日本消化器内視鏡学会甲信越支部

20.皮下結節性脂肪壊死を合併した慢性膵炎の1例

長岡中央綜合病院 内科
盛田 景介、吉川 明、富所 隆、佐藤 知巳、渡辺 庄治、福原 康夫、佐藤 明人、堂森 浩二、中島 尚

【はじめに】皮下結節性脂肪壊死は、膵疾患に伴う稀な疾患であり、四肢に好発する軟性皮下結節として見られる。今回我々は皮下結節性脂肪壊死を合併したアルコール性慢性膵炎の1例を経験したので報告する。【症例】65歳男性。平成25年5月3日に急性膵炎にて当科へ入院、保存的治療で軽快した。以降は外来通院していたが、8月中旬より食欲不振、上腹部痛を自覚し、8月20日に当科を受診。血液、画像検査所見より膵炎の再発と診断、同日当科へ入院した。絶飲食、大量輸液、抗生物質、蛋白分解酵素阻害薬等で治療を開始し、腹痛は一時軽快傾向であったが、8月24日頃より血中アミラーゼの再上昇傾向を認めた。9月1日頃からは両下腿に有痛性の浸潤性紅斑が出現し、次第に増加、増大傾向を認めた。皮膚生検を行い、皮下結節性脂肪壊死の診断を得た。MRCPで膵管狭窄が高アミラーゼ血症の原因と考えられたため、9月2日に膵管ドレナージ目的のERCPを施行。主乳頭からのアプローチは主膵管の屈曲、狭窄が強く困難であったため、副乳頭よりERPDチューブを留置した。以降は血液検査で改善が見られ、皮膚病変も軽快傾向を認めたため、9月21日に退院した。【考察】皮下結節性脂肪壊死症は下腿に好発する有痛性ないし無症候性の皮下結節で、膵炎や膵腫瘍によって逸脱した膵酵素が皮下脂肪に作用して脂肪壊死を生じ、皮下脂肪織炎を生じると考えられている。一般的には膵疾患に準じた治療をすることで皮疹の軽快をみることが多く、今回の症例もステントを留置し膵管のドレナージを行ったことが奏功した。腹部症状が見られず皮膚症状のみの症例、皮膚症状が先行する症例が比較的多いことから背景にある膵疾患の診断、治療が遅れ予後が悪化する可能性がある。皮下結節性脂肪壊死は、いまだ発症機序も不明で日常臨床で遭遇する機会は少ないが、潜在する膵疾患の早期診断のためにも、膵疾患の皮膚病変として念頭に置くべきであると考える。