日本消化器内視鏡学会甲信越支部

22.胃内出血を来した自己免疫性膵炎の1例

安曇野赤十字病院 消化器内科
樋口 和男、須藤 貴森、望月 太郎、一條 哲也

胃内出血を来した自己免疫性膵炎の1例症例は74歳男性。2003年頃から、検診腹部エコー検査(US)で脾臓の異常を指摘されていた。2006年人間ドックUSで脾腫瘍を疑われ、2006年2月20日に他院を受診した。血清アミラーゼ(以下Amy) 136・膵Amy 106と軽度高値を認め、造影CTで膵体尾部周囲の液体貯留と同部から連続し脾を取り囲むような仮性嚢胞様の被膜下液体貯留を認め、2006年3月17日当科紹介受診した。来院時Amy 217と上昇も、CRP・血算・腫瘍マーカー等も正常で禁酒指示し、カモスタットメシル酸塩(以下FOY錠)等の内服加療継続となった。2006年3月27日上部消化管内視鏡検査(以下EGD)で、胃体上部大彎に、粘膜充血・腫脹を認めた。2006年12月10日より黒色便出現し、動悸も出現したため、12月19日当院受診。EGDで同部の腫大した襞上のびらんより湧出性出血を認め、止血処置を行ない入院、禁酒を指示した。以後、数年間経過良好で、2010年、2011年のEGDでも異常を認めなかった。2011年からは飲酒再開し、FOY錠内服も終了とした。2012年11月頃より心窩部痛が出現。12月12日Amy、CRPは正常も、膵Amy 62と軽度高値であり、CT所見とあわせ慢性膵炎の急性増悪と診断し、禁酒とFOY錠の内服を再開した。しかし2013年2月14日夕、心窩部痛再度増悪し入院した。EGDで、同部位の襞は腫大し・充血していたが、出血は軽微であった。血清IgG 2245・IgG4 156で、ERP像で膵尾部の狭窄、PETで膵尾部から脾門部にわたる中等度の集積像を認めた。以上より自己免疫性膵炎と診断し、3月16日よりプレドニゾロン(PSL)治療を開始し、改善あり退院、PSL漸減し治療継続していた。2013年4月12日、黒色便・息切れを主訴に外来受診。著明な貧血あり、EGDにて同部に湧出性出血認め止血処置行い入院した。病変周囲の生検組織所見では、背景間質はIgG4染色陽性で、IgG4陽性形質細胞も少数認められた。以後現在まで、膵炎・出血とも経過良好である。自己免疫性膵炎による慢性炎症の波及から、7年前より同様の部位に胃びらんの再燃を繰り返し、出血を来したと考えられ、自己免疫性膵炎の合併症として貴重と考え報告する。