日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.経カテーテル的動脈塞栓術にて止血し得た、内視鏡的乳頭切除術後出血の1例

長野市民病院 消化器内科
越知 泰英、長谷部 修、伊藤 哲也、原 悦雄、関 亜矢子、岩谷 勇吾、多田井 敏治

症例は60歳代男性、原発性胆汁性肝硬変とアルコール性肝障害、甲状腺機能低下症、脂質異常症にて前医通院中だった。同医の人間ドックの上部消化管内視鏡検査で、十二指腸乳頭部に隆起性病変を指摘され生検で腺腫と判明したため、治療目的に当科に紹介された。病変は大きさ23mmでAd原発と考えられ、膵管及び胆管内進展、固有筋層浸潤を認めなかったため内視鏡的乳頭切除術を行った。なお術前の血液検査では、血小板数は14.2×104/μlと軽度減少していたが、凝固系は正常範囲内であった。ボストンサイエンティフィック社製ローテータブルスネアで絞扼し、オリンパス社製PSD-60のAuto Cutモードで通電一括切除し、その後胆管及び膵管ステントを留置した。一方、切除直後より切除面より漏出性の出血が持続した。バルーンカテーテルによる圧迫、ヒートプローブによる凝固を行ったが止血せず、HSEを局注して止血した。術後2日目に下血を認め、3日目には術前12.9g/dl であったHbが9.4 g/dlに低下したため内視鏡を再検した。切除面の肛門側に凝血塊の付着した露出血管を認めたためAPCで焼灼止血した。しかしその後もvital signsに変動はなかったが下血が続いた。術後6日目に頻回の暗赤色便と共に血圧が低下し、Hbも5.4g/dlまで低下したため、RCC4単位を輸血すると共に緊急内視鏡検査を施行した。切除面より湧出性の出血を認め各種止血術を試みたが、複数の小血管より止血と再出血を繰り返した。出血と蠕動で視野も不良になったため内視鏡的止血は不可能と判断し、経カテーテル的動脈塞栓術を施行した。造影剤の血管外漏出像は認めなかったが、十二指腸乳頭部領域に相当する前後上膵十二指腸動脈の遠位側を主体に塞栓した。術後vital signsは安定し、継続して止血状態が得られた。術後10日目に内視鏡を再検したところ、切除面の露出血管は消失し、周辺十二指腸に虚血性変化はみられなかった。最終的に絶食期間12日、入院期間22日を要して退院した。