症例は66歳、女性、出身地は長野県。既往は不眠症、交通事故による脊髄損傷、胆のう摘出術。2013年3月に持続する上腹部痛を主訴に近医を受診、CTにて腹腔内リンパ節の腫大と腸間膜肥厚を認め当科紹介受診した。悪性リンパ腫を念頭に精査を進めたが表在リンパ節の腫脹は認めず、患者および家族の理解能力、意思決定能力の欠如により開腹リンパ節生検の同意が得られず診断に苦慮していた。患者および家族に十分なインフォームド・コンセントのうえ無治療で経過観察の方針としたが、腹腔内リンパ節の顕著な増大と全身状態の増悪を認め、生命予後が短期間であると判断されたため組織学的診断目的で5月下旬にEUS-FNAを施行した。穿刺針はBoston scientific社製expect 19G針を使用した。フローサイトメトリーではCD2(+)、CD3(+)、CD4(+)、CD5(+)、CD7(-)、CD8(+)、CD10(-)、CD19(-)、CD20(-)、CD23(-)、CD16(-)、CD56(-)、CD25(-)、CD30(-)の表面形質を持った細胞を多数認めた。細胞診ではN/C比が高く、クロマチンの増量と核形不整や核小体腫大を伴った裸核様の異型細胞が確認され、核は過分葉し花弁様:flower-likeであった。 組織診では異型リンパ球の密な増殖巣を認め、免疫染色ではCD3(+)、CD20(-)、CD79a(-)、CD56(-)でありT細胞系の悪性リンパ腫の所見であった。採取組織を用いたG-banding検査は分析可能な培養細胞が得られずに不可能であった。血清学的検索においてATLA(+)、HTLV-1抗体(+)、GP.46抗体(+)、P.53抗体(+)、P.24抗体(+)、P.19抗体(+)でありHTLV-1感染の存在が明らかとなったためリンパ腫型のAdult T cell Leukemia/Lymphoma:ATLLと診断し6月よりCHOP療法を継続中である。また、本例ではEUS-FNA後に急速な腹水の増加を認め、腹水中にも同様の異型リンパ球が検出されたが治療とともに腹水の著明な改善が得られた。悪性リンパ腫におけるEUS-FNAの診断ではフローサイトメトリーと免疫染色を併用することでその分類に寄与することが報告されている。EUS-FNAを用いて診断しえたATLLの報告例はこれまでになく、貴重な症例と考え報告する。