日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.瘻孔を形成し、盲腸虫垂型クローン病が強く疑われた1例

済生会新潟第二病院 消化器内科
岩永 明人、本間 照、阿部 聡司、関 慶一、石川 達、吉田 俊明
すずき醫院
鈴木 康史
済生会新潟第二病院 外科
桑原 明史、山田 沙季、酒井 靖夫
済生会新潟第二病院 病理診断科
西倉 健、石原 法子

症例は50歳代、女性。誘因なく上腹部~右下腹部痛が出現し、近医受診。白血球数10,400、CRP 3.8。腹部骨盤部CTでは盲腸壁肥厚と腸間膜リンパ節の腫大を認めた。CFでは盲腸底部は浮腫状で凹凸不整であったが明らかな潰瘍形成は認めなかった。生検では悪性所見や特異的所見はみられなかった。抗菌剤LVFXを5日間投与され症状は軽快し、炎症反応は消失した。3カ月後CTを再検したところ、盲腸壁の肥厚が残存していた。腫瘍性病変が否定できず、精査加療目的に当科へ紹介された。腹部に自発痛は無いが、疲労時や歩行後などに右下腹部に突っ張り感があると訴えた。他覚所見や検査データに異常はみられなかった。CFを再検したところ盲腸底部の浮腫状変化に著変はなく、玉石敷石所見様にも見えた。スコープを終末回腸へ挿入した後に、盲腸底部には膿汁様分泌物が貯留した。虫垂開口部近傍の玉石敷石様粘膜に瘻孔開口部を認め、膿汁は同部から流出した。ガストログラフィンで瘻孔を造影すると、瘻管は回腸末端と並走し、虫垂に連続しているように見えた。虫垂開口部および瘻孔から盲目的に生検を行った。腫瘍細胞は検出されなかったが、悪性疾患の否定はできないと考え、回盲部切除を行った。術中所見では回盲部は一塊となっていたが硬さは無く、炎症性腫瘤と考えられた。切除標本には全層性炎症を認め、また多数の類上皮細胞肉芽腫を認めた。リンパ管内を占拠するように存在する肉芽腫も少なくなかった。術後行った上部消化管内視鏡検査では特徴的な所見は得られなかった。本症例は盲腸虫垂に限局した肉芽腫性炎症で、瘻孔形成も伴っており、クローン病を強く疑っている。原因の特定できない特発性肉芽腫性虫垂炎では、術後長期にわたって追跡してもクローン病と確定診断された症例はきわめて頻度が低かったと報告されている。本症例でも他の消化管でのクローン病巣が出現するか否か、注意深い経過観察を行っている。