日本消化器内視鏡学会甲信越支部

17.太い露出血管を有する出血性胃潰瘍に対して内視鏡的止血で救命しえた1例

諏訪赤十字病院 消化器科
大野 和幸、渡邊 一弘、小林 正和、太田 裕志、武川 建二
諏訪赤十字病院 腫瘍内科
進士 明宏

症例は97歳、女性。約2週間前から食欲不振があり、近医を受診、Hb 4.7g/dlと高度貧血があり、同院内で意識消失し、A病院に救急搬送された。上部消化管内視鏡検査では、胃体部後壁に6mm程度はあろうかという潰瘍内腔に突出する露出血管を認めた。内視鏡的止血の適応外と判断され、輸血と絶食による治療が開始された。腹部大動脈瘤の存在と超高齢者であることから、血管塞栓術および外科手術は実施困難とされたが、食事再開で再出血を認め、治療希望があり、当院に転送された。転送直後に、吐血と収縮期血圧50mmHgとショックを来たし意識レベルは保たれていたが、Hb 4g/dl台であった。補液等により循環動態を安定させつつ、緊急内視鏡検査を施行した。同部から噴出性の出血を認めた。比較的潰瘍全体の大きさが小さいため、潰瘍部にEVLを行った。出血の勢いは弱まったものの止血は不十分であった。凹んだ部位に相当するため、潰瘍辺縁を取り囲むように数個クリップを留置し、潰瘍面にHSEを局注して、一時的に中央部を内腔側に凸とし、クリップ全体を留置スネアで結紮し、止血した。翌日の2nd lookで止血を確認し、食事を再開した。当院第7病日に最終確認を行ったところ既に留置スネア等は脱落していたが、露出血管は消失しており、再出血のリスクはきわめて少ないと判断し、リハビリテーション目的で、A病院に転院となった。通常、内視鏡的止血の適応外とされる太径の血管からの出血であっても、既存の止血法の組みあわせで止血可能な場合もありえる。もちろん、外科との連携により、内視鏡的止血に固執することはさけなければならない。