遊 旅人の 旅日記

2003年7月10日(木)雨

尾花沢から天童へ
AM 5:15 出発。朝から雨が降っており、大雨注意報が出ている。
今日は、村山市、東根市を通り、天童までひたすら歩くのみ。およそ25〜6kmである。
尾花沢から天童を経由し山寺まで行く行程である。
芭蕉は「奥の細道」の中で
「山形領に立石寺と云 山寺有…殊清閑の地也 一見すへきよし 人々の すゝむるに依て 尾花沢より とって返し其間 七里計なり・・・」と言っている。このときの芭蕉は、山寺に行く予定は持っていなかったようである。
しかし尾花沢で
清風に世話になりながら、尾花沢大石田新庄の門下生や知人と俳句を楽しんでいるうちに、人々から「是非、山寺は一見すべき」と勧められ、急遽行くことになったようである。
一方、俳句仲間のいる、大石田、新庄には行く予定をしている。そのため山寺まで行ってしまうと、尾花沢の隣町である大石田に戻るには、七里ばかり、同じ道のりを往復することになる。それが
「尾花沢より とって返し」と言う表現になったのではないかと思う。


今でも尾花沢ー天童間はR13か県道120 で 真直ぐである。
羽州街道と言うのは現在の県道120 とほぼ同じであろうと思い、県道120 を歩くことにする。
尾花沢市内を出ると一旦 R13と合流をする。ここの国道は歩道を広くとってある。冬場、車道の除雪をするためであろうか、歩きやすいし、車の危険を意識しないで安心して歩くことが出来る。太平洋側の国道は、市街地を外れるとほとんどのところで歩道はなくなってしまう。国道を歩行者が歩くなどとは想定していないかのようである。
土生田で小休止。ここからR13と県道120 が別れている。県道120沿いには、ずーと家並みが続いている。再びR13と合流するがすぐに分かれる。

今日の天気は、土砂降りになったり、雲が切れて明るくなったりと さまざまである。村山市楯岡「愛宕神社のケヤキの木」


村山市の
楯岡云うところまで来ると ちょっとした切り通しのようなところがある。その切り通しを少し下ると右側に、大きな岩とケヤキの木が合体したような光景が現れる。
町の中であり、一瞬ドキッとするような光景である。 ケヤキの木が岩の隙間に根を張り生長したものである。一本一本に名前がついている。最も古い木(御神木)は樹齢220年ほど経ってい村山市楯岡「愛宕神社のケヤキの木」ると説明されている。
山形県指定天然記念物「愛宕神社のケヤキの木」である。


東根市に入りしばらく歩くと、左方面に
東根温泉の案内がある。
温泉と云うと山を思い浮かべるが、この東根温泉は、国道、県道のすぐ横、田圃、畑、市街地などと一緒の平地にある。
この辺りの人たちは温泉が近くにあって幸せだ、などと思いながら、黙々と歩く。
温泉街の近くにある東根駅で小休止。
駅はもぬけの殻状態、駅員も誰もいない。無人駅である。これだけの規模の駅が無人駅と云うのは不思議な雰囲気だ。
今まで休憩で立ち寄った無人駅は、皆 こじんまりとした駅で、田圃や畑に囲まれていたり、山間部にあったり、自然の中の風景に溶け込んでいる駅が多かった。しかしこの駅は市街地にあり、周りには商店もある。突然、思わぬ変化に取り残されてしまった、そんな感じを受ける無人駅である。


人影のない待合室で休んでいると、一人の中年の女性が、路線図を見て、自動販売機で切符を買い、私のいる駅舎に入ってくる。
少し離れたところのベンチに腰をおろし、マッチでタバコに火をつけ、すい始める。どこかで見たような光景だ。<そうだ、昔、伴淳三郎の映画の喜劇映画[駅前シリーズ]、その中に出てくる、人生に疲れた、場末のバーのママ、その感じにそっくりだ>と思い起こす。
話しかけると、ポツポツと駅のこと、町のことを気さくに話し始め、しみじみと今までの自分の人生を語り始める。やはり思ったとおり、今までの人生の大半を水商売に携わり、苦労をしてきている人だ。今は、山形市で 小さなバーをやっているが苦労が絶えないと言っている。人生、様々な生き方があるものだ。
話をしている間に、新幹線が通過をしてゆく。反対方向の新幹線も通る。便利になったものだ。上りの新幹線に乗ってゆけば東京駅まで連れて行ってくれる。
この女性は「東京でも長い間、働いていたが、もう東京に行くことは無いだろう」と遠くを見つめながら話していた。


この女性を一人駅に残して、歩き始める。すこし歩くと、
さくらんぼ東根駅と言う、新しく、大きく、立派な近代的な駅がある。東根駅の機能がこちらの新しい駅に移ったのだ。さくらんぼ東根駅には新幹線も止まる。

まもなく曾良日記にもある
六田と云う地名の町並みを歩いていると、「芭蕉の歩いた六田路」と書かれた道標がところ所に見られるようになる。芭蕉はこのあたりの道を歩き山寺に向かったのだ。
この六田路には
<焼き麩>と書いた焼き麩専門の商店があちこちに見られる。当地方では昔から よく小麦を栽培し収穫してきたため、焼き麩を造るようになったという。六田の名産品である。


天童市
に入る。今日は、ところどころで本格的な雨に見舞われたにもかかわらず順調に歩いてきた。
2時半ホテルチェックイン。濡れた衣服を着替え、少し休んだ後、フロントで、駅前にあると紹介された銀行に行く。天童市の将棋の駒
ホテルはR13沿いにあり、天童駅までは2km程ある。駅までの間には
天童温泉があり、大きなホテル、旅館が立ち並んでいる。この天童温泉も平地にある。
温泉街の真中に温泉神社がひっそりと佇んでいる。
温泉に来た団体客の観光バスが、そろそろ到着する時間となっている。木曜日だというのに、沢山の観光バスが次から次へと到着している。

まだ5時前にもかかわらず、雨が降っているためか、夕暮れのようだ。薄暗くなった温泉街に明かりが灯り初める。歩道の水溜りに温泉宿の明かりが映り、なんとなく郷愁を呼ぶ風景だ。

歩道の、あちこちに
将棋の駒が見られる。詰め将棋の型をしたものもある。天童は将棋の駒の産地である。


ホテルに戻る。今日歩いた距離は25〜6kmであるが、あまり疲れを感じていない。晴れた日よりも、雨の日のほうが順調に歩くことが出来るようだ。雨の日は体力の消耗が少ないのかもしれない。
明日は
山寺・立石寺だ。この天童から8kmほどである。すぐ近くだ。山寺でどのくらい時間がかかるかわからないため、このホテルに、明日も泊まることにする。
おくの細道
山形領に立石寺と云 山寺有 慈覚大師の開記にして 殊清閑の地也 一見すへきよし 人々のすゝむるに依りて 尾花沢より とって返し 其間七里計なり
曾良日記
○二十七日 天気能。辰ノ中剋、尾花沢ヲ立テ立石寺ヘ趣。清風ヨリ馬ニテ館岡迄送被ル。尾花沢。ニリ、元飯田。一リ、館岡。一リ、六田。馬次間ニ内蔵ニ逢。二リよ、天童(山形ヘ三リ半)。
俳聖 松尾芭蕉・芭蕉庵ドッドコム

天童市公式ホームページ