日本消化器内視鏡学会甲信越支部

29.膵仮性嚢胞内出血をきたしたアルコール性慢性膵炎の一例

糸魚川総合病院
萩本 聡、高木 宏明、金山 雅美、野々目 和信、月城 孝志、康山 俊学、樋口 清博

【症例】63歳男性。【主訴】左季肋部痛と左背部痛。【現病歴】15年前にアルコール性慢性膵炎と診断され、4年前に膵尾部の膵石及び膵仮性嚢胞を指摘されたが、その後も断続的に飲酒を続けていた。本年5月に腹部CTにて膵仮性嚢胞の増大を認め、以降は断酒を行うも、その2ヶ月後に左季肋部痛と左背部痛を生じたため入院となった。入院時の腹部CTでは、膵仮性嚢胞は出血によりさらに増大し、腹部ドップラーエコーにて嚢胞内への動脈性の噴出性出血所見を認めた。同日、血管造影を行い、脾動脈下極枝の穿破による嚢胞内出血と診断し、マイクロコイルを用いて同枝を塞栓した。後日行われたERCPでは、膵尾部膵管は膵石により描出されず、副膵管内にも結石による陰影欠損を認めた。その後、膵炎の治療を継続しながら経口摂取を再開するも膵尾部に限局した膵炎の再発を繰り返したため、外科的に膵尾部・脾切除術が施行された。【考察とまとめ】膵仮性嚢胞における出血の頻度は6-10%で、重篤な合併症の一つである。膵仮性嚢胞は、6週間を経過しても消失せず腹痛や出血などの症状を呈する場合に治療の対象となる。治療として経消化管的内視鏡治療や経乳頭的内視鏡治療及び外科的治療が挙げられる。経消化管的治療の適応は消化管壁と癒着し、嚢胞壁が安定化した仮性嚢胞である。また経乳頭的治療は仮性嚢胞と主膵管との間に交通がある場合もしくは仮性嚢胞の乳頭側主膵管に狭窄があった場合が適応である。本症例では仮性膵嚢胞が膵尾部であり消化管および主膵管との距離に乖離があったため適応とならなかった。本症例はIVRにて出血コントロールすることが可能であったが、膵石を伴う膵尾部膵炎を繰り返し、再出血の危険性が高いと考えられたため、内視鏡的治療やESWLを行わず外科的治療を行うことを選択した。今後副膵管結石を内視鏡的に採石する予定である。