日本消化器内視鏡学会甲信越支部

57.H.pylori除菌療法により退縮した直腸原発MALTリンパ腫の1例

山梨大学 医学部 第一内科
倉富 夏彦、末木 良太、加藤  亮、吉田 貴史、小馬瀬一樹、植竹 智義、大高 雅彦、佐藤  公、榎本 信幸

症例は58歳女性。2011年12月下旬から持続する血便を主訴に、2012年1月、当科初診。下部消化管内視鏡検査では、直腸Rbに35mm大の表面平滑で立ち上がりの急峻な隆起性腫瘍を認めた。拡大NBI観察で表面粘膜に口径不同な異常血管の増生が見られ、超音波内視鏡で腫瘍内部は比較的均一な低エコーとして描出、粘膜層構造は2、3層の肥厚が認められ、粘膜下腫瘍と考えられた。病理組織学的検査では小型から中型の異型リンパ球浸潤や、Lymphoepithelial  lesionを認め、免疫染色はCD20+、CD79+、CD10-、CD56-、cyclinD1-でB細胞性リンパ腫、特にMALTリンパ腫のパターンが確認された。上部消化管内視鏡検査および造影CT、PET、ガリウムシンチ、骨髄穿刺を行ったが、直腸以外に病変部位を認めなかった。以上よりLugano国際会議分類  StageIの直腸MALTリンパ腫と診断した。治療方針決定のために検索したG-bandingは分裂中期の細胞が得られず解析不能であり、FISH法ではAPI2-MALT1の変異を認めなかった。尿素呼気試験、抗H.pylori抗体ともに陽性、胃粘膜生検検体中にもH.pyloriを認め、H.pylori陽性のMALTリンパ腫として、十分な説明と同意の上、H.pylori1次除菌療法を行った。除菌成功後2ヶ月でのCTおよび下部消化管内視鏡で腫瘍の消退が確認された。大腸MALTリンパ腫は大腸原発悪性リンパ腫のひとつに分類されるが、消化管原発悪性リンパ腫の中でも頻度は少ないとされている。自然史、長期予後や治療法は十分には明らかでないが、胃MALTリンパ腫と同様に、H.pylori除菌療法の有効性が報告されている。今回我々はH.pylori除菌療法により著明な退縮を認めた直腸MALTリンパ腫の1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。