日本消化器内視鏡学会甲信越支部

48.胃癌、小腸癌を合併した若年性消化管ポリポーシスの1例

丸の内病院 消化器内科
中村 直、山本 香織
丸の内病院 消化器外科
五十嵐 淳
高山内科明生会
前島 さやか、平野 真理
信州大学 医学部附属病院 消化器内科
中村 真一郎
信州大学 医学部 保健学科 検査技術学専攻 生体情報検査学講座
太田 浩良

症例は60代の男性で、高血圧、心房細動で近医にて加療を受けていた。2年前に貧血のため行ったEGDで前庭部のポリープが認められていたが、生検では過形成性変化のみで悪性所見は認められなかった。その2年後に再度EGDを行ったところ、前庭部の易出血性のポリープが増大、多発しており精査のため当院へ紹介となった。尚、父、姉、姪に胃癌の家族歴がある。入院時の血液検査ではHb10.8g/dl、Alb3.3g/dlと貧血と低タンパク血症を認めた。当院で行ったEGDでは透明感のある分葉状ポリープが前庭部に多発して認められた。大きめのポリープを数個EMRし組織学的に検索すると、嚢胞形成を伴った腺窩上皮の過形成と間質の浮腫が主体で、若年性ポリープの所見であった。部分的には形状不整、大小不同を示す異型腺管が認められ、高分化型腺癌を含んでいた。内視鏡的には癌の部分の同定が困難であること、慢性の貧血と低タンパク血症を繰り返していることから胃全摘が必要と判断した。全消化管を検索したところ、大腸内視鏡では上行結腸を中心に腺腫と若年性ポリープが散発性に認められ、小腸では回腸に単発の高分化型腺癌を認めた。PETでは小腸にわずかな集積が見られる以外に胃や他臓器への集積はなかった。大腸ポリープは後日内視鏡治療を行うこととして、胃全摘術および小腸部分切除術を施行した。全摘された胃には前庭部を中心に多発する隆起性病変を認め、組織学的に若年性ポリープの所見であった。細胞異型、構造異型の強い腺管に一致してP53が陽性で高分化型腺癌の部分が2カ所に認められた。小腸腫瘍は大きさ25ミリのIIc型腫瘍で、高分化から中分化型の腺癌であった。胃腫瘍、小腸腫瘍ともに粘膜内病変で脈管侵襲、リンパ節転移は認めなかった。後日大腸ポリープに対して内視鏡切除を行い、組織学的には腺腫と若年性ポリープであった。胃に発生する若年性ポリポーシスは胃癌の合併が多く報告されているが、小腸癌を合併した若年性消化管ポリポーシスの報告はまれである。手術に際しては病変が多発する可能性を考慮して全消化管の検索が必須と考える。