日本消化器内視鏡学会甲信越支部

65.保存的治療後に緊急手術を施行した上腸間膜静脈血栓症の1例

長野赤十字病院 消化器内科
小林 惇一、田中 景子、宮島 正行、今井 隆二郎、三枝 久能、藤澤 亨、森 宏光、松田 至晃、和田 秀一
長野赤十字病院 外科
草間 啓

【症例】49歳男性【主訴】腹痛、下痢【既往歴】特記事項なし【家族歴】血栓症なし

【病歴】2013年6月14日に38℃台の発熱と頭痛を認め、近医を受診した。CRP 12mg/dl台であったが、ガレノキサシンを処方され解熱した。17日より軽度の腹痛と1日8行程度の下痢がはじまり、19日には血性下痢となった。そのため、20日前医を受診したところ、WBC 11600 /μl, CRP 15.03 mg/dlと炎症反応が高値であったため、腹部造影CTが施行された。CTでは門脈本幹から上腸間膜静脈末梢に至る血栓を認め、同院に入院した。翌21日未明に腹痛が増悪し、採血上炎症所見も増悪していたため、精査加療目的に当院転院となった。CT上腸管壊死や穿孔は明らかではなく、外科との検討で腸管切除は短腸症候群が必発と考えられたため、上腸間膜動脈からのウロキナーゼ持続動注と、ダルテパリンナトリウム静注を併用した保存的療法を選択した。腹部所見は増悪なく、炎症反応や凝固マーカーは改善傾向となったため、経時変化評価のため入院第20日に造影CTを施行したところ、小腸壁の破綻が指摘された。翌第21日に緊急小腸切除術が施行され、計80cmの小腸が切除された。穿通していた小腸は、炎症や周囲の腸管で被包化されており、汎発性腹膜炎への進展を免れていた状態であった。遡って検討したところ、腹部X線で壊死腸管の小腸ガス像が入院時より不変であったため、入院当初より継続して強い虚血状態であった可能性も考えられた。

【考察】上腸間膜静脈血栓症は、一部の特発性の症例の他、手術、腹腔内の炎症や血栓素因などに伴う続発性の血栓症が知られている。本症例では潜在的な血栓素因は指摘されていないが、先行した腹腔内の炎症の存在は否定できない。上腸間膜静脈血栓症は比較的稀な疾患であり、若干の文献的考察を加えて報告する。