症例1は50歳代後半の女性で,検診でCA19-9が1007.1 U/mlと高値を認め当科受診となった.精査にてCTで膵尾部に60×44 mmの多房性の嚢胞性腫瘤を認め,嚢胞壁と隔壁は造影効果を認めた.腹部超音波では嚢胞内にdebrisを認めた.MRIでは嚢胞はT1WIで低信号,T2WIで高信号,DWIで低信号だが,房の一部はDWIで高信号を示した.ERPでは尾側膵管の頭側への偏位を認めたが,膵管と嚢胞との交通は認めなかった.尾側膵切除を行った.固定標本では嚢胞は黄色ゼリー状の物質で満たされていた.嚢胞壁は扁平細胞で被覆され,間質にはリンパ濾胞を認め,lymphoepithelial cystと診断された.症例2は60歳代後半の女性で,体重減少のため腹部超音波検査を行ったところ,膵尾部に腫瘤を認め当科受診となった.CA19-9は126.0 U/mlだった.CTでは膵尾部に50×40 mmの腫瘤を認め,内部には多数の造影される隔壁様構造を認めた.MRIではT2WIで高信号,脂肪抑制T1WIで軽度高信号,DWIで高信号を示し,隔壁様の構造を除いて造影効果を認めなかった.EUSでは腫瘤はやや不均一にhypoechoicであった.ERPでは異常所見を認めなかった.尾側膵切除を行った.固定標本では多房性の嚢胞性病変で,嚢胞は白色のチーズ状の物質で満たされており,嚢胞壁は扁平細胞で被覆され,間質にはリンパ濾胞を認め,lymphoepithelial cystと診断された.Lymphoepithelial cystは良性疾患で,診断がついた場合は経過観察が可能と考えられている.しかし画像検査による術前診断は困難とされ,ほとんどの症例で手術が行われきている.最近海外ではEUS-FNAにより扁平細胞とリンパ球を検出することで診断した報告がみられるが,本邦では嚢胞性病変に対しての穿刺検査はまだ一般化しているとはいい難い.本疾患は男性に多い(男性/女性は9/1~4/1とされる)ことから,女性ではさらに診断が困難と考えられた.