日本消化器内視鏡学会甲信越支部

17.十二指腸潰瘍が肝嚢胞内に穿通した1例

市立甲府病院
早川宏、津久井雄也、石田泰章、早川宏、小林祥司、門倉信、山口達也、雨宮史武、大塚博之

 症例は69歳の男性で、10年以上前に健康診断で行った腹部超音波検査で肝嚢胞を指摘されたことがあった。2013年2月上旬に嘔吐症状と食欲低下が出現した。2月下旬に食事摂取不良と全身倦怠感を主訴に救急隊を要請し、当院へ救急搬送となった。腹部に圧痛はなく、血液検査で白血球 22500/μL、CRP 10.6mg/dLと炎症反応の上昇があり、Hb 4.1g/dL、Alb 1.5g/dLと著明な貧血と低栄養を認めた。造影CT検査では胃前庭部の腹側に十二指腸と交通のあるAirを含む膿瘍腔を認めた。上部消化管造影検査、上部消化管内視鏡検査を行うと十二指腸球部前面に潰瘍があり、膿瘍腔との瘻孔が確認できた。肝内には嚢胞が多発しており、被包化された膿瘍腔の壁が肝実質と連続性があることから、十二指腸潰瘍の肝嚢胞内穿通と診断した。腹膜刺激症状もないことから絶飲食・制酸剤投与を行い、保存的に治療を開始した。徐々に潰瘍と瘻孔が縮小し、第19病日に瘻孔は完全に閉鎖し、穿通した嚢胞も縮小傾向となった。食事摂取を開始し、増悪ないことを確認し、第27病日に退院となった。十二指腸潰瘍の肝嚢胞内穿通は比較的稀であり、治療法は外科治療が選択されることも多い。今回保存的に治癒が可能であった症例を経験したので十二指腸潰瘍の肝嚢胞内穿通について若干の文献的考察を加え報告する。