日本消化器内視鏡学会甲信越支部

20.十二指腸原発印環細胞癌の一例

山梨大学医学部第一内科
田中佳祐、中岫奈津子、浅川幸子、末木良太、小馬瀬一樹、植竹智義、大高雅彦、佐藤 公、榎本信幸

 症例は86歳女性. 既往症は70歳時より高血圧, 高脂血症, 84歳時に逆流性食道炎指摘されている. 高血圧, 高脂血症, 逆流性食道炎のため近医通院し, 毎年上部消化管内視鏡検査行われていた. H22年上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚, 乳頭対側にびらん性病変が認められた. H23年同部は浅い陥凹を伴っており, 生検行われたが炎症の診断であった. H24年10月の上部消化管内視鏡検査で, 同部は増大し, 陥凹, 周堤を伴っていたため精査加療目的でH25年当院紹介受診. 血液生化学検査では異常認められず, CEA, CA19-9は正常範囲内であった. 上部消化管造影では十二指腸下行脚に側面変形を伴う直径20mm大の中心陥凹を有する隆起性病変として描出された. 当院で再度上部消化管内視鏡検査行われたところ, 直視鏡観察では同病変は健常粘膜に被われ, 頂部に陥凹を伴う半球状の隆起性病変として観察された. さらに側視鏡下では白苔付着を伴う陥凹と, 発赤した周堤を有する2型病変として観察された. 同部の生検では間質に偏在性核を有する細胞や核異型, 核分裂像認められ, 十二指腸印環細胞型の診断に至った. PAS-Alcian blue染色で細胞質内粘液の存在が確認された. また造影CT検査で同病変は, 遅延相で造影効果を有する限局性壁肥厚として描出され, 明らかな遠隔転移, リンパ節転移はなく, その他悪性腫瘍を疑わせる所見もなかった. 以上より十二指腸原発の印環細胞癌の診断に至った. その後当院外科にて幽門温存膵頭十二指腸切除, 所属リンパ節 (#8p, #8a, #17)郭清術行われた. 十二指腸癌は消化器悪性腫瘍の0.36%と言われ, 組織学的内訳は高分化腺癌が最も多く, 次いで乳頭腺癌とされ, 低分化腺癌や印環細胞癌は少数と報告されている. 十二指腸原発印環細胞癌はまれな症例であり, 若干の文献的考察を加えて報告する.