その4 世界遺産「武陵源」内の巨大な鍾乳洞「黄龍洞」・「宝峰湖」へ 

世界遺産 中国仙境・山水画街道を行く



旅の4日目 索渓峪鎮の街〜黄龍洞)


 張家界市・索渓峪景勝区にある索渓鎮の      早朝の索渓鎮の中国情緒あふれる橋
ホテルで4日目の朝を迎えた。 人口10万人ほどのこの街は、「索渓峪風景区」に入山観光する旅行者の拠点になっている町である。
 今日のスケジュールは「天然の盆景」と称される索渓峪風景区内の観光で、中国最大の鍾乳洞「黄龍洞」と高山湖の「宝峰湖」に行くことになっている。
 今日もこのホテルに連泊することになっており、ホテル出発はゆったり時間の9時である。7時過ぎには朝食を終え時間が余り          索渓鎮の街 路上朝市
することもない。例によって早朝の街歩きをするべく、索渓鎮の街にくりだした。
 
 ホテル前の道路を人通りが多い方向へしばらく歩いていくと、交差点の左側にいかにも中国らしい雰囲気の橋が見えてきた。橋の写真をカメラに収め、あたりをブラブラしていると、早朝から人混みでごった返す賑やかな朝市の通りに出た!

 時間つぶしにはちょうどよい!もっとも中国情緒を味わえる場所だ!通りに足を踏み入れた。10月中旬のこの時期は近郊農家が秋の収穫物を持ってやってくるのだろう!圧倒的に果物と野菜が並べられている、歩みを進めると、前方にこの町の市場            索渓鎮の街 市場
が見えてきた。
 
 薄暗い市場の中は異様な臭いがたち込め、解体されたばかりのブロック肉がところ狭しと並べられ、値段交渉の大声が飛び交っている。
 デジカメ片手に場内をブラブラしていると、「お前さん、どこから来た!」と、いたるところで声をかけられる。つど「日本から来た!」と答えると大声を上げ、周りの人々に「オ〜イ!この人、日本人だとよ!」と大騒ぎ。
 そしてもう一つ必ず「日本人なのになぜ中国語が話せるのだ?」と質問される。 中国奥地の地元の人しか来ない早朝の市場の中で、片言中国語を話す日本人がカメラ片手にウロチョロしているのである。騒ぐのも無理はない!

散策を終えホテルに戻ると、ちょうどよい出発時間となっていた。
 
 例によって指定された座席に座るやバスは動き出した。奇峰が広がる田舎道を走ること30分、中国最大の鍾乳洞である「黄龍洞」に着いた。 駐車場にバスを停め、鍾乳洞まで500mほど歩くのだが、そこまでの道のりがすごい! 道の脇には縁日の様な売店が切れ目無く続き、橋の上にまで店を出しているのである。まだ午前10時前なので開店準備中の店もある     道沿いに500mもつづく土産物店
のだが、すでに開店している店先には民芸品とともに焼き栗、焼き芋などのスナック食品まで売っている。
 今日も暑い!天気気温予報は29度となっている、店先を冷かしながら「黄龍洞」入り口に着くと、すでに額にはうっすら汗をかくほどだ!
 
 この「黄龍洞」は20年ほど前に地元農民により発見され、洞内は、二つの水洞、二つの陸洞が重なる4層構造をしている。 洞内の総延長は10kmのカルスト鍾乳洞で、そのうち3kmほどが遊歩道で整備され見学でき、さらには地底河が4kmに及び、船で遊覧もできるのだ。                    中国最大の鍾乳洞「黄龍洞」ゲートの建物

 入洞ゲートは豪華な中国風建築物の中にある。ゲート前には大勢の係員がたむろし、観光客そっちのけで無駄話にふけっている。日本と違い人件費が安いので何人でも雇えるのだ。
 洞内には天仙水、天柱街、竜宮、迷宮などの見所があり、それらがライトアップされ神秘的な世界を生み出している。 遊歩道ルートが8本もあり、私達はその全てを3時間ほどかけて、回ることになっている。 
 
 暗い洞内を現地ガイドが懐中電灯を持ち先頭を進む! 奥に入るにつれ、行き交う中国人、韓国人観光客で遊歩道がごったがえして来た。                              洞内に入るゲート
 進んでいるうちに人混みに混じりあい流され、自分がどこにいるのか分からなくなってくる。 その都度、混み合う遊歩道の彼方から、耳に装着した無線イヤホーンを通して現地ガイドの集合案内の声が聴こえて来る。広い洞内で迷子にならずにすむ、ハイテク機器の便利さを実感する。

 
 何しろ4層構造の洞内を歩くのである、遊歩道は石段を登ったり下ったりの繰り返しで、平坦な部分などほとんど無い。手すり代わりに杖を突きながら進むのだが、大勢の観光客の往来で石段が磨耗し、ツルツル平面状態になっているところに加え水滴で濡れ、益々滑りやすくなっている、危険なこと       ライトアップされた黄龍洞内
この上ない!。
 下りの石段に来ると、皆が恐るおそるの歩みで動きが止り長い列ができる。メチャ疲れる石段の遊歩道に、30分も歩いたところで、旅仲間から休ませろの声が上がりはじめた。
 おまけにこの「黄龍洞」は洞内がやたら蒸し暑いのである! 湿度が高く汗を拭いても拭いても吹き出てくる。普通なら鍾乳洞の中は温度が低いはずなのだが、この鍾乳洞は何故か蒸し暑い。 ちょっと歩いては一服して汗を拭き、ミネラルウォーターで水分補給の繰り返し、2時間ほど歩いたところで、地底河の船着場の出た。 
7〜8名乗り遊覧ボートが何十艘も係留されており、次々と観光客を乗せては洞内奥へ出船していく。
 ボートの舳先にはライトが点けられており、洞内奥を照らしながら進む、水深は深い所で12m、洞の天井までは、大きなビルがすっぽり入るような高さの62mもある。 
 地底湖、滝、千枚田などの景観をみながら遊覧すること40分、終点の船着場に着いた。ここから再び、さまざまな名前を付けられた石筍を見ながら、出口まで上ったり下ったり30分、やっと洞を出た。 外気温が30度近くあるはずなのだが、鍾乳洞内に比べ涼しくさえ感じるほどで、さわやかな空気が身を包んだ。
                                 駐車場まで切れ目なくつづく土産物店

 旅仲間の一人が洞内の上り下りした石段数を途中まで数えており、彼が言うことには「1100段近くまで数えたが延々と続くので、途中で数えるのを諦めた!」「その後も同じくらい歩いたので、おそらく2000段ぐらいは上り下りしたはずだ!」とびっくりしていた。
 3時間近い黄龍洞遊覧を終え、バスが待機している駐車場に戻るべく、朝一番で通過した土産物店が立ち並ぶ道を歩いていくと、朝の通過時点では開店準備中だった店も全て開店していた。
 店頭にさしかかると、どの店からも陳列している商品を手に取り、私達にむけ日本語で一斉に、「ジュゲン(10元=150円)!「ジュゲン(10元)」の連呼の声が掛かる!何でも10元だ!。 彼女達が話せる日本語はこの「ジュゲン(10元)」のみで、必死の形相で売り込みを掛けてくる。
 
 「焼いも」のいい香りがしてくる店で、大きい焼イモを2元(30円)で買い、食べながら店先の道を進んでいくと、商売そっちのけで店内や店頭路上で麻雀に没頭している不心得者がいたるところにいる。 
 私たちが立ちどまり、店頭の商品を手に取り上げても、麻雀に夢中で客の相手をしようとしない! 堂々と金のやり取りさえしているではないか。      いたるところ客の目の前で堂々と麻雀
 恥じることなく客の目の前で商売よりも麻雀にうつつを抜かす、日本人の理解を超えた、何を考えているのか分からない、不思議な光景に唖然とするばかりだ。

 
 中国は言うまでもなく共産主義国家なのだが、それは全人口の5%程度の共産党員のための政府で、残り95%の一般国民にとり、貧しい時代の過去の遺物のイデオロギーなどどうでもよく、経済の発展とともに貪欲に快楽を求めて自分なりの自由を謳歌しだしたのだ。
 広大な国土の中国では、南部と北部では全てに関して国民性が違う、極端に言えば別の国のようにさえ感じるほどである。
 大ざっぱに言えば、食文化から始まり言語も気質もまるきり違うのである。
 麻雀に関しても、店頭、路上、公園などで、日昼から働きもせず、没頭しているのをよく見かける地域は、揚子江(長江)流域と南部地域に限られており、北部地域ではほとんど見かけない。
 
 特に南北の中国人気質の違いを代表するのが「南の上海」と「北の北京」なのだ!とにかく仲が悪いのである。 上海人が悪口を言う場合「お前は北京人のようだ!」と言い、北京人が悪口を言う場合「お前は上海人のようだ!」と言うのである。 東京と大阪の気質の違いをもっと極端にしたようなものなのだ。

 
 話を戻す! 持参したミネラルウォーターを全て飲み干してしまったので、バス駐車場手前の売店でミネラルウォーターを買うべく、冷蔵庫の中を覗くと缶ビールが底のほうに見えた。 
 触ってみるとキッチリ冷えている!メチャのどが渇いていたので無性に飲みたい思いで、男性店主に幾らだ!と聞くと「10元(150円)」と答える。
 私が「高すぎる」と言うと一挙に値を下げ半値の「5元(75円)」と言い出した!いったいどうなっているんだ!安心して値切らずに買うことができぬではないか!。(ちなみに、スーパーで缶ビールを買うと1缶2元〜2.5元である。)

 
 とりあえず2元のミネラルウォーターを2本買い、ビールも買うべきか迷っていると何と!店主「2缶買うなら、1缶3元にしてやるから買わないか!」と言うではないか!。
 当初言い値の3分の一である、迷いも何も吹き飛んだ!即刻買うや、その場で缶を開き飲みながらバスに戻ると、すでに戻って座席に座っていたM氏が「佐藤さん!そのビール冷えてるの?幾らした?」と聞いてきた。
  私が「ぎっちり冷えていて1缶当たり3元で買った」と答えるや、M氏「俺も買ってくると」言うが早いか、駆け足で売店に向かって行った。


 すると何と!M氏が2缶買ってバスに戻って来るや!その後ろから別な売店のオバちゃん達が、手に手に缶ビールを持ち、ゾロゾロ私達のバスにやってくるではないか!
 このバスの乗客は「冷やしたビール」だと商売になると、目をつけたのだ! バスを取り巻きガラス窓をコツコツ叩きながら、手に持った缶ビールを掲げ「冷えたビール、々」と連呼しだした。
 なかには乗車口から車内に身を乗り入れる者まで現われる騒ぎとなり、かなりの仲間が購入してしまった! 何しろギュッと冷えたのが1缶3元(45円)なのだ。バスは缶ビールを飲みながら水分補給をする私たちを乗せ、昼食レストランにむかって走り出した。


(旅の4日目 宝峰湖遊覧)
                             整備された遊歩道を宝峰湖にむかって進む
 昼食後の観光は海抜480mの山の上にある高山湖の「宝峰湖」である。ここで遊覧船に乗り湖から武陵源の山水画の絵のような景観を楽しむのだ。
 バス駐車場からは、渓谷の絶壁から滝が流れ落ち、前方には奇峰の峰々の景観が広がる整備された遊歩道をしばらく歩いていく。 やがて絶壁にはり付いた急峻な石段の場所に出た。
 山の上にある湖にむかって200段あまりを這い蹲るように登ると、やがて視界が開け目に絵葉書のような景観が飛び込んできた。

 
 湖の船着場には30名ほどが乗れる遊覧船が何十艘も係留され、その中の一隻に私       山水画の絵のような宝峰湖
たちは乗り込んだ。
 「鴨のくちばし峰」「ラクダ峰」等、動物に例えられた峰々が水面に映え、まさに山と水の「山水画の世界」そのもの。 
 中国南部に中国旅行で最も有名な定番観光地に、水墨画のような景観を見せてくれる「桂林」があるが、この宝峰湖は同じような景観を楽しませてくれる。
 1時間弱の遊覧中には、この地域に多く住む少数民族の土家(トーチャ)族の娘が船で湖面に現れ、美声で民謡を聞かせてくれたりもする。まさに桃源郷とはこのようなものかと思ってしまうほど。


                画像をクリックすると拡大画像になります。

宝峰湖遊覧船から 土家族の娘が民謡を歌う 宝峰湖遊覧船から

 遊覧を終えての帰りの道は、登って来た時とは別の道から下りて行く。 崖の上から見下ろすと45度もあるかのような急斜面の石段を恐るおそるへっぴり腰で下りて行くと、滝つぼがある公園に出た。
 滝つぼの脇にはステージがあり、ここで少数民族の土家族による民族ショーが行われるということで、開演時間までベンチに座って待っていると、公園内をブラブラしていた土産物店の若い小姐(20歳前後)が私に向かって近づいてきた。
 意外と可愛い顔立ちをしているなぁ〜と見ていると、突然!小姐が私の目の前に立ち、無言で手に握っていた物を突き出した! ギョッとして見てみるとキーホルダーのようである。
 すると!10元、10元(ジュゲン、ジュゲン)と、ヘンなイントネーションの日本語を使いながら、私の手に握らせようとするではないか!


 私が手を引っ込め中国語で「キーホルダーならいっぱいあるのでいらない!」と言うと、私の中国語を聞いた彼女の顔が輝  階段を下り滝つぼのある公園
いた、俄然元気づくや、訛りのある中国語で「手にとってよく見  
てください、貴方が写っています」と言う。
 言われるまま手に取り見てみると、ペンダント式のキーホルダーで何と!どこで撮ったか知らない私の写真が、貼り付けられているではないか! 私がびっくりして「どこで撮ったのだ!」と聞いてもニコニコして答えようとしない。 
 そして再び「10元(150円)です、安いでしょう!買ってください」と言うのである。
 写りがピンボケぎみなので、可哀そうだが冷たく「不要(ブーヤオ)」と言うと、困った顔をしてしばらく私の表情を窺い佇んでいたが、私が無視を決め込んでいると、あきらめ土産物店に戻って行った。
 
 すると何と、5分もせず土産物店から出て来て又しても、私に向かって近づいて来るではないか! 今度は何だ?と身構えていると、先ほどと同じキーホルダーを目の前に差出し「別な写真なので見てみろ」と言うではないか。              2個150円のキーホルダー

 手にとって見てみると、なるほど先ほどの写真とは違うアングルで撮られている。
 私がキーホルダーを彼女に返そうとすると、先ほど不要といって断ったキーホルダーを取り出し、「これと合わせて2個で10元(150円)にするので買ってください」と言いだした。 
 なんと一挙に半額になってしまった!自分の写真付きキーホルダーが2個で日本円換算150円なのである。
 可愛い顔立ちの彼女の熱心さに買ってやると何と!また別なキーホルダーをポケットから取り出し写真を見てくれと言い出した!見てみると今度は私の旅仲間のH氏が写っているではないか。


 すると、私の人のよさを見込んでか、彼女が私に言った!「この写真の人、貴方のグループの人でしょ!」「安くしてあげたのだから、この人に声をかけて売ってくれませんか!」 何と!私に売り子をやれと言い出した。                  土家族の民族ショー
 公園内をよく見回してみると、カメラを持った男がさりげなく観光客に近づき、写真を写しては土産物店に戻って行く。大至急店内でキーホルダーに加工し彼女に渡す、それを彼女が売って歩くのだ。可愛い顔立ちなので鼻の下の長い私が第一番にカモになってしまった。結局私が旅仲間に対し売り子をした結果、私達のグループの大半がリュックサックに、同じキーホルダーをぶら下げ旅をすることになってしまった。


 民族ショーを見て今日の観光スケジュールを終えると、午後4時前にはホテルに着いてしまった。シャワーを浴びても夕食までかなり時間がある。
 ホテルから少し歩いたところのスーパーに       私達が2連泊した索渓鎮の湘水賓館
食料の買いだしに出かけることにした。
 結構大きな大きなスーパーで生鮮3品以外は全て揃っている、店内をブラブラしていると添乗員のY女史が菓子類をたくさん買いこんでいるのを見かけた。 Y旅行社の全ての添乗員が必ずといってよいほど、旅の期間中移動するバスの中では、毎日「おやつ」を配ってくれ、サービスが徹底しているのだ。
 
 何か腹ごしらえを兼ねつつ「晩酌のおかず」になるものがないか探していたら、生卵が目にとまった。「味付きゆで卵」でも作ってみようと思いたち陳列棚から、10個パック、5個パック、ばら売りの3種が並んでいる中から5個パックを手に取った。 さらに飲料コーナーでミネラルウォターと、紹興酒を買うべく店内を歩いていると、私の後ろをさりげなく店員が着いてくるではないか! 万引き監視で着いてくるのだが、スーパー普及期の中国では当たり前の行動でも、日本人とっては、何とも気持ちのいいものではない。
 監視員から逃げるように、手に持った商品をレジで清算すると「生卵5個が1.8元(27円)」「ミネラルウォターが1.5元(22円)」「紹興酒が6元(90円}だった。
                                    ホテル前の道路標識

 ホテルの部屋に戻り、室内備え付けの電気ポットを使い「ゆで卵」作りを始めた! 200ボルト電圧ポットの威力は凄い!あっという間に湯が沸騰しゆで卵が完成する。
  この「ゆで卵」を味付きに加工するべく、ビニール袋に日本から持参した「醤油」を入れ、晩酌用紹興酒を少し注ぎ、レストランから失敬したコーヒー用のシュガーを入れると、りっぱな調味液が完成した。 このビニール袋の調味液に、ひびを入れた殻付きのゆで卵を漬け込んだ。 これで明日にはりっぱな「味付きゆで卵」が完成するはず! おやつにもなるし、酒の肴にもなる、明日が楽しみだ。 私が中国に来ると必ず作る定番メニューなのだ。 やがて夕食時間がやってきた。


    旅その5 「バスはひた走る!毛沢東の故郷、湖南省長沙市へむけて」へ つづく
               
     ( 旅 4日目の出費)
        
      ミネラルウォーター 1.5元 × 1本   = 1.5元(22円)
      ミネラルウォーター 2元  × 2本   = 4元 (60円)
      焼イモ       2元  × 大1個  = 2元 (30円)
      缶ビール      3元  × 2缶   = 6元 (90円)
      キーホルダー   5元  × 2個   = 10元 (150円)
      生たまご      1.8元  5個パック= 1.8元(27円)
      紹興酒       6元  × 1本   = 6元 (90円)
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                  合計            31.3元 (469円)


                        (4日間の累計出費 217.3元 3260円)