日本消化器内視鏡学会甲信越支部

31.脾梗塞による腹痛を契機に見いだされた膵尾部癌の一例

立川綜合病院 消化器センター内科
品川 陽子、杉谷 想一、大関 康志、上野 亜矢、藤原 真一、小林 由夏、飯利 孝雄、大矢 敏裕

【症例】64歳男性

【主訴】左季肋部痛、左背部痛【家族歴】特記事項なし【既往歴】右下肢深部静脈血栓症で、61才よりワーファリン内服中【生活歴】機会飲酒、喫煙20本×20年間【現病歴】 平成25年4月17日に左季肋部及び左背部に持続する痛みが出現した。翌18日痛みが持続するため当院を受診した。【身体所見】左季肋部に圧痛を認める以外に特記事項なし。【検査】CRP 1.00mg/dl以外の採血検査には異常を認めなかった。CTで、膵尾部に境界明瞭な乏血性の膵腫瘍と脾臓内部に造影効果のない低吸収域を認め、脾梗塞と診断した。

【経過】脾梗塞の診断で同日入院した。保存的加療で6病日には速やかに痛みは消失した。CEA、CA19-9、DUPAN2、SPAN1の上昇を認め、膵尾部癌と診断した。画像上は腫瘍内を貫通する脾動脈分枝と、腫瘍に圧排された脾静脈において、血管の狭小化と壁不正を認め、腫瘍による血管侵襲が否定できない所見であったが、遠隔転移やリンパ節転移がないため、5月10日膵尾部切除術と脾摘を施行した。経過は良好で術後16病日に軽快退院した。【病理所見】T3N0M0組織診断では浸潤性膵管癌(高+中分化型腺癌)、v2 であった。腫瘍の浸潤は脾動脈では血管壁周囲にとどまり、血管壁の破壊はなく、脾動脈内の腫瘍塞栓もなかった。腫瘍境界部では血管周囲に炎症を認め、一部の血管内皮に器質化した血栓を認めた。

【考察】脾梗塞は一般的に血液疾患による血管内凝固能亢進状態、感染性心内膜炎や心房細動による心原性塞栓、動脈硬化による血栓、膵炎、腫瘍浸潤等があるが、本例では、術後の病理所見では脾動脈内の腫瘍塞栓は無かった。また明らかな膵炎はなかったが、脾動脈分枝に血管炎を認めており炎症による脾動脈血栓が原因であったと考えた。