旅の3日目・熱気球でカッパドキアの空へ
リゾートホテルで早朝の出発準備
旅の三日目の朝はカッパドキア観光の中心地であるギョレメ国立公園のど真ん中、周囲を奇岩群で囲まれたリゾートホテルで迎えた。
ホテル窓からの眺め、周囲は奇岩群、プールもある
時刻はまだ外が真っ暗な午前4時半外である。
今日はこれから、夜明け前の6時にホテルを出発し、今回の旅行のメインハイライトの一つカッパドキアを熱気球に乗って空から観光するのだ。
朝食は気球体験後、いったんホテルに戻りとることになっている。早朝でしかもかなり空高く昇るということから、防寒対策の衣類に着替えての出発準備をあわただしく終えるとロビーに集合した。
旅3日目である。時差ボケや連日の強行軍をものともせず、旅仲間が元気に挨拶を交わしている。高所恐怖症を自称している2名を除いて、皆これから生まれて初めて乗る気球体験への期待でテンションが高いようだ。
熱気球フライト準備
やがて、熱気球を催行している会社が2台のマイクロバスで迎えにやって来た。このホテルからは私達20名の日本人グループ以外に7〜8名のドイツ人らしきグループも一緒にバスに乗り込んだ。午前6時真っ暗な星空の下、車は猛スピードで走り出した。
15分ほど走ると気球を飛ばす会社のプレハブ事務所前の待機場所に着いた。気球が飛び上がる場所に向かって走っているのかなと思ったら違うようだ。
日の出前の搭乗準備作業、バーナーで膨らましている
送迎車を降りるとプレハブ小屋前にはテーブルが置かれその上には、サービス用に用意されたクッキーやホット飲料が置かれている。
ここで気球フライト準備が終えるのや、各ホテルに宿泊している気球乗船者が揃うのを待ちながら時間調整するのである。
なぜこんな早朝に気球に乗るかというと、気球が最も弱いとされる天候(風)の状態が安定しているからなのだ。セルフサービスのホット飲料で体を温めながら談笑していると、欧米人を数名乗せた小型車が次から次やってくる。やがて会社が催行する気球に搭乗する客が揃った。
世界複合遺産「カッパドキア」の概要
これから熱気球で上空から観光するカッパドキアとは、標高1000mを超えるアナトリア(ユーラシア大陸が地中海とエーゲ海に突き出したトルコのアジア側部分をいう)高原の中央部に、100Km2近くにわたって広がる大奇岩地帯の台地である。
これから上空から観光するカッパドキアのギョレメ谷
キノコ状の岩に代表される奇岩の不思議な景観、奇岩洞窟の中に残された膨大なキリスト教壁画、地下何十mにも掘り下げられた地下都市とさまざまな顔を持つトルコ最大の観光地である。
なだらかな岩肌のグラデーション、ごつごつとした奇岩群、天に向かって突き上げるキノコのような岩、こうした地層は数億年前に起きた火山の噴火によって造られたものだ。火山灰と溶岩が数百mずつ積み重なった末、長い年月風雨に打たれて浸食が進み、今では頂上部の堅い部分だけが残されて不思議な形の岩となったのである。
「アナトリアの大地が造り上げた大自然の神秘」として1985年、ユネスコの世界遺産(複合遺産)に「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石遺跡群」として指定されたのだ。
色とりどり、様々な熱気球
あちこちでバーナーで気球を膨らましている
やや薄明るくなりだした6時半、気球催行会社の待機場所から再び車に乗り、気球が離陸する場所に向かった。5分も走らないうちに丘陵の陰の広場に、カラフルな模様の巨大な気球が目に飛び込んできた。想像以上に巨大なものでしかもバルーンの数が半端ではない!平地を埋め尽くすようではないか。
それぞれの気球には4〜5名の作業員がはり付き、気球内部にバーナーで火を吹きつけている真っ最中だ。
こんなに乗って大丈夫なのか?
なんとかゴンドラに乗り込んだ
私達は車からから降りると、10名ずつ2つのグループに分けられ、すでに熱気が吹きこまれ大きくふくれ上がったバルーンに連れていかれた。
竹で造られたゴンドラは4つに仕切られており、すでに2つの仕切りには7〜8名の欧米人が乗っている。作業員は私達に空いている二つの仕切りスペースに乗れという。これがひと難儀で、胸の高さほどあるゴンドラによじ登ろうとするのだが、筋力が弱っており簡単に入りこめない!シニアはつらい!全員が作業員に尻を押し上げてもらいながら何とか10名全員が乗り込んだ。
おかしい?ゴンドラ半分のスペースに10名が乗れるのなら、私達日本人グループ20名が一つのゴンドラに乗れるはずである。欧米人との乗り合わせで、なんで10名ずつ分けられたのだと疑問がわく。
あかつきの空に一斉に上昇していく
もとへ、ゴンドラの真ん中にはバーナー用のガスボンベが何本も積み込まれており、私達が乗ると20名近い乗員でぎゅうぎゅう詰め状態の状態となった。
準備OKだ!時刻はまだ日の出前の6時45分である。
パイロットが何か叫んだ!バーナーがゴォーという音を立て火が気球内に勢いよく吹き込まれると、ゴンドラがふんわり浮き上がった。全員から思わず歓声が上がる。
いざカッパドキアの空へ!
言葉で表現できない爽快な気分
バーナーが点火されふんわり上昇していく
私達以外にも、一斉にあちこちから色とりどりの気球が日の出前のあかつきの空に飛び上がっていく。ざっと数えただけでも30個以上はある。イベントの風船が一斉に舞いあがったようだ!
圧巻である。ゴンドラの真ん中でパイロットは頭上のバーナーに点火するレバー握り、風や上昇速度の具合をみながら繁雑に操作をしている。熱気球は一切無音で、パイロットがレバーを引くたびにバーナーに点火するゴォーという音だけだ。揺れも感じずスイスイと上昇して行く。安定感抜群で墜落の危険性はまったく感じない。
パイロットが200m、300mと現在の高度を英語で叫びながら教えてくれる。そのたびに私達がワァーと歓声を上げる。
奇岩群の丘に朝日が昇った
やがて上昇を始めて10分ほどすると奇岩群の丘の上から日の出が始まった。感動の一瞬だ。 カッパドキアの奇岩群に朝日が射した。
言葉にならないほどの絶景が眼下に広がりだした。天候もこれ以上の快晴がないというほど、雲ひとつない真っ青な空が視界いっぱいだ。早朝で寒いとのことっだたので防寒服を着て乗ったのだが、全然寒くない。澄んだ空気と朝日を全身に浴び実に気持ちがよい!爽快である。
来てよかったぁ〜!生きててよかったぁ〜
眼下にはアナトリアの大地が造り上げた大自然の神秘カッパドキア特有の奇岩群、空には色とりどりの気球が浮かぶ。この絶景に旅仲間の一人が思わず叫ぶ!「来てよかった!」もう一人も叫ぶ!「聞くと見るとでは大違い!素晴らしい!」
高所恐怖症も吹き飛んだ!
パイロットが叫ぶ!「高度500m」、高度「800m」気球がぐんぐん昇っていく。
高所恐怖症の代表格に今回の旅仲間で団長のJ氏がいる。彼はことあるごとに「俺は高いところは駄目だ!想像しただけで身震いする!」などと言っているのを、私はよく飲み会の席上で聞いてきた。
気球からはトンガリ帽子の奇岩群
昨夜も夕食後の就寝前のひととき”飲べえ”どうしが集まりホテルの部屋で飲み会をしている時、彼は「明日の気球体験、俺大丈夫かなぁ〜!俺高いところ本当に苦手なんだ!」と心配していたのだ。
その超高所恐怖症のJ氏が何と!信じられない!ゴンドラから大きく身を乗り出ているではないか!
眼下に広がる絶景を夢中でカメラのシャッターを押しているのである。いったいどうしたことだ!
彼は自分が高所恐怖症であることを完全に忘れているではないか!。感動の景観が恐怖に打ち勝ったのだ。
色とりどりの気球が舞う
ちょっとオーバーな表現だが、我を忘れるほどの感動の絶景が視界いっぱいに広がっているのだ。感動の表現が間違えた!キリッとした空気、真っ青な空、飛行機のようなエンジン音もなく、ゆったりと危険性を全く感じない安定感のある飛行、「感動+気分爽快」なのである!
しかしこれだけの数(30個以上)のバルーン。離陸する前に見た地上作業員を含めると1個のバルーンに5〜6名の作業員が従事していたので、総勢何百名もの人が熱気球で働いている計算だ。カッパドキア最大の基幹産業に違いない。
パイロットの技量
離陸地からほぼ真っすぐ上昇を続けた気球が、ついに高度1000mだとパイロットが告げた。これが上昇の限度のようでやがて徐々に高度を下げ始めた。 私達の乗った気球は微風を捕まえながら奇岩群の上を移動して行く。 他の気球もそれぞれおもいおもいの方向へ散りだした。ここからがパイロットの腕のみせどころだ! 操縦技量にたけたパイロットが乗った気球は、やっと感じる程度の微風をうまく捕え、奇岩群が林立する谷へ下っていく。
中には地表スレスレまで下り岩肌に気球が接触するのではないかと思うほどのアクロバット飛行する気球まである。
谷の岩肌接触すれすれまで下降する気球
私達が乗った気球といえば、さまざまな奇岩群の上空までは移動していくのだが、谷の中までは降りていく冒険をしない。 残念ながらパイロットの技量がいま一歩といったところだ。
ところがである!私達の気球はこれでもまだよいほうで、何と!はるか彼方では離陸地と同じところを上昇、下降を繰り返すばかりの気球もある。私達が飛んでいる奇岩群の上までやってこれない技量の低いパイロットの気球が結構あるではないか!これじゃ同じ料金でかわいそうだ!
最近は気球観光の人気により気球を飛ばす会社が増えてきており、それにつれパイロットの腕がよくない者も増えて問題化しているとガイドブックに書いてあったが本当のようだ。
間もなく着陸、シャンペーンで祝杯
ゴンドラに搭乗したまま荷台の上に着陸する
やがて奇岩群をぬけ、わずかに開けたなだらかな丘陵地に出ると、着陸地を求めて気球は地表スレスレまで下降しだした。時刻は8時を過ぎ、すでに離陸から1時間20分ほど経っている。他の気球もそれぞれ、おもいおもいに着陸場所を下降を始めだしてる。
パイロットが無線機を使い、はるか彼方にいる地上作業員と繁雑に連絡をとりだした。
すると、無線連絡を受けた地上作業員が、ジープ車体後部に気球を乗せて運ぶ荷台を引っぱり、あちこちで自分の気球を追っかけ丘陵地を走り回りだした。離陸したときの場所とはかなりかけ離れた遠方に着陸するのだ。
熱気球初体験を記念してシャンペーンで祝杯
私達の気球の下にもジープがやって来た。すると、うまいもので何回か上昇下降を繰り返すとぴったり荷台の上に着陸してしまった。乗船者全員から賞賛の拍手に、パイロットは当然といったような顔でサンキューでこたえる。
ゴンドラから降りると、地上作業員が草原の上にプレハブテーブルを広げ、その上にシャンペンとグラス、Tシャツを並べだした。粋な気球会社のサービスで、私達に初体験の熱気球ツアーを祝って乾杯用のシャンペンがグラスに注がれていく。青空の下で祝杯をあげると、今度は一人ずつ名前が呼ばれ気球乗船証明書が渡される。うまい演出だ。
ギョレメの谷、聖堂群
超快晴の天気だ!いざ出発
感動の1時間半の気球ツアーを終えると、私達はいったんホテルに戻り朝食を済ませることにした。朝食を終えた9時半、再びロビーに集合すると岩窟教会のある「ギョレメ野外博物館」に向かった。バスで10分ほど走ると、ギョレメの谷といわれる周りの岩山が洞窟だらけのような谷間にバスは停まった。 カッパドキア地方はヒッタイト時代(紀元前2000年ごろ栄えた古代王国)から交易ルートの要の地として栄えたところだ。
岩窟教会があるギョレメの谷、真っ青な空が広がる
キリスト教が伝播した頃の古代ローマ後期4世紀前後から隠遁生活を送っていたキリスト教の修道士がたちが、この地の凝灰岩に洞窟を掘って住み始めた。
彼らは外敵から身を守りつつ、信仰を守り続け、洞窟内の天井や壁に芸術的ともいえる見事なフレスコ画を残したのである。
カッパドキア全体では岩山を掘って造った教会が1000以上あるといわれており、そのうち150箇所の岩窟教会に壁画がみられる。
岩窟教会とフレスコ画
7層も掘られた女史修道院
これから見学するギョレメ谷には30以上の岩窟教会がある。その中から保存状態がよく、当時の生活がかいま見れたり、壁画が残ってたりする特徴的なものを見て歩くのだ。
入場ゲートをくぐり谷の中に入っていくと、あたり一面アナポコだらけの岩肌である。
やがて左手には小山のような岩山に7層も掘られた女史修道院、道を挟んだ向かいには男子修道院が見えてきた。
1階には台所や食堂、貯蔵庫、2階が教会、3階以上が住居の造りとなっているとのことだ。
私達はそのまま遊歩道を進み、以前洞窟入り口にリンゴの木があったことから「りんご教会(エルマル・キリセ)」呼ばれる洞窟の中に入った。
ここはキリストの生涯を描いた、リンゴ教会には芸術的なフレスコが残っている
聖母マリア、キリストの洗礼、十字架刑などの壁画があることで有名な岩窟教会だ。荒れた岩肌の外観からは想像もつかないほど、内部の装飾は見事で芸術的であった。
この「りんご教会」の入り口付近がギョレメの谷が一望できる展望台になっており、谷を挟んだ対岸の垂直に近い絶壁にも、いくつも掘られた岩窟教会が目に入ってくる。
信仰に人生を捧げ、迫害から逃れ身を守るため、絶壁の小さな窓からロープを使い出入りしながら生活を送っていたのだ。
石のテーブルで食事をした食堂
展望台で全員集合記念写真を撮ると、次はヘビの教会の見学である。ここには迫害目的で教会へ入ってくる外敵を大ヘビにみたたて戦う聖ジョージや、ローマ皇帝で初めてキリスト教徒になったコンスタンティヌス帝と母ヘレンの壁画が描かれていた。
薄暗い洞窟内を移動していくのだが、石のテーブルの前に一列に並んで食事をした食堂や台所など、当時の修道士たちの生活がかいま見れるものもあった。
展望所からギョレメの谷を望む
次々に「暗闇の教会」「聖バルバラ教会」「聖バジル教会」と見学していき、最後は野外博物館入場ゲートの外にあるトカル教会の洞窟に入った。
ここはカッパドキア最大の広さをもつ岩窟教会で、天井や壁にはキリストの生涯が描かれたフレスコ画で埋め尽くされている。とくに入ってすぐの部屋のフレスコ画は10世紀後半に描かれたもので、ビザンツ美術の逸品といわれているほどだ。深みのある青の色が美しく印象的だ。
1時間半ほどかけてギョレメ野外博物館を見学し終えると、午前中最後の観光であるカッパドキアの典型的なキノコ岩が林立するゼルベの谷「パシャバ」に移動すべくバスに乗り込んだ。
「ギョレメ谷の聖堂群」画像の上でクリックすると拡大画像になります。
(画像を閉じるにはページ右上の×で)
旅の3日目(その1)熱気球でカッパドキアの空へ 終わり
旅の3日目(その2)トンガリ帽子にキノコ岩、まるでおとぎの国だ!編へ
つづく