日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.膵動静脈奇形による消化管出血に対し、経動脈的コイル塞栓術を施行した一例

JA長野厚生連 佐久総合病院 内科
上條 祐衣、桃井 環、古武 昌幸、若槻 俊之、清水 雄大、比佐 岳史、高松 正人

【症例】60歳代男性。【主訴】腹痛、黒色便。【現病歴】4日間持続する黒色便を主訴に他院受診。上部、下部内視鏡を施行し異常を認めず、当院を紹介受診した。当院にてカプセル内視鏡を行ったが異常はなかった。4か月後に再度黒色便を認めたため、上部下部内視鏡再試行、腹部単純CT、腹部MRIを施行され、当院でカプセル内視鏡を再施行したが異常を認めなかった。膵管胆道からの出血除外のため、超音波内視鏡目的に当科へ紹介された。超音波内視鏡で膵頭部に蛇行する拡張血管の集簇を認め、膵動静脈奇形が疑われた。腹部造影CTでは、肝動脈-門脈短絡が疑われたため、血管造影を施行した。血管造影では、上腸間膜動脈造影で下膵十二指腸動脈から細動脈を介して、門脈への短絡路を認めた。さらに腹腔動脈造影では、胃十二指腸動脈、後上十二指腸動脈、胆管周囲動脈叢から細動脈を介して門脈への短絡路を認めた。胃十二指腸動脈が出血責任血管である可能性が高いと判断し、胃十二指腸動脈のコイル塞栓術を施行した。塞栓後の総肝動動脈造影では短絡路の造影残存を認めた。術後の腹部超音波にて、膵頭部にドプラで血流シグナルを認める分葉状無エコー域が指摘され、肝動脈-門脈短絡残存を認めた。今後再出血する可能性はあるが、塞栓による虚血性臓器障害を考慮し、追加のコイル塞栓術は施行せず退院とした。1か月後の外来診察で、活動性出血を示唆する所見を認めなかったが、腹痛の持続を認めた。【考察】膵動静脈奇形は消化管出血の原因として、まれではあるが、時に致命的な出血を起こす。本症例では、上部、下部内視鏡とカプセル内視鏡検査で出血源が不明であった消化管出血に対し、超音波内視鏡、腹部造影CTで膵動静脈奇形と診断、経動脈的コイル塞栓術を行った。一定の止血効果が得られたが、腹痛が残存し、治療法の選択には検討が必要と考えられた。【結語】まれな膵動静脈奇形による消化管出血の例を経験したので、若干の文献的考察も加え報告する。