症例は47歳,女性.主訴は心窩部痛.10年前にIgA腎症にて献腎移植術を施行された.1ヶ月前にIgA腎症の急性増悪に対して,ステロイドパルス療法,エンドキサンパルス療法が施行された.以後,免疫抑制剤とステロイドの内服を継続しつつ当院腎臓内科通院中であった.心窩部痛,食欲不振が出現したため,当院腎臓内科を受診し,精査加療目的に入院となった.絶食と補液にて症状は軽快傾向となったが,原因精査のため行った下部消化管内視鏡検査にて,生検で異形な封入体様の大型核を持った細胞を認め,免疫染色にてサイトメガロウイルス(CMV)の存在を認めCMV腸炎と診断された.ガンシクロビル(GCV)の投与にて症状も消失,経口摂取も十分となった.第17病日に急激な腹痛が出現,腹部CTにて,腹腔内にfree airを認めた.消化管穿孔の診断にて緊急手術となった.開腹所見では腹腔内に漿液性の腹水を多量に認め,Treitz靱帯より20 cmの空腸の腸間膜反対側に5 mm大の穿孔を認めた.浮腫状であった穿孔部周囲の空腸を含めて約35 cmの小腸を部分切除した.術後は集中治療室に入室し,抗菌薬,GCVの投与を行った.術後1日目にシクロスポリンの持続静注を再開.術後3日目にCMVアンチゲネミアの再上昇を認めたため,CMV高力価γグロブリン製剤の投与を行った.術後4日目より経口摂取を再開した.その後の経過は概ね良好であり,術後11日目にCMVアンチゲネミアの陰性化を確認,術後20日目に退院となった.病理組織学的検査所見は,穿孔部周囲の空腸には好中球,単核球の浸潤を認め,免疫染色にて粘膜内にCMV陽性細胞を認め,CMV腸炎による穿孔と診断した.腎移植後は長期の免疫抑制剤,副腎皮質ステロイドの内服を必要とし,易感染状態からCMV腸炎などの日和見感染症を発症しやすい.CMV腸炎による消化管穿孔はまれであるが,背景疾患や免疫不全の状態も影響し,その予後は不良である.今回,腎移植後10年目に発症したサイトメガロウイルス腸炎による消化管穿孔に対して,集学的治療にて救命し得た1例を経験したので報告する.