日本消化器内視鏡学会甲信越支部

5.興味深い内視鏡像を呈した熱傷に伴うenterocolitisの1例

新潟大学医歯学総合病院 大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
高橋一也、橋本哲、佐藤健、早川雅人、高村昌昭、佐藤祐一、小林正明、成澤林太郎、青柳豊
新潟大学医歯学総合病院 大学院医歯学総合研究科 分子・診断病理学分野
渡辺玄、味岡洋一

 症例:24歳男性 既往歴・家族歴:特記事項なし 現病歴:平成24年4月に熱湯状態の温泉に誤って落下し当院救急外来へ搬送され、浅達性2度熱傷80%と診断された。第6病日に敗血症性ショックやDIC、呼吸不全を合併したが、集学的治療により全身状態は改善した。第14病日より800ml/日程度の水様便、腹痛が出現。便中CD toxinは陰性で便培養検査では有意菌は認められなかったが、第23病日には8l/日まで下痢は増悪した。第26病日にCTを施行し、小腸および大腸全体の浮腫状肥厚を認め、同日当科を受診。第32病日に大腸内視鏡検査(TCS)を施行。終末回腸から直腸S状部まで血管透見の低下した発赤・浮腫状粘膜を認め、腺開口部は著明に開大していた。同部位の生検では、粘膜は間質に慢性炎症細胞浸潤を伴う再生上皮で、血管内皮細胞に核内封入体を認めた。血中サイトメガロウイルス(CMV)抗原は2+であった(第37病日)。本症例の腸炎像はCMV腸炎としては非典型的であり、本症例のenterocolitisは広範熱傷を誘因としたSIRSに伴う病態が深く関与しているものと考えた。間質性腎炎の合併があり、ステロイドパルス療法が施行され、その後水溶性プレドニン40mgで維持療法を行った。ステロイド治療開始後、下痢は速やかに軽快し、第47病日に施行したTCSでは粘膜の浮腫状変化は改善傾向であった。第85病日に退院し、症状の再燃なく経過良好であった。退院2ヵ月後のTCSでは浮腫状粘膜は消失し、血管透見は改善していた。医学中央雑誌で検索した限り熱傷に伴うenterocolitisの内視鏡所見についての報告はなく、本症例は貴重な症例と考えられた。