日本消化器内視鏡学会甲信越支部

7.Mirizzi症候群にて発症した胆嚢癌の一例

信州大学医学部附属病院 消化器内科
浅野 純平、小口 貴也、金井 圭太、伊藤 哲也、村木 崇、田中 榮司
信州大学医学部附属病院 内視鏡センター
新倉 則和

【緒言】Mirizzi症候群は胆嚢頸部に嵌頓した結石とそれに伴う炎症の波及により総肝管の狭窄を来し胆管炎や黄疸を呈し得る病態である。今回、我々は肝門部胆管狭窄をMirizzi症候群と術前診断したが、胆管進展を伴った胆嚢癌であった一例を経験したので報告する。【症例】60歳代、女性。主訴は黄疸。健康診断で肝胆道系酵素上昇を指摘され前医を受診し、上部胆管狭窄に伴う閉塞性黄疸と診断され精査加療目的に当科紹介となった。腹部造影CTでは胆嚢頸部に陥頓した径15mmの結石を認め、近傍を走行する胆管は肥厚し遅延性濃染を呈した。ERCでは上部胆管に比較的平滑な片側性圧排狭窄を認め、IDUSにて狭窄部近傍の胆管で境界エコーを有する内側低エコー層の肥厚があり、胆嚢頸部結石と接する側で、より顕著であった。狭窄部より胆管生検を2回施行したが、いずれも悪性所見は得られなかった。以上より、Mirizzi症候群と術前診断し開腹胆嚢摘出術を施行した。胆嚢摘出後、術中胆道造影を施行したところ上部胆管狭窄が残存していたため肝外胆管切除術を追加した。その際、術中迅速に提出した右肝動脈周囲組織より腺癌を認め、肝拡大右葉切除術を追加した。術後病理診断は胆嚢を原発とする中分化型腺癌であり、中部胆管から左肝管まで傍神経浸潤を伴う癌の壁内進展を呈し、胆管上皮への癌の露出はわずかな領域にしか存在しなかった。【総括】本症例は胆嚢頸部に嵌頓結石が存在し、Mirizzi症候群による良性上部胆管狭窄と術前診断したが、胆嚢癌であった。術前、胆管生検にて悪性の診断が得られなかったのは壁内進展を主体とした進展様式を呈したことに起因すると考えられた。胆嚢頸部の結石が癌により嵌頓し、上部胆管圧排を生じMirizzi症候群を呈したと考えられた。Mirizzi症候群を呈する胆嚢結石症例は結石嵌頓の背景に胆嚢癌が存在している可能性があり、留意を要する。