日本消化器内視鏡学会甲信越支部

49.腹部大動脈瘤(AAA)による十二指腸通過障害を呈した一例

丸の内病院 消化器内科
山本 香織、中村 直

症例は67歳の男性。2012年9月頃より食後に嘔吐するようになり、3ヶ月間で2.5kgの体重減少を認めていた。2012年12月当院受診し、上部消化管内視鏡検査施行した。十二指腸まで観察したが、慢性胃炎を背景に前庭部小弯に15x10mmのIIc病変を認める以外、嘔吐の原因となる病変はなかった。2013年1月外来再診、この1ヶ月間でさらに3.5kg体重減少していた。腹部造影CT検査を施行したところ、胃から十二指腸にかけての著明な拡張がみられ、十二指腸水平脚で先細りの狭窄像を認めた。同部位には径50mm大の腹部大動脈瘤を認めており、大動脈瘤による十二指腸通過障害Aorto-duodenal syndromeと診断した。胃管を挿入して減圧を図った後、ガイドワイヤー操作にて狭窄部より肛側へチューブを進め経鼻経管栄養を開始したが、十二指腸の拡張によるたわみが強く抜けてしまい継続できなかった。一度胃内が減圧された効果により、流動食からミキサー食程度であれば嘔吐なく経口摂取することが可能となった。しかし、その後も経口摂取量の増加は困難で、体重増加もみられなかった。動脈瘤の治療につき信州大学病院心臓血管外科と検討した。瘤径が大きくはないため、動脈瘤手術によって経口摂取が可能となるかどうかは不明であるという旨を充分に説明したうえで、腹部大動脈瘤人工血管置換術を行った。術後経過は順調で、消化器症状は消失し、普通の食事が摂れるようになった。動脈瘤手術までの半年で最終的に10kg減少した体重も、術後に5kg増加した。その後に胃のIIc病変に対しESDを行った。一般的に大動脈瘤非破裂例では自覚症状に乏しく、十二指腸狭窄による通過障害をきたす症例は稀であるとされている。しかし、本症例のように50mmと大きくはない大動脈瘤であっても十二指腸通過障害の原因として考慮する必要があると考えられた。