日本消化器内視鏡学会甲信越支部

55.消化管転移で発見された乳癌の2例

済生会新潟第二病院消化器内科
井上 良介、岩永 明人、菅野 智之、渡辺 雄介、阿部 聡史、関 慶一、石川 達、本間 照、吉田 俊明
済生会新潟第二病院外科
桑原 明史
済生会新潟第二病院病理診断科
石原 法子
新潟臨港病院消化器内科
窪田 智之

乳癌の遠隔転移部位は肺、肝、骨の頻度が高い。消化管転移は稀とされており、進行例末期の全身転移の一部分症として認められるとの報告が多い。そのため、初発に消化管症状を訴えた場合、転移性乳癌の診断に難渋することも少なくない。今回私たちは、消化管病変から乳癌の転移と診断した2症例を経験したので、その臨床的特徴につき報告する。症例1、80歳代女性。嘔吐、腹部膨満感を訴え、EGDで胃内に大量の残渣と多発性胃瘍を指摘され当科紹介。当院初回EGDでは、十二指腸下行脚は浮腫状に狭小化していたが、腫瘍性病変として認識できなかった。その後の腹部CTで、膵頭部を含め、十二指腸下行脚から水平脚に全周性の腫瘤性病変が疑われたため、EGD再検し、同部からの生検で粘膜下層に孤在性に印環細胞癌様の異形細胞の浸潤を認め、他臓器よりの浸潤か転移が疑われた。一方、数年前より本人は右乳房にしこりを自覚しており、経皮的針生検から浸潤性小葉癌と診断された。十二指腸病変組織との類似性から乳癌の十二指腸転移と診断した。症例2、50歳代女性。排便困難感を訴えて当科を初診。大腸内視鏡検査で直腸は全周性、浮腫状に狭小化を認めた。同部よりの生検で悪性所見を指摘できなかった。以後、漸次排便困難感は増悪し、約1か月後の内視鏡再検時には狭窄性変化も進行していた。再度同部位よりのボーリング生検にて、粘膜下層主体に浸潤した低分化型腺癌を認めた。原発か転移かの判断はつかなかったが、症状も切迫していたため、外科的切除の方針とした。開腹時すでに広範な腹膜播種が認められたため、横行結腸にstomaを造設し閉腹した。播種巣の病理組織で、乳癌が疑われる所見であった。術後胸部CTにて右乳房に径2cmの腫瘤性病変を認め、針生検で浸潤性小葉癌であった。症例1同様、乳癌の転移と診断した。現在、内分泌療法を施行中である。