日本消化器内視鏡学会甲信越支部

23.パラチフスの1例

丸子中央総合病院
中島恒夫、沖山葉子、松澤賢治、加藤裕子、佐々木裕三、丸山和敏、勝山努

 症例は50歳台女性。2012年11月にインドを旅行。旅行中に激しい下痢を認めていた。下痢は軽快して帰国したが、食欲不振と40度前後の高熱が続き、12月10日に当院を受診。同12日に精査加療目的で入院した。
 入院時現症として、体温38.9度、血圧140/84mmHg、脈拍数65回/分、発疹を認めず、腹部にも異常所見を認めなかった。入院時血液検査でWBC 6400、CRP 10.4、T.bil 0.4、AST 86、ALT 62、BUN 10.4、Cr 0.61、Na 128、K 3.9、Cl 94だった。肝炎ウイルスは、A型、B型、C型いずれも陰性だった。腹部CT検査では、小腸浮腫、脾腫、右結腸動脈周囲リンパ節腫脹を認めた。上部消化管内視鏡検査では、幽門輪近傍にびらんを認めた。大腸内視鏡検査では、回盲弁は腫大し、盲腸に円形潰瘍が散在していた。回腸に内視鏡を挿入することはできなかった。潰瘍部からの生検では、杯細胞は減少し、粘膜固有層に炎症性細胞浸潤を認め、陰窩膿瘍を散見した。陰窩膿瘍周囲には、肉芽腫様のマクロファージの集簇を認めた。便培養では、下痢の起炎菌を特定できなかった。なお、入院時の血液培養で、Salmonella paratyphii typeAが検出された。
 入院後、FOM、CLDM、MEPMを投与したが解熱しなかった。確定診断後の第8病日からLVFX(内服)を開始したが、解熱しなかったため、第9病日からCPFX(点滴投与)に変更し、軽快した。
 パラチフス感染症の報告は少ないため、内視鏡所見および病理組織所見、診療経過、届出方法について、若干の文献的考察を加えて報告する。