日本消化器内視鏡学会甲信越支部

10.繰り返す腹痛発作と肝機能異常が診断の契機となった赤芽球性プロトポルフィリン症の親子例

信州大学医学部 消化器内科
杉浦 亜弓、小松 通治、柴田 壮一郎、木村 岳史、森田 進、梅村 武司、田中 榮司
信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部
古庄 知己

症例1は20代男性。幼少期より日光過敏症を認め、10代後半に原因不明の腹痛発作を繰り返していた。同時に肝機能異常を認め,入院精査の結果赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP)を疑われた。遺伝子検索を行ったところフェロキラターゼ(FEHC)遺伝子変異を認めEPPの確定診断に至った。異常であった肝機能検査値はUDCAとラクツロース製剤の内服により基準値内となった。症例2は50代女性で症例1の母親。幼少期に日光過敏症があったが20代の妊娠を契機に症状は落ち着いていた。40代で糖尿病を指摘され食事療法で治療されていた。EPPは常染色体優性遺伝疾患であることより遺伝子検査を行ったところ、同一の遺伝子変異を認めた。γ-GTPの上昇を認めたため肝生検を行い、組織中にわずかにポルフィリンの沈着を認めた。尚、家族調査では症例1の兄弟に遺伝子変異は認めなかった。EPP症状の出現程度は様々であり、発作時にはブドウ糖の大量補液が有効であるが肝不全例は予後不良である。本年8月より本邦でも発作時に投与するヘミン製剤が発売されたが、慢性期の治療法に関しては未だ確立されていない。また症例2において糖尿病が腹痛発作や肝機能異常の症状を軽減させた可能性も考えられた。本2症例はEPPの経過や治療法を考える上で示唆に富む症例と考えられたので文献的考察を加え報告する。