その9 奇岩・奇峰で古来から水墨画に画かれた世界遺産「黄山」へ登る  

世界遺産 中国仙境・山水画街道を行く


 
旅の9日目 世界遺産・黄山山麓から玉屏楼へ                 


 黄山山麓にある温泉区のホテルで中国入り9日目の朝をむかえた。 今日から「黄山」山頂の西海地区にあるホテルに移動し2泊3日で、奇岩珍石、雲海雪天の仙境地で古来から水墨画に描かれた、「世界遺産の黄山」を歩き回るのである。   雲海に包まれる世界遺産「黄山
 伝説の仙境を連想させ水墨画によく画かれた黄山は、72の奇峰から成る山岳風景区で奇松、怪石、奇峰、雲海で有名な山だ。


 古来から「天下第一の奇山」とか「天下の名景は黄山に集まる」と言われ、この名声から李白や郭沫若など多数の文人が訪れ、幾多の景観スポットにその独特の発想で名前が付けられた。
 ロープウェイや山頂にはホテルも整備され、今や世界中から絵や写真撮影を趣味とする人達も訪れるようになり、中国人にとっては一生に一度は登りたいと願う憧れの山なのである。


 昨夜はこの山麓のホテルで夕食後、黄山山頂のホテルに宿泊するするために必要な2泊3日分の荷物を、大型旅行ケースからリュックサックに移し替える作業をして眠りについたのだ。
 大型旅行ケースはこのホテルに黄山から下山して来るまで3日間預かってもらうことになっている。

 部屋の窓から外を覗くと不安が的中し、気になっていた天候は曇りである。 山麓で曇りということは山頂では霧とガスに包まれる可能性が高い!せっかくの水墨画のような絶景が見えぬかも知れぬ。 5年ほど前にも一度黄山登山しているのだがその時の素晴らしい絶景が脳裏に浮かぶ。


 窓の下には黄山へ徒歩で登山する人のための登山道が伸びているのが見え、早朝の7時前にもかかわらずリュックを背負った学生達が蟻の行列のようになってゾロゾロ渓谷に入って行く。 私達はシニアなので今日は楽をさせてもらい途中までロープウェイで登りそこから歩くことになっている。                        ホテルの窓から見える霧に煙る黄山の峰々

 朝8時前、私達は旅行ケースと昨夜部屋で詰め替えた2泊3日分の身の回り品を入れたリュックを持ちロビーに降りた。 大型旅行ケースはホテルの保管室にこれから3日間預かってもらい、リュックは午前中に登る玉屏楼風景区から下山してくるまで半日ほどロビーに預かってもらうのだ。 
 このホテルにはもう宿泊しないので私達はチェックアウトを済ませると、必要最小限の身の回り品(雨合羽・傘・ミネラルウォーター等)を持ち極力身軽ないでたちでバスに乗り込んだ。
 

 私達を乗せたバスは玉屏ロープウエイ乗り場にむかって走り出した。車窓の外に広がる     入山チケット売り場がある慈光閣
黄山独特の景観を見ていると、やがてバスは道路わきに停まった。 ここからはロープウェイ乗り場まで歩いて登ると黄山のガイドが言う。
 舗装されたゆるやかな登り斜面の登山道をしばらく歩くと、途中から崖の斜面から山中に向かってのびる石段の道に進路を変え入って行く。 急峻な石段を杖を突きつつ登る!息が上がり汗ばんできた頃、道教寺院の「慈光閣」に着いた!ここで黄山入山料を払いロープウェイ乗り場まで行くのだ。 慈光閣の背景にはこれから登っていく黄山の峰々が眼の前にせまり期待感が盛り上がってくる。


 入山チケットを購入するにあたり、黄山の現地ガイドから外国人はパスポートの呈示が必要と言われ、私達それぞれが身に着けたパスポートを取り出しガイドに預けた。
 ここで事件が起きてしまった、何と!老いらくの恋真っ最中のN氏の同室相方である女性のKさんがパスポートが見当たらないと言い出したのだ!
 私達の目の前で服を脱ぎ下着の中に手を入れたり、身に着けた持ち物全てを探したがどうしても見当たらない。


 困惑する添乗員のY女史や現地ガイドを前に、Kさんが申し訳なさそうに「もしかしたらホテルに預けてきた旅行ケースの中にしまったのかも知れない」と言い出した。
 私達を途中まで送ってきた貸切バスはすでに引き返し、ホテルまで戻るには山麓と慈光閣を結ぶ専用シャトルバスに乗らねば山麓のホテルまで戻ることができない。 パスポートを探しにホテルまで往復したら午前のスケジュールはパーになってしまう。 何人かの旅仲間からパスポートは肌身離さず持って歩くものだ!と非難の声が上がるがもう遅い!どうにもならぬ。
 現地ガイドが入山チケット売り場の窓口で長々と交渉して戻ってきたが、やはりパスポート分しか入山チケットは購入できないと言う。             世界遺産黄山の峰


 Kさんは楽しみにしていた黄山登山が自分だけできぬことになるのではと半べその表情だ。 全員がワイワイ、ガヤガヤやっているところで私は言った!「こうなったら賄賂で買収するしかないのでは?」。「チケット売り場の責任者に賄賂金を渡しこっそり交渉してみたら!」「おそらくうまくいくはずだ!」
 中国では長い歴史のなかで官僚主義がはびこり、何か事を運ぼうとしたり、問題をスムーズに解決しようとするなら、人脈に頼るか、金(賄賂)で解決するのが最良のやり方だ。なんたって世界に名だたる賄賂天国なのだ!かって私は賄賂を何度も請求された。


 再び現地ガイドが交渉にチケット売り場の     玉屏楼風景区まで登るロープウェイ
裏口から小屋の中に入っていった。 私達は不安な気持ちでガイドが出てくるのを待った。 長い時間が過ぎやっと小屋から出てきた!何と、ガイドの手にはチケットが握りしめられているではないか! やっぱり何でもありの国だ!。 しかし、この賄賂での買収費用は私が想像している以上に高くついたことが、下山して次の雲谷ロープウェイに移動する時にわかった。
 私達は入山ゲートをぬけ、黒山のような人混みに押されながら玉屏ロープウエイ乗り場までの石段を登り始めた。 石段は人で溢れなかなか前へ進まない、ジリジリ時間が過ぎていくなか1時間ほど並び、やっとゴンドラに乗り込んだ。                            霧の中玉屏楼へ登って行く


 慈光閣と標高1680mの玉屏楼風景区を結ぶ全長2.2kmのロープウェイが動き出した。 ゴンドラの窓からは独特の黄山の景観が眺めることができたたが、標高が上がるにつれ霧が視界を奪いだし、玉屏楼に降り立った時には10メートル先も見えないほどのひどい霧になってしまった。
 ここ玉屏楼風景区の特徴は黄山の前山にあたり、山が雄々しく、峰が険しいことである。 1800mを超える黄山最高峰の蓮花峰や天都峰などがあり、さらには黄山を代表する樹齢800年の「迎客松」などもある。
 

 霧のため苦労して急峻な石段の登り下り     崖に張り付いた狭い路を登っていく
しながら景観ポイントに行っても、ほとんど見えぬため、スケジュール変更をすることになった。 あまり動き回ることはせず、とりあえず玉屏楼の迎客松がある展望台まで行き様子を見ることにした。

 霧がたちこめるなか雨合羽を身にまとい杖を突きながら、ガイドを先頭に目の前に立ちはだかる崖の石段を登って行く。
 本来なら眼下には水墨画のような奇峰が連なる絶景を見ながら登っていくのだが、霧で前に進むのがやっとで何も見えぬ!。
 
 やがて黄山を代表する古松の「迎客松」がある玉屏楼展望台に着いた。 岩肌に根を生やす樹齢800年の美しい松で、まるで登    黄山で最も有名な迎客松(前回撮影画像)
山客を迎えるように立つことから名付けられた。 近くには象鼻石などの怪石もある。
 それにしても凄い登山客だ!「迎客松」を背景に記念写真を撮ろうする人達が黒山のようになって順番待ちしている。


 この玉屏楼風景区を歩き回る午前のスケジュールは霧のため中止になってしまった。 
 私は5年ほど前にも一度、札幌に住む中国人留学生との二人旅でここ黄山に来たことがある。 その時、初めて見る黄山の絶景の数々が脳裏から離れず、今回のツアーで再びもう一度絶景を見れるこを楽しみにしていたのだがパーになってしまった。 これでは午後から雲谷ロープウェイで移動する後山      登山客で溢れかえる玉屏楼展望台
北海風景区も霧で見れぬかもしれぬと不安がよぎる。
 昼食はここ玉屏楼のレストランで12時から取ることで予約していたのだが、歩き回ることを中止にしたため時間が余り11時から取ることになってしまった。


 昼食の最中に突然、添乗員のY女史から私達にお願いがあると言い出した。 
 昼食後はここ玉屏楼から一旦下山して、再び黄山の裏側に回り雲谷ロープウェイに乗り西海地区にある山頂のホテルまで移動することになっている。
 そのホテルに泊まるためリュックに詰めた2泊3日分の身の回り品は、私達が雲谷ロープウエイ       玉屏楼の象鼻石
降り口まで運び、そこからは黄山山中を荷物を担いで運ぶポーターに託してホテルまで運んでもらうことになっている。 ポーター料金は昨日Y女史の説明では旅行会社が負担することで個人負担がないということだった。
 ところが、Y女史が言うことにはポーター賃「リュック1個50元(750円)」を突然変更して個人負担でお願いできないかと言い出したのである。


 突然の彼女のお願いの申し出に私達はピーンときた! 先ほど慈光閣の入山チケット売り場でパスポートがないため購入することができないチケットを、購入するために使った賄賂の金を暗に全員負担でお願いできないかと言っているのである。
 賄賂金を会社にも請求できず彼女は困っていたのだろう! Y女史を含めると総勢16名である、16名×50元で片道のポーター料金750元になる。 帰山するときの分を含めた往復料金だと1500元にもなる。
 おそらくチケット購入のため渡した賄賂金は2000元(3万円)ぐらいなのであろうと、ここで察しがついた。   展望台にはカップルの願いをこめて
 3万円といえばチケット売リ場小姐二人の1カ月分の給料に相当する額だ。


 私達は勝手な解釈で事情が理解できたので、個人負担で荷物を運ぶことに誰一人文句言うことなく同意をした。 こんなやりとりのあと早めの昼食が終えると、午後からの観光地である北海風景区に移動するため、再び玉屏ロープウェイに乗り慈光閣まで下山した。
 慈光閣から専用シャトルバスに乗り換え、いったん今朝出立したホテルに立ち寄り、預けておいた身の回り品が入ったリュックを受け取ると、黄山の後ろ側にあたる雲谷ロープウェイにむかってバスは走る。
 車内で添乗員のY女史から、Kさんのパスポートがホテルに預けてある旅行ケースの中から見つかったとの報告に拍手が上がる。


      世界遺産「黄山」玉屏楼風景区(一部画像は前回来た時に撮影のもの使用)

 画像をクリックすると拡大画像になります。


雲谷ロープウェイで始信峰経由〜山頂の西海ホテルまで


 山麓の雲谷寺と始信峰を結ぶ全長2800mの雲谷    私達のリュックを運ぶポーター
ロープウェイ乗にりこんだ。 高度が上がるにつれ午前の玉屏楼と同じように霧に包まれゴンドラの窓からは何も見えなくなった。
 山頂に着くと私達は背負っていたリュックを下ろしポーターに預け身軽ないでたちになった。 ポーターが霧の水分でリュックが濡れぬようビニールでリュックを包み天秤棒の籠に入れると、私達が宿泊するホテルにむかって石段を歩き出した。
 私達も海抜1600mの北海風景区を歩き出した。ここ北海風景区は黄山でも最も魅力的な景観といわれる始信峰があり、たくさんのホテルやロッジがあるエリアだ。
 これらのホテルなどに業務用の荷物などを運ぶポーターに山中のいたるところで行き交う。 急峻な石段のところではフーフー息を切らせながら登っていくが聞こえ、つらい仕事に頭が下がる思いだ。


 風が吹くと霧が瞬間的に晴れるのだが、すぐまたたちこめることの繰り返しで、この北海エリアで見る予定だった奇峰の峰々が霞んで見ることができない。         北海風景区の「始信峰」
 以前来た時に登った「始信峰」の絶景が目に浮かぶが、いかんともしがたい。
 ほとんど見えぬような山中をうろついていても仕方がない! とりあえずホテルにチェクインして霧が晴れるのを待つことになった。 
 一路、今夜から2泊する西海賓館にむけ歩いていくと、遊歩道の脇にケ小平が名付けた樹齢400年の「団結松」がある。由来はこの松の枝が56本あることから、中国56の民族に重ね合わせたものだ。
 

 午後2時半にはホテルに着いてしまった。 
予定変更になってしまい何もすることがない!ホテル周辺をウロチョロして霧が晴れるのを待ったが、とう  私達が宿泊した山頂のホテル
とう夕刻になってしまい今日はあきらめることにし、明日の天候にかけることになった。
 昨日、今日と二日連続の悪天候である、やっぱり私は間違いなく雨男だ!本当に自分でも呆れるばかりだ。
 ホテル側から夕食の開始時間は午後8時からと通告された。 レストランは超満員の宿泊客に対応するため、 1回目5時〜、2回目6時半〜、3回目8時〜からと3交替で客を入れ替えフル回転である。
 遅く始まった夕食の席上でパスポート事件のお詫びということで、Kさんからビールを飲み放題でご馳走するとの申し出があったが、あまり盛り上がることもなく早々に夕食を終えた。

 明朝は明け方前の4時半に起床し、5時半にホテルを出立して「獅子峰」に行き「ご来光」を見学に行くことになっている。
 早めに就寝して早起きに備えなければならぬ。




      世界遺産「黄山」北海風景区(一部画像は前回来た時に撮影のもの使用)

 画像をクリックすると拡大画像になります。
北海風景区の始信峰 北海風景区の始信峰 ホテルのテラスからの景観
北海風景区の団結松 北海風景区の始信峰 北海風景区の始信峰


 旅その10 「世界遺産「黄山」〜獅子峰〜飛来石〜光明頂〜丹霞峰を行く」へ つづく


 ( 旅 9日目の出費)
        
      ミネラルウォーター 8元 × 1本   = 8元 (120円)
       ポテトチップ    25元 ×1個   =25元 (375円)
       ポーター賃     50元       =50元 (750円)
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                     合計     83元 (1245円)
   

              (9日間の累計出費591.9 元 (8879円))