日本消化器内視鏡学会甲信越支部

71.当院において過去 5年間に経験された腸管気腫症のまとめ

信州大学 医学部附属病院 内科学第二講座
北畠 央之、長屋  匡信、丸山 康弘、福澤 慎哉、中村 真一郎、野沢 祐一、大工原  誠一、小林  聡、岡村  卓磨、奥原  禎久、山田  重徳、菅  智明

腸管気腫症は腸管壁内に気腫像を認める病態の総称である。以前は嚢胞様気腫症と呼ばれて比較的稀な病態と考えられてきたが、近年は画像診断の向上に伴い発見例が増加しており、嚢胞様気腫以外の気腫像を呈することが知られている。発症要因には諸説あるが、主に腸管粘膜脆弱性と腸管内圧上昇が背景として疑われている。

今回我々は院内で確認された腸管気腫症のうち、腸管気腫症に関する全国調査に準じた背景検索が可能であった34例を検討した。うち代表的な3例を提示すると共に、若干の文献的考察を加えつつ、当院における腸管気腫症の傾向をまとめる。

【症例1】70歳代、男性。糖尿病に対してα-GIの長期内服歴がある。慢性的な便秘に加えて腹部膨満感が出現したことから下部消化管内視鏡検査を施行され、S状結腸を中心とした嚢胞様気腫の多発を認めた。高圧酸素療法と腸管蠕動亢進薬の投与で症状は改善した。

【症例2】50歳代、女性。強皮症に対してPSL・PPIの長期内服歴がある。誘引なく出現した頻回水様便・腹痛・背部痛に対して腹部単純レントゲン写真を撮影したところ、小腸壁に一致して線状気腫像を認めた。絶食・高圧酸素療法による保存的治療で気腫像・症状ともに消失した。

【症例3】90歳代, 女性。既往歴・内服歴とも特記すべきことはない。腹部違和感・食思不振を主訴に受診され、腹部CTで回盲部~終末回腸に嚢胞様気腫像の多発を認めた。低流量酸素の投与で症状は改善した。詳細な暴露経路は不明であるが,尿中トリクロロエチレンが検出された。