日本消化器内視鏡学会甲信越支部

5.当院における膵管癒合不全に対する副乳頭切開3例のまとめ

長野中央病院 消化器内科
小林 奈津子、小島 英吾、田代 興一、松村 真生子

【はじめに】膵管癒合不全は腹側膵管と背側膵管の癒合が不十分な場合に生じる形成異常であり、本邦での頻度は約1%前後とされる。本症では背側膵管の膵液が副乳頭を介して十二指腸に流出されるが、副乳頭の開口部は小さいため膵液の流出に抵抗を生じやすく、さらにアルコール、過食などの後天性負荷因子が加わり急性再発性膵炎を生じる。内視鏡的治療としては副乳頭切開術、ステント挿入術、副乳頭バルーン拡張などがある。当院において、膵管癒合不全と診断した症例は過去に3例あり、全例副乳頭切開を行っている。【症例1】65歳、女性。飲酒歴なし。平成20年から膵炎を繰り返し、精査のERCPで膵管癒合不全と診断し平成22年針状メスにて副乳頭切開術を施行し、合併症なく退院した。その後腹痛発作なく経過している。【症例2】79歳、女性。飲酒歴なし。平成19年に心窩部痛の症状あり腹部CT・MRCPにて膵管癒合不全の疑いと診断され経過観察されていた。その後もアミラーゼ上昇を伴う上腹部痛を繰り返すため、平成23年に針状メスにて副乳頭切開施行し、合併症なく退院した。【症例3】57歳、男性。大酒家。平成15年に急性膵炎を発症しそれ以降も断酒できず計3回急性膵炎にて他院入院歴あり。平成25年当院に急性膵炎にて入院し、膵炎消退後ERCP施行し、膵管癒合不全と診断した。後日パピロトミーナイフにて副乳頭切開施行し、合併症なく退院した。その後腹痛発作なく経過している。【考察】当院での3症例の経験では副乳頭切開は大きな合併症なく比較的安全に治療を行うことができ、膵管癒合不全に対して有効な治療法であると考えた。当院では術者の慣れている針状メスでまず切開を試み、それが困難であった場合にパピロトミーナイフを使っている。ただし切開の方向や範囲、使用するデバイスなど推奨されるエビデンスはないのが現状である。また最近では副乳頭のバルーン拡張術の報告もあり、それらを含めた症例の蓄積の上でより適切な治療法を検討していく必要がある。