日本消化器内視鏡学会甲信越支部

10.初期内視鏡像が確認された食道悪性黒色腫の1例

長野赤十字病院 消化器内科
田中景子 清澤研道 和田秀一 松田至晃 森宏光1 藤澤亨1 三枝久能 今井隆二郎1徳竹康二郎

 症例は50歳代女性。2012年8月ごろより食事のつかえ感があり、体重が半年間で約10kg減少した。精査加療目的に2012年12月当院当科を受診。受診時身体所見に異常を認めなかったが、血液検査所見にて腫瘍マーカー(SCC)が3.1 ng/mlと軽度上昇していた。上部消化管内視鏡を施行したところ、胸部下部食道右側から後壁に管腔全体を占める亜有茎性の隆起性病変を認めた。隆起の立ち上がりは暗紫色の平滑な粘膜で覆われ、隆起表面は凹凸不整で、出血、壊死物質、白苔を認めた。また、隆起肛門側に点状のメラノ―シスと隆起近傍に小さな半球状隆起を伴っていた。隆起部の生検組織像では、腫大濃染核を有する異形細胞の集塊を認め、免疫組織染色で、LCA(-)、S-100(-)、HMB45(+)、keratin(-)であり、悪性黒色腫と診断した。胸部造影CTでは、胸部下部食道に48×35mm大の充実性腫瘤と、左胃動脈周囲にリンパ節腫大を認め、PET-CTでも同部位に異常集積を認めた。他科診で食道以外の原発巣を指摘されず、以上より、食道原発の悪性黒色腫と診断した。本例は、当院を受診する約1年半前に他院にて人間ドックの上部消化管内視鏡を施行、胸部下部食道の同部位に20mm大のまだらな黒色斑を指摘。生検は施行されなかったが、厳重な経過観察を指示されていた。現在、他院で手術療法目的に加療中である。食道悪性黒色腫は、全食道悪性腫瘍の0.1~0.2%と非常に稀であり、進行が非常に速いとされている。また、初期内視鏡像は不明とされているが、平坦型の報告が散見される。本例は、食道悪性黒色腫の初期内視鏡所見を確認でき、経過観察し得た稀な症例と考え報告する。