日本消化器内視鏡学会甲信越支部

53.放射線性胃炎に対してメサラジン内服が有用であった可能性のある1例

山梨大学附属病院 第1内科
津久井 雄也、大高 雅彦、田中 佳祐、小林 祥司、佐藤 光明、吉田 貴史、浅川 幸子、小馬瀬 一樹、中山 康弘、井上 泰輔、植竹 智義、坂本 穣、榎本 信幸

症例は75歳、男性。2011年12月頃より食欲低下が出現し、半年間で12kgの体重減少を認めた。2012年5月に人間ドックを受け、肝腫瘤を指摘され、6月1日に当科を紹介初診、非B非C肝細胞癌の診断となる。肝S1を主体とする最大径95mm大の病変のほか、肝内には病変が多発しており、門脈左枝基部に浸潤(VP3)も認め、stageIVAと診断した。肝内病変に対しては繰り返す経カテーテル治療を行い、門脈腫瘍栓に対しては姑息的な放射線治療を行った(56Gy/28Fr 6月18日~7月26日)。9月21日頃より心窩部痛を認め、9月24日に行った上部消化管内視鏡検査で前庭部から幽門部にかけて多発潰瘍と毛細血管拡張を認め、幽門輪には狭窄を伴っていた。放射線の照射部位からも放射線の有害事象として矛盾なく、放射線性潰瘍と考えた。ラベプラゾールを10mg/日から20mg/日に増量したところ、潰瘍の縮小を認めたが残存し、毛細血管拡張からは湧出性出血を伴っていた。11月6日にラベプラゾールを40mg/日に更に増量し、粘膜保護剤も併用した。16日後の内視鏡検査では潰瘍と出血は改善なく、メサラジン1.5g/日を粉砕内服投与した。潰瘍は改善傾向となり、毛細血管拡張からの出血も改善した。その後、潰瘍の縮小と共に幽門輪は狭窄し、幽門輪の狭窄に対して3回のバルーン拡張を行った。現在、狭窄は残るも経鼻鏡は通過し、潰瘍は瘢痕化、毛細血管拡張も目立たず出血症状も改善している。放射線性直腸炎に対するメサラジンの有用性の報告は散見されるが、放射線性胃炎に対する報告はあまりない。放射線性胃炎に対してメサラジンを投与したところ改善した症例を経験したので、若干の文献的考察を含め報告する。