日本消化器内視鏡学会甲信越支部

9.腎細胞癌術後8年目に膵転移をきたした1例

新潟県立新発田病院 内科
瀧澤 一休、夏井 正明、渡邉 雅史、松澤 純、津端 俊介、影向 一美、青木 洋平、坪井 清孝、木村 真由紀

今回、われわれは腎細胞癌術後8年目に膵転移をきたした一例を経験したので報告する。症例は70歳代の男性で、8年前に腎細胞癌で左腎摘出術を受けている。食欲不振を主訴に近医を受診し、貧血を指摘され、当科を紹介された。CTでは胆管拡張を伴う膵頭部から十二指腸内に突出する5cm大の多血性腫瘤の他に、体部と尾部にもそれぞれ1.5cm大と2cm大の多血性腫瘤を認め、腎細胞癌の膵転移あるいは膵神経内分泌腫瘍を疑った。血液検査では貧血と肝胆道系酵素の上昇を認めたが、腫瘍マーカーや膵内分泌ホルモンは正常範囲だった。EGDでは十二指腸下行脚内側に広範囲に隆起性病変を認め、主乳頭は確認できなかった。同部からの生検組織像は8年前の腎細胞癌のそれに極めて類似し、腎細胞癌の膵転移と診断した。MRIで膵頭部腫瘤はT1強調画像およびT2強調画像では中等信号、拡散強調画像では高信号を伴う中等信号を呈した。EUSでは膵頭部腫瘤は辺縁が低エコーだが大部分は高エコーを呈し、ペルフルブタン静注により早期濃染した。PET-CTでは膵頭部腫瘤の他に左頸部リンパ節にFDGの集積を認めた。左頸部リンパ節転移の可能性を考慮し、外科的切除ではなく、分子標的薬による治療を選択した。増強してきた胆管拡張と胆道系酵素上昇に対しPTCDを施行した後に泌尿器科でスニチニブの内服が開始された。3コース終了後のCTとEGDで腫瘤は著明に縮小したため、PTCDチューブを抜去した。しかし、5コース終了後にスニチニブの副作用と考えられる心不全症状が出現したためそれを中止し、テムシロリムスの点滴に変更し、現在治療を継続中である。スニチニブに代表される分子標的薬はその急速な開発と導入により、近年、切除不能腎細胞癌や再発例の一次二次治療として位置付けられた。本症例では副作用のため中止にはなったものの、スニチニブは膵転移に有効であった。腎細胞癌の膵転移に対する外科的切除の良好な成績を示し、それを推奨する報告もあるが、分子標的薬も有用な選択肢の一つに成り得る可能性が示唆された。