。
<奥の細道・三崎旧街道>の案内がある。R7から離れ旧街道を歩く。木が生い茂り、草ぼうぼうの、坂あり、岩場あり、昼なお暗き道である。
昔の道は街道とは言え、皆このような道だったに違いない。当時の往来をしのびながら歩く。舗装道路を歩くよりも気持ちが良く、楽しい。
途中
<大師堂>と言う祠がある。
この三崎とは、不動崎、大師崎、観音崎のことを言う。
旧道を下ってくると、爽やかな木々に覆われた公園に出る。旧道に別れを告げ、R7と合流する所にあるドライブインで小休止。
旧街道の途中から秋田県に入っている。良くここまで歩いてきたものだと改めて自分に感心をする。
さらに北上をし、
<小砂川>を過ぎ、<大須郷>に入ると風力発電の風車が見えてくる。
<関>で雨が降り出し、瞬く間に土砂降りになる。


通り沿いのガソリンスタンドの壁に、手書きの象潟の絵が描かれている。
ガソリンスタンドの主人に話を聞く。
全体を見るには、R7沿いに、ドライブインがある、その展望室から見ると良い。象潟が一望できると教えてくれる。




山形県側三崎旧街道入り口




三崎旧街道




三崎旧街道にある大師堂と一里塚




秋田県側三崎旧街道入り口



ガソリンスタンドにあった象潟の絵



象潟駅の芭蕉文学碑



かん満寺の山門と舟つなぎ石



かん満寺の芭蕉像と句碑



象潟の眺望と能因島
13:00 象潟駅に到着。駅の観光パンフレットで、芭蕉ゆかりのスポットをチェック。
駅の前に
<奥の細道・芭蕉文学碑>がある。
駅をでて、線路を渡ると、雨に煙った、緑一色の田圃の風景の中に出る。
そよ風になびく稲の波の上、濃い緑の松の木が立つ小さな島々が点在している。
芭蕉の訪れた頃は、一面海だったのである。その海に、今見られる島が浮かんでいたのだ。
芭蕉はその景観を松島と比較している。
今でも、田植えの頃は、田に水が張られ、島が 海に浮かんでいるように見えると言う。
島には、それぞれ名前がつけられている。
奥の細道に
「象潟にふねをうかふ 先 能因嶋に舟を寄せて」とある<能因島>に行く。一番手前の島である。次に、田園の風景の中を歩き、「むかふの岸に 舟を あかれは 花の 上 こく(漕ぐ)と よまれし 桜の老木 西行法師の記念を残ス 江上に御陵あり 神功皇后の御墓と云寺を干満珠寺と云」とある<象潟島><かん満寺>に行く。
境内には、やはり横の入り口から入ることになってしまった。
正面入り口に向かって歩いていると、法事を行う人達とすれ違う。
小さな小屋があり、中年の女性がいる。見学・参拝者は、ここで入場料を払ってから入るのである。改めて料金を払う。
女性に象潟のことを色々と教えてもらう。
鳥海山の話も出てくる。鳥海山の登山は、アップダウンがあり結構大変だ。しかしハイキングや登山の好きな人には、非常に人気があり、またポピュラーであるという。この女性のご主人は毎週一回の割合で登っているそうだ。ご主人のことでも、毎週のように登る理由・目的はわからないと言う。
目の前に山門があり、そちらが正面の入り口だと教えてくれる。
女性との世間話が先になってしまった。


山門を一度出て改めて入りなおし、境内を散策する。この
<かん満寺>は比叡山延暦寺の慈覚大師の開山である。
境内には苔むした
<芭蕉の句碑><親鸞聖人の腰掛け石>、海があったころの船着場には、<舟つなぎ石>、また<かん満寺の七不思議>などが見られる。
雨の日にもかかわらず、見学客が三々五々 史跡を丹念に見てまわっている。
山門を出ると池があり、池を巡ってゆくと、
<芭蕉の像>があり、句碑が建っている。
芭蕉はこの寺で、方丈に座し、静かに象潟の風景を心に刻んだのである。
そして句を読んでいる。
一方、松島では、素晴らしい景色を目の当たりにしながらも、句は詠んでいない。


かん満寺を後にしてR7に出ると、向かい側に、素晴らしくきれいな
<道の駅「ねむの丘」>がある。
今日は、<海の日>で祭日だ。駐車場も館内も行楽客で一杯だ。正月やお盆の帰省客で混雑する、高速道のサービスエリア並である。
人並みをかき分けエレベーターに乗り6階の展望塔に行く。
ガソリンスタンドの主人、かん満寺の女性が言っていたように、九十九島が一望できる。雨に煙った象潟・九十九島も素晴らしい眺めである。しばらく景色を堪能したのち、展望塔の反対側に行ってみる。こちらは、目の前全面日本海。やはり素晴らしい眺めである。


一階に下りて館内を見て回る。海産物はもとより、地元で取れた農産物も直売している。温泉施設も併設されている。屋外では、岩牡蠣を焼いて売っている。食欲をそそる良い臭いが辺り一面に漂っている。
観光客だけでなく日常的に、地元の人達が、よく利用出来る様に造られた<道の駅>である。
PM4:00宿に入る。


象潟は、「奥の細道」の行程の中で最北の地点である。これからは日本海沿岸を福井の敦賀まで下る。
国道のようなまっすぐな道で、ざっと700km程か。芭蕉は、酒田から
「加賀の符まて百三十里と聞」と計算をしている。

今までは、「奥の細道」を東京から、ここまで歩いてきたと言う思いであったが、今、最終地 大垣までの行程を改めて検証し、踏破できるという確信を持つに至る。

明日は、象潟の町の中をめぐり吹浦に戻ろう。

おくの細道
江ー山水ー陸の風光 数を尽して 今象潟に 方寸を責 酒田の湊より東ー北の方 山を越 礒をつたひ いさこを踏て 其際 十里 日影やゝ かたふく此 汐風真砂を吹上 雨朦ー朧として 鳥海の山かくる 闇ー中に莫ー作して 雨も又奇なりとせは 雨後の晴ー色又頼母敷と あまの苫屋に膝を入て 雨の晴るゝを待 其朝 天能晴て朝日花やかに指出る程に 象潟に舟をうかふ 先 能因嶋に舟をよせて 三年幽居の跡を とふらひ むかふの岸に舟をあかれは 花の 上こくと よまれし桜の老木 西行法師の記念を残ス 江上に御陵あり 神功后宮の御墓と云寺を干満珠寺と云 この処に御幸ありし事 いまたきかす いかなる故ある事にや 此寺の方丈に坐して 簾を捲は 風景 一眼の中に尽て 南に鳥海 天をさゝへ 其陰うつりて江に有 西は むやむやの関 路をかきり 東に堤を築て 秋田に かよふ路 遙に 海 北にかまへて 波打入るゝ処を 汐こしと云 江の縦横一里はかり 俤松嶋にかよひて又異なり 松しまは わらふかことく 象潟は うらむかことし さひしさに かなしひを くはへて 地勢魂を なやますに似たり
         
象潟や 雨に西施か ねふの花
       汐越や 鶴はきぬれて 海涼し
           祭礼          曾良
       象潟や 料理何ふく 神祭 
             美濃国商人    低耳
       あまの家や 戸板を敷て 夕すゝみ
           岩上に みさごの巣を見る  曾良
       波こえぬ 契ありてや みさこの巣 

               
曾良日記
○十六日 吹浦ヲ立。番所ヲ過ルト雨降出ル。一リ、女鹿。是ヨリ難所。馬足通不。番所手形納。大師崎共、三崎共云。一リ半有。小砂川、御領也。庄内預リ番所也。入ニハ手形入不。塩越迄三リ。半途ニ関ト云村有(是ヨリ六郷庄之助殿領)。ウヤムヤノ関成ト云。此間、雨強ク甚濡。船小ヤ入テ休。
○昼ニ及テ塩越ニ着。佐々木孫左衛門尋テ休。衣類借リテ濡衣干ス。ウドン喰。所ノ祭ニ付テ女客有ニ因テ、向屋ヲ借リテ宿ス。先、象潟橋まで行テ、雨暮気色ヲミル。今野加兵ヘ、折ゝ来テ訪被。
俳聖 松尾芭蕉・芭蕉庵ドッドコム

遊佐町公式ホームページ

にかほ市公式ホームページ(象潟町)
     象潟や 小雨に煙る 青田波  (遊 旅人)