日本消化器内視鏡学会甲信越支部

11.隆起型低異型胃腺腫から0-llc+lla型高分化型腺癌へと変化し、NBI併用拡大内視鏡(NBI-ME)が診断に有用であった1例

新津医療センター病院 消化器内科
齋藤 崇、豊島 宗厚
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 分子・診断病理学分野
渡邉 玄

【背景】胃腺腫と高分化型腺癌とでは治療方針に差異があり、両者の鑑別診断は重要である。今回、内視鏡的に白色調隆起病変で組織学的に腸型形質の軽度異型胃腺腫が、経過観察中に境界明瞭な発赤陥凹を有する0-llc+lla型の低異型高分化型腺癌へ変化し、NBI-MEが診断に有用であった。稀な1例について文献的考察を加えて報告する。また、比較のために低異型胃腺腫、高度異型胃腺腫、低異型高分化型腺癌、各々のNBI-ME所見も提示する。【症例】70歳代、男性。胃角部大弯に約1cmの白色隆起性病変を認めた。生検で胃腺腫(低異型、腸型形質)であり経過観察とした。約1年9カ月後、最大径はほぼ変わらなかったが、隆起に対する面積の広い境界明瞭な発赤陥凹が中心に出現し、0-llc+lla型に形態変化していた。高分化型腺癌を疑ったがワーファリン治療中であったため、生検は施行できなかった。この約3カ月後、確定診断と範囲決定目的に内視鏡再再検した。NBI-MEで陥凹部にはわずかな大小不同・ふぞろいがある極微細な顆粒状の表面構造が認められ、間質の微小血管は極微小な茶色の点として認識された。以上から、浅い腺窩様構造を呈する高分化型腺癌と診断した。生検で乳頭状の構造を持つ低異型の高分化型腺癌だった。さらに2カ月後、周囲12点マーキングしESD施行した。合併症無く退院。病理組織診断は低異型の高分化型腺癌であった。【考察】1.本症例の陥凹部強拡大NBI-ME観察で認識された「わずかな大小不同・ふぞろいがある極微細な顆粒状の表面構造」と「極微小な茶色の点として認識された間質の微小血管」というNBI-ME観察所見は、組織上みられた表面の乳頭状の凹凸構造を反映していると推測された。本症例のような低異型の高分化型腺癌と腺腫との鑑別診断にはNBI-ME観察での微細腺窩様構造の認識が有用である可能性が示唆された。2.隆起型胃腺腫で粘液形質が腸型であっても、本症例のように比較的短い観察期間で癌化する場合があり、注意深い経過観察が必要であることが示唆された。