日本消化器内視鏡学会甲信越支部

PL2.ESD術後3病日に遅発性穿孔を来たし保存的に軽快した早期胃癌の1例

新潟医歯学総合病院 消化器内科
荒生 祥尚、本田 博樹、影向 一美、高村 昌昭、竹内 学、佐藤 祐一、青柳 豊
新潟大学医歯学総合病院 光学医療診療部
小林 正明、水野 研一、橋本 哲

症例は60歳代男性。3年前に前医で胃体上部大弯の0-I型早期胃癌に対してESDを施行した。除菌後の経過観察中に下咽頭癌と胃角大弯にGroup 2の発赤陥凹を認めたため当科に紹介された。再検で胃病変はGroup 5 (tub1, pap)であったため、早期胃癌と下咽頭癌に対して手術室でESD , ELPSの順に施行した。術中トラブルはなくESD術時間は40分であった。しかし術後3病日に突然筋性防御を伴う激しい腹痛を自覚、CTではfree airを認めESD後遅発性穿孔と診断した。消化器外科にコンサルトしたが、保存的加療の方針となり、禁飲食、抗生剤、胃管による減圧を継続した。CRP値は術後4病日の12.8mg/dlをピークとして下降し、術後9病日の内視鏡検査では潰瘍底はほぼ一様の白苔で覆われ穿孔部は認められなかった。術後12病日の造影で造影剤の漏出は認めなかったため飲水を開始し、食事開始後も順調で術後22日病日に退院した。病理結果はtub1, pT1a(M), ly(-), v(-), pHM0, pVM0, 0-IIc, 23×14mm, L, Gre、切除径31×29mmであった。遅発性穿孔を、「術中明らかな穿孔所見を認めないが、術後に腹膜刺激症状が出現し、画像でfree airを認めたもの」と定義すると、これまでに当科では本症例を含め6例(0.4%)経験している。平均年齢は77.0歳(63-84歳)、局在はいずれも体部で大弯2例、小弯2例、前壁1例、残胃大弯1例であった。3例で腹膜炎および全身症状悪化のため緊急手術が施行された。過去の報告では残胃に伴う胆汁の逆流、筋層の損傷、過凝固、体部病変が遅発性穿孔のリスクファクターと考えられている。本症例は大弯病変であり、胆汁貯留の関与が疑われた。遅発性穿孔は稀であるが、致命的になりうる後期合併症であり、当科の経験症例の考察も含め報告する。