日本消化器内視鏡学会甲信越支部

30.胃への穿破を認めた膵粘液癌の1例

JA長野厚生連 篠ノ井総合病院 消化器内科
児玉 亮、牛丸 博泰
JA長野厚生連 篠ノ井総合病院 外科
池野 龍雄

症例は75歳男性。2012年8月に急性膵炎で入院した。その際に行われた腹部CT検査で膵体部に嚢胞性腫瘤を指摘されたが、嚢胞内に充実成分を認めず急性膵炎後の膵仮性嚢胞と考えられ外来で経過観察となった。2013年5月下旬に心窩部痛が出現し、当院を受診した。腹部CT検査で膵体部の嚢胞性病変の明らかな増大を指摘された。精査目的で当科に紹介となり入院した。入院後第7病日にERCPを行った際に、胃体中部小彎に1cm大の瘻孔を認め、瘻孔より粘液塊の露出を認めた。膵管造影では嚢胞を介して主膵管から胃内へ造影剤が流出した。嚢胞内へ内視鏡を挿入したが粘稠度の高い粘液が多く嚢胞壁の詳細な観察は困難であった。粘液塊の病理検査で粘液癌と診断した。病変は腹腔動脈根部を巻き込んでおり根治切除は困難と考えた。絶食、中心静脈栄養管理とし、第14病日より化学療法を開始した。第18病日にショックとなりCT検査で嚢胞内に血腫を認め、嚢胞内出血と診断したが自然に止血した。第24病日に再度ショックとなった。緊急で血管造影検査を行ったところ脾動脈本幹に仮性動脈瘤を認めコイル塞栓を行った。出血のコントロールと経口摂取のために手術が必要と考え、第34病日に膵体尾部切除、胃全摘術の予定で手術を行った。しかし、腫瘍は肝外側区や横行結腸間膜根部、更に腹腔動脈、上腸間膜動脈の根部付近に浸潤しており、切除不能と判断した。第40病日より食事開始したが特に問題を起こさず経過し、第49病日より化学療法を再開した。現在外来で化学療法を継続中である。膵粘液癌は膵癌取扱い規約上、通常型浸潤性膵管癌の一亜型に分類されるが、本邦の膵癌登録によれば通常型膵管癌の1.4%と稀な腫瘍であり、胃へ穿破した症例の報告はさらに少ない。本症例は貴重な症例と考えられ、文献的考察を加え報告する。