日本消化器内視鏡学会甲信越支部

27.術前診断に苦慮した膵神経内分泌腫瘍の1例

長野市民病院 消化器内科
多田井敏治、岩谷勇吾、関亜矢子、越知泰英、長谷部修
長野市民病院 消化器外科
伊藤哲也、成本壮一
長野市民病院 臨床病理診断科
原悦雄、保坂典子

 症例は69歳男性。人間ドックの腹部超音波検査で膵頭部腫瘤が疑われた。同院のCTで膵頭部に15-20mm程の腫瘍を指摘され、精査のため当科紹介となった。肥満と糖尿病を認め、CEAは6.0ng/mlと軽度上昇していた。単純CTで膵頭部に20mmほどの結節性病変を認め、造影CTでは辺縁が著明な早期濃染を示し、中心部は緩徐な濃染を呈していた。その他、転移や播種を疑う病変は認めなかった。MRIではT1およびT2強調で低信号、拡散強調にて淡い高信号を呈していた。MRCPでは、膵管および胆管に明らかな異常を認めなかった。体外式腹部超音波検査では、膵頭部腫瘤は境界明瞭、辺縁はほぼ整で、内部は低エコーでやや不均一であった。パワードップラーでは血流シグナルを認めなかった。各種画像検査で診断に至らなかったため、膵頭部病変に対しEUS-FNAを施行したが、腫瘤が非常に硬く、十分な検体量が得られず確定診断に至らなかった。いずれも典型所見ではないが、神経内分泌腫瘍、SPNなどを疑い膵頭十二指腸切除術を行った。手術標本の病理組織学的所見では、腫瘍中心に密な線維化で置換された領域を認め、硬化した線維間質を背景に腫瘍細胞が胞巣状、索状形態をとって増殖していた。免疫染色では、クロモグラニンA陽性でKi-67は陽性細胞がごくわずかであり、神経内分泌腫瘍 Grade 1 と診断した。また、免疫染色でグルカゴン陽性細胞が一部のみであったことと、術後経過で糖尿病が悪化したため、非機能性神経内分泌腫瘍と診断した。医学中央雑誌の検索では、間質の線維化を伴った膵内分泌腫瘍の報告は3例と稀であるため、若干の文献的考察を加えて報告する。