日本消化器内視鏡学会甲信越支部

11.生検組織診断に苦慮した低異型度分化型SM胃癌の1例

佐久総合病院胃腸科
若槻俊之 小山恒男 宮田佳典 友利彰寿 高橋亜紀子 篠原知明1 岸埜高明 竹内結

 症例は40歳代、男性。EGDにて体下部前壁に0-IIc+IIa病変を認め、生検ではGroup1であったが、早期胃癌(EGC)疑いとして紹介された。病変は15mm大の不整形発赤陥凹で、IC散布で陥凹境界は明瞭であった。厚みがあり、襞の癒合を伴うことからEGC、cT1b(SM)と診断した。NBI拡大では辺縁隆起の途中から大小不同のpit様構造を認め、一部境界は明瞭で、陥凹内部には軽度走行不整を伴う血管が観察された。病変境界部より2ヶ生検したが、腺窩上皮と胃底腺、幽門腺を認め、Group 1と診断された。2週間後に施行したEUSでは2/5層の肥厚像を認め、深達度はSM massiveと診断した。その際、生検を5ヶ採取したが、前回同様の所見でGroup2と診断された。そこで消化器専門病理医に相談したところ、低異型度分化型腺癌と診断され、腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した。組織学的には陥凹部に一致した低異型度分化型癌で、特に表層部では構造異型、核異型が低かった。また、胃底腺、幽門腺への分化も認め、周囲の正常腺管と非常に似通った構造を呈していた。最終病理診断はEGC、tub1、pT1b(SM2)、type 0-IIc、18×8mm、ly0、v0、pN0であった。腫瘍腺管が表層では腺窩上皮に、深部では胃底腺、幽門腺に分化しており、異型が非常に弱かったことが生検診断を困難にした要因と思われた。再度、生検標本を振り返ると前医生検からすべてに腫瘍腺管が認められた。本例は内視鏡的には高分化型癌の所見を読み取れたが、生検では異型度が低く、正診が困難であった。本症例のように内視鏡診断で悪性腫瘍を強く疑った場合は診断を追求する心構えが大切である。