日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.十二指腸の粘膜癌に対する治療戦略に関する考察 ~ESDから外科的全層切除へ切り替えた1症例~

新潟市民病院 消化器内科、消化器外科
米山靖、古川浩一、桑原史郎

 十二指腸は内視鏡操作性が悪く、壁の薄さや粘膜下層の繊維が多いことにより切開・剥離操作が困難で術中穿孔を生じやすく、加えて膵液・胆汁の暴露に伴う遅発性の出血や穿孔のリスクが高い臓器であり、ESDを禁忌としている施設もある。治療適応となる十二指腸腫瘍が発見される頻度は胃や食道・大腸と比較すればごく低いが、実際に遭遇した場合には治療方法の選択で悩むことが多く、内視鏡的切除を行った場合における術後の偶発症対策を含めた管理方法に関しては種々の報告はあるが確立されたものが無いのが現状である。必要充分なcut marginを確保しつつ最も低侵襲な切除法としての十二指腸ESD手技の確立を目標としたいが、合併症の頻度と重症度のため外科のバックアップ体制が必要不可欠である。今回我々は外科とのコラボレーションによって術後合併症を生ずること無く必要最小限の範囲で全層切除した十二指腸癌を1例経験した。今後の治療方法を考える上で一つのヒントとなると考えたので報告する。症例は70代の女性。十二指腸下行脚、主乳頭の対側で襞に股がる約2/5周の横長の高異型度腺腫を認めた。手技的困難が予測されたので、全身麻酔下・腹腔鏡待機下にESDで治療開始し穿孔を生じた際にはすぐに外科的治療に切り替えるという方針をたてた。予想通り手技は困難を極め剥離途中の出血を止める際に小穿孔を生じた。直ちに開腹術に切り替えて内視鏡の切開線に沿って全層で病変を切除し根治を得た。安全・確実かつ低侵襲な治療として内視鏡医と外科医のコラボレーションによる切除法も今後は選択肢の一つに成りうると考えた。