日本消化器内視鏡学会甲信越支部

22.高齢糖尿病患者に生じ診断と治療に難渋した多発性大腸潰瘍の一例

柏崎中央病院 消化器内科
丸山 正樹
柏崎中央病院 外科
星山 圭鉱

症例は、80歳男性。27年前から当院内科で糖尿病の治療を受けていたがHbA1c10%前後とコントロール不良であった。認知症の悪化があり、クロピドグレル(75mg/日)、ドネペジル(10mg/日)も内服していた。2012年5月には溶連菌感染症で抗生剤を内服。6月18日、外科で肛門周囲膿瘍と診断され切開術を受けた。同日から発熱し、ロキソプロフェン(120mg/日×2日間)内服するも、その後は座薬も含めNSAIDは使用していない。同時に内服抗生剤も10日間投与。この頃から、軟便、発熱、食欲不振が続き衰弱が著明となり7月6日、当院内科へ入院した。7月13日、便中CD toxin陽性にて、VCM散内服開始。MEPM(1.5g/日×8日間)も併用し解熱。肛門周囲の発赤も軽快した。しかし、1日5行前後の水様便が遷延しており、消化器内科へコンサルトされた。全大腸内視鏡検査を実施したところ、左側大腸から直腸肛門にかけて類円形で打ち抜き様の下掘れ潰瘍が多発していたが、潰瘍間の介在粘膜はほぼ正常であった。回盲部には病変を認めず、生検では、非特異性炎症像を認めた。肛門周囲膿瘍が軽快した後も微熱が続いており、腸炎としての活動性があると判断。BIPM(0.6g/日)併用しつつ水溶性プレドニゾロン(30mg/日)を開始した。ステロイド開始後、次第に症状が軽快した。この間、下痢回数の増加を理由に行った便培養でMRSAが検出され、VCM散を再度投与している。これらの治療により下痢は改善し8月30日、独歩退院した。抗生物質起因性である偽膜性腸炎やMRSA腸炎は高齢者や重篤な疾患を有する患者に起りやすい。また、その様な患者では、他にも薬剤を使用していることが多く、抗生物質以外による薬剤性腸炎との鑑別も困難なことがある。今回我々は、内視鏡所見的にはNSAID起因性が疑われるが、臨床経過からは抗生物質起因性が想定され、診断と治療に難渋した多発性大腸潰瘍の一例を経験したので、文献的考察を含め報告する。