症例は39歳男性。主訴は吐血。既往歴では1年前に検診にて胃静脈瘤を指摘されている。家族歴に特記事項無し。平成25年3月下旬、微熱、全身倦怠感を主訴に近医内科を受診し感冒と診断された。4月5日に吐血し、前医に搬送され、食道静脈瘤破裂に対しEVLによる止血処置が行われた。CT検査ではBudd-Chiari症候群が疑われ、肝不全を伴っていたため当科紹介となった。身体所見では肝性脳症2度、黄疸、腹部膨満、羽ばたき振戦を認め、血液検査ではPT濃度37%、AST 629 IU/L、ALT 632 IU/L、LDH 782 IU/L、ALP 353 IU/L、T-Bil 6.6 mg/dLと肝機能障害がみられた。EGDを施行したところ食道静脈瘤があり、Ls, F3, Cb, RC1, white plug, Lg-fの所見であった。造影CTでは左右肝静脈と中肝静脈の吻合、中肝静脈血栓、脾腫、門脈側副路、胸腹水を認めた。以上から重症度5のBudd-Chiari症候群と診断し、肝移植の適応と考えた。
生体肝移植の適合者がいないため、脳死肝移植登録を行い、保存的加療を行いながら待機することとした。第6病日に食道静脈瘤が再破裂したためEVLの追加を行ったが、全身状態不良のためこれ以上の処置は行えなかった。基礎疾患については全身状態が不良のため充分な検索は出来なかったが、ループス安置コアグラントや抗カルジオリピン抗体は陰性であった。肝障害は徐々に進行し、第34病日から急激に呼吸状態が悪化し、第45病日に死亡した。本症例は、もともとBudd-Chiari症候群があり、左右肝静脈は中肝静脈に吻合し、中肝静脈が唯一の肝の排出静脈として機能していたものが、血栓による閉塞が合併したことで急性肝不全に陥ったと考えられた。本症例と同様に肝静脈完全閉塞により急性肝不全をきたした症例は検索した範囲では5例報告されているのみであり、稀な病態と考えられ文献的考察を加え報告する。