日本消化器内視鏡学会甲信越支部

50.進行胃癌術後に遅発性乳び腹水を呈した1例

立川綜合病院 消化器センター 消化器内科
小林 由夏、杉谷 想一、品川 陽子、上野 亜矢、藤原 真一、大関 康志、飯利 孝雄、大矢 敏裕
立川綜合病院 消化器センター 外科
蛭川 浩史、多田 哲也

【はじめに】胃癌術後乳び腹水は比較的稀な合併症であり、その治療法に確立されているものはない。また一度発症すると、治療に難渋することも多いとされている。【症例】81歳、男性【主訴】腹部膨満【既往歴】糖尿病、高血圧、非定型抗酸菌症、肺気腫【現病歴】平成24年6月より食欲低下を認め、上部内視鏡検査にて前庭部2型胃癌と診断された。7月に幽門側胃切除およびD2リンパ節郭清を行った。術後病理検索にて1群リンパ節転移を認め、Stage IIIaと診断された。8月より術後補助化学療法を導入予定であったが、腹部膨満、下肢浮腫が出現、増悪するため精査加療目的に入院となった。【経過】腹部エコー上多量腹水の貯留を認め、穿刺にて乳白色の混濁した腹水を認めた。細胞診はclass II、腹水中蛋白2.5g/dl、中性脂肪528mg/dl、糖156mg/dl、リバルタ反応は陰性で術後遅発性乳び腹水と診断した。絶食、高カロリー輸液、ソマトスタチン持続皮下注を行い、腹部膨満に対してはドレーン挿入せずに間欠的腹水透析によって症状をコントロールした。第30病日より成分栄養経口摂取から開始し、腹水の増加がないことを確認しながら徐々に食事量を増量、第60病日に退院となった。【考察】胃癌術後乳び腹水の報告は、ほとんどがD3リンパ節郭清後であり、発症時期は術後5-7日目とされる。治療は保存的治療が中心であり絶食、中心静脈栄養、中鎖脂肪酸投与、ソマトスタチン投与などが報告されているが確立されていない。一度おこると難治性で栄養状態の低下やそれにともなう感染症などの合併症により死亡率は11.1%ともされる。本症例ではD2リンパ節郭清にとどまっており乳び腹水の機序は明らかではないが、呼吸器合併症を有する高齢者であり、術前から少量の腹水を認めていたことが、なんらかのきっかけになった可能性がある。治療として、絶食、中心静脈栄養ととともに症状コントロール目的の腹水透析導入や、成分栄養の経口投与が有用であったと考えられ報告する。