日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.バルーン内視鏡による術前観察を行った成人発症の内翻性Meckel憩室による腸重積の1例

長野中央病院 消化器内科
田代興一、小島英吾
長野中央病院 外科
小林奈津子、松村真生子、壇原哲也
長野中央病院 病理科
大野順弘

 症例は70代女性.腹部膨満感で複数の医療機関を受診したが原因の特定に至らず,2カ月しても改善しないため当科を受診した.既往に卵巣嚢腫手術があった.Hb 10.8 g/dLの鉄欠乏性貧血と,便潜血陽性認めた.上下部内視鏡検査では原因となる異常所見を認めなかった.CT検査では,回腸に厚い被膜に覆われた脂肪濃度の腫瘤を先進部とした腸重積を認めた.ガストログラフィン小腸造影を行ったところ,腸重積の先進部は平滑な腫瘤として描出された.経肛門的シングルバルーン小腸内視鏡検査を施行したところ,Bauhin弁より約80 cmの回腸に発赤した平滑な腫瘤を認めた.腫瘤の表面は腫大した不整のないvilliで覆われていた.腹腔鏡補助にて,回腸部分切除術を行った.切除標本では,回腸に辺縁平滑な20×70 mmの陰茎様腫瘤を認めた.腫瘤は肥厚した固有筋層と漿膜を伴う全層性の憩室の内翻で,異所性胃粘膜及び異所性膵組織を認め,Meckel憩室内翻による腸重積と診断した.憩室の漿膜下には厚い脂肪組織を認めた.Meckel憩室は発生上腸間膜とは対側にあり,腸間膜脂肪織とは連続性がないが,翻転により重積した症例では豊富な脂肪組織を認め,CTなどの画像診断では術前に脂肪腫と診断されることが多い.本邦及び海外を含め,内視鏡により翻転したMeckel憩室を観察した報告は少なく,ほとんどが術前診断に至っていない.ポリペクトミーが行われ,医原性の穿孔を来した症例報告もあった.粘膜下腫瘍とMeckel憩室の鑑別は重要であるが,内視鏡的観察でも鑑別が困難であり,治療方針には慎重な検討が必要であると考えられた.