遊 旅人の 旅日記

2003年7月20日(日)晴れ

酒田から遊佐町吹浦へ
ホテルで朝食を済ませ、AM8:30出発。
曾良日記に
「象潟ヘ趣。・・・吹浦ニ到ル前ヨリ甚雨。昼時、吹浦ニ宿ス。此間六リ、砂浜、渡シ二ツ有。」と有るように、芭蕉と曾良は酒田を発ち<象潟>に向かったが、<吹浦>の手前から雨が激しく降り出し、昼には吹浦で宿に入ってしまっている。私も、今日は吹浦まで歩く。曾良の言っている「此間六リ」とは吹浦のどのあたり迄か判らないが、現在は、酒田の駅から吹浦の駅まで、およそ20km程である。
今日の行程は距離も短い。昨夜は充分に睡眠をとり、今朝はしっかりと食事をした。体調は万全である。


外は、すでに真夏の太陽が、がんがんと照りつけている。その太陽に照り付けられ、黄緑色にキラキラ輝いている田園風景の中を歩く。風が稲の香りを運んでくる。
しばらく歩いていると、急に疲れが出てくる。歩き始めて、まだ30分しか経っていない。熱があるわけでもない、腹の調子が悪いわけでもない。原因は見当たらない。
通常であれば、AM9:00と言うと、歩き始めて三時間半程たった頃である。そのようなことは無いと思うが、体が、すでに三時間半歩いてきたと認識してしまっているのだろうか。
月山・湯殿山に登った後遺症の筋肉痛を腰、腿、ふくらはぎに感じる。また、ほとんど気にならなかった足のまめが気になりだす。
見渡す限り、田園の風景が続く県道353を足を引きずるようにして歩く。吹浦の<芭蕉句碑>
はるか左手奥には並木が続いている。その向こうは日本海だ。


やっと集落にたどり着く。家がある、木が生えている。普通の何処にでも見られる風景だが、今は非常にありがたく感じ、ホッとする。
集落を歩いてゆくと、左側に、森のような鬱蒼とした木々に囲まれた大きな屋敷がある。木々の間から、はるか奥に納屋と母屋が見える。農家のようだ。低い石垣造りの道がカーブをして母屋の庭先へと伸びている。炎天下にもかかわらず、その敷地内は、濃い緑色のしっとりとした空気に包まれている。
道路の向かい側を見ると、こじんまりとした、お菓子屋さんがあり、店先に、飲み物の自動販売機がある。ほとんど無意識のうちに500mlのスポーツドリンクを買ってくる。石垣にリュックを下ろし、腰をかけ、一気に飲む。胃から吸収された水分が、手の先、足の先まで、全身隈なく染み渡る。身体に生気が戻ってくる。二本目は350ml、ホッとしながらのむ。30分程ボーっとしながら、しっとりとした緑の空気の中で身体を休める。石垣周辺に生えている雑草を触って見ると、気持ちの良い感触が手のひらから伝わってくる。草や木からもエネルギーをもらう。


生気を取り戻し、リュックを背負い、ペットボトルを捨てようと自動販売機の所に行くが、捨てる入れ物が無い。周辺を探すが見つからない。しばらく、うろうろしていると、店の中から人が出てくる。その人が受け取ってくれる。
飲み物の自動販売機が設置されていても、飲み終わった空き缶やペットボトルを捨てる入れ物が無い所はよくある。一時間も二時間も空のペットボトルを持って歩くことになる。気をつけなければいけない。


地面が砂地になり、木の形、種類が海岸に生える植物になってくる。
松林を抜け坂を下ると町並みに入る。目の前の高い所に道路があり、車が走っている。
右側に川が流れている。月光川と言う。川に沿って歩いてゆくと、海が見え始め、川に架かる橋を渡ると右手に線路が出てくる。線路沿いを歩いてゆくと、ちょうど吹浦駅の後ろ側に出る。左手は月光川の河口で港になっている。釣り船やレジャーボートが繋留されている。対岸の松林の中は、キャンプ場になっているらしく、沢山のテントが張られている。


吹浦<十六羅漢像>宿に電話をして場所を確認すると、駅前だという。小さな踏み切りを渡り駅前に行くとすぐに見つかる。
女将が出てきて、部屋に案内してくれる。
芭蕉が泊まった宿のことを話すと、海岸の公園に句碑はあるが、宿はわからないという。
少し北に行った所に
<湯ノ田温泉>と言う所があるが、その辺りではないかと言っている。曾良が「此間六リ」といっているから、距離的に見れば湯ノ田温泉あたりでもおかしくはない。明日、象潟に行く途中に見て行こう。
荷物を部屋に置いて出かける。


月光川河口沿いの道を海岸に沿って岬を回りこんで行くと
<芭蕉の句碑>が夕日が沈む方向を見つめるように建っている。ここから見る日本海に沈んでゆく夕日は、素晴らしいに違いない。
その先に、公園がある。公園から海を見ると、岩に沢山の像が彫られている。
<十六羅漢像>である。十六体有ると説明されているので、数えてみたが全部は見つけられなかった。


宿に帰り、日記を整理し、風呂に入り、あがってくると、団体の客が、ワンボックスカーで賑やかに到着する。50〜70才位の男性4名と、50才くらいの女性2名、計6名の団体である。
夕食は食堂で団体と一緒になる。新潟の上越から来たといって、「越の寒梅」の一升瓶を持ち込み、宿の主人と女将さんを交え宴会が始まる。私もお裾分けにあづかる。
吹浦<十六羅漢像>
団体は、鳥海山に登る予定で、昨夜、上越を発ち、夜中に登山道入り口に到着。車の中で夜を明かしたが、朝になってみると、山は土砂降りの雨で登ることが出来ず、急遽、月山まで戻り登ってきたと言う。明日、再度、鳥海山に登る予定といっている。
宿の主人が、鳥海山の天気予報を、パソコンからアウトプットしてくる。明日も鳥海山は雨の予報だ。
団体は、もし雨で登れなかったら、羽黒山に参詣し帰ろう、と話し合っている。
私が、すごい行程だというと、団体は皆で、よくある行動だという。
この6人のグループでしょっちゅう飛び歩いているようだ。
私が、月山、湯殿山に登った様子を大変だったと話すと、普通のハイキングコースだと、軽く言われてしまった。

一方で芭蕉の歩いた「奥の細道」の足跡を辿って歩いていると話すと感心をされ、上越を通るときは、是非連絡をして欲しい、歓迎会をやろうといっている。

残念なことに、お互いに住所も名前も知らずに別れてしまった。これも旅での出合だ。
今日は、旅に出て初めて宴会気分を味わった。
曾良日記
○十五日 象潟ヘ趣。朝ヨリ小雨、吹浦ニ到ル前ヨリ甚雨。昼時、吹浦ニ宿ス。此間六リ、砂浜、渡シ二ツ有。左吉状届。晩方、番所裏判済。
おやすみ処
(参考)奥の細道「出羽路」(パンフNavi)にアクセスしてみてください。
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